第19話 「最後の選択」
Dr.ヴォイドのアジト、最深部。
虚月博士は、一枚の写真を見つめていた。若い頃の自分と、小さな青い鳥のギアが写っている。
「シエル……」
ガチャン!
扉が勢いよく開いた。
「ヴォイドー! いるかー!」
翔太が元気よく飛び込んでくる。後ろには仲間たちがぞろぞろ。
「ちょ、翔太! 勝手に入るなって!」
レイナが慌てて注意する。
「いいじゃん! ノックはしたし!」
「してないでしょ!」
Dr.ヴォイドは呆然と侵入者たちを見つめた。
「君たち……なぜここが」
「ゼロが教えてくれた!」
翔太が親指を立てる。後ろでレンが気まずそうに手を挙げた。
「すまん……場所聞かれて、つい」
「裏切り者め……」
Dr.ヴォイドがガックリ肩を落とす。
「で、何しに来た?」
「ギアを元に戻す方法、教えて!」
単刀直入な翔太。Dr.ヴォイドは首を横に振った。
「無理だ。ギア・ゼロとの戦いで、コアが深刻なダメージを……」
「じゃあ直せばいいじゃん」
「簡単に言うな!」
Dr.ヴォイドが叫ぶ。
「ギアのコアは繊細で複雑で……そもそも私にも完全には理解できていない!」
「え、作ったのに?」
「作ったけど、よく分からん!」
開き直った。
その時、中央の機械がピーピー鳴り始めた。
「なんだ?」
モニターに警告が表示される。
『警告:古代ギア覚醒まで、あと30分』
「は?」
みんなが画面を見つめる。
「古代ギアって何?」
「あー……」
Dr.ヴォイドは頭を抱えた。
「実は、ギア・ゼロの中に封印されてた、千年前のギアがいてな」
「千年前!?」
「私がギア・ゼロを解析してたら、うっかり封印を解いてしまったのだ」
「うっかりで!?」
レイナが突っ込む。
「しかも、そいつは人間を恨んでるらしくてな……」
「最悪じゃん!」
ショウが叫んだ。
『警告:古代ギア覚醒まで、あと25分』
カウントダウンが進む。
「ど、どうすんだよ!」
「知らん!」
Dr.ヴォイドが逆ギレした。
「私だって困ってるんだ! シエルもいないし!」
そう言って、また写真を見つめる。
「シエルって、その写真のギア?」
翔太が覗き込んだ。青い小鳥の愛らしいギアだった。
「ああ。私の最高の相棒だった」
Dr.ヴォイドの声が震える。
「でも十年前、街で事故があってな。ビルが崩れて、子どもが下敷きに……」
「それで?」
「シエルは、私を置いて子どもを助けに行った。そして……消えた」
涙が一粒、こぼれた。
「なんで私じゃなくて、知らない子どもを選んだんだ……」
重い沈黙が流れる。
でも――
「当たり前じゃん」
翔太があっさり言った。
「え?」
「だって、ヴォイドは大人だろ? 子どもの方が助け必要じゃん」
「そ、それは……」
「シエルは、ヴォイドのこと信じてたんだよ。一人でも大丈夫だって」
Dr.ヴォイドは言葉を失った。
そんなこと、考えたこともなかった。
『警告:古代ギア覚醒まで、あと15分』
「やべっ!」
慌てる一同。
その時、機械の奥から声が聞こえた。
『ヴォイド……』
「!?」
みんなが振り返る。
光の中から、小さな青い鳥が現れた。
「シ、シエル!?」
Dr.ヴォイドが駆け寄る。
「なんで……どうして……」
『ずっと、ここにいたよ』
シエルは優しく微笑んだ。
『古代ギアを抑えるために、ギア・ゼロの中で戦ってた』
「十年も!?」
『うん。でも、もう限界』
シエルの姿が薄れていく。
『だから、最後にヴォイドに会いたくて』
「シエル! 消えないでくれ!」
『ごめんね。でも、後悔してない』
シエルは翔太たちを見た。
『この子たちがいれば、大丈夫。ギアと人間は、きっと仲良くできる』
『警告:古代ギア覚醒まで、あと10分』
「どうすればいいんだ!」
Dr.ヴォイドが叫ぶ。
「簡単だ」
翔太が前に出た。
「みんなで力を合わせればいい」
「は?」
「ギアと人間、みんなで協力すれば、きっとなんとかなる!」
根拠はない。でも、翔太の目は真剣だった。
「……バカバカしい」
Dr.ヴォイドはつぶやいた。でも――
「だが、試す価値はあるか」
白衣を脱ぎ捨て、古びたギア・コアを取り出す。
「これは、シエルとの絆の証。最後の力が残ってるはずだ」
「よし! みんな!」
翔太が叫ぶ。
「ギアを呼ぼう! 心の底から!」
「でも、ギアは……」
「大丈夫! 絶対来てくれる!」
翔太は目を閉じて、思いっきり叫んだ。
「レックスううううう! 助けてくれええええ!」
すると――
『まったく、うるさい脳筋だ』
聞き覚えのある声が響いた。
「レックス!?」
薄っすらとだが、レックスの姿が現れた。他のギアたちも同じように姿を見せ始める。
「来てくれた!」
『当たり前だ。相棒のピンチだからな』
レックスは照れくさそうに言った。
『警告:古代ギア覚醒まで、あと5分』
「急げ!」
全員で機械を囲む。ギアと人間、そしてDr.ヴォイドとシエルも。
「せーの!」
みんなの力が一つになった瞬間――
ドカーン!
大爆発が起きた。
「うわあああ!」
煙が晴れると、そこには――
小さな、白いモフモフしたギアが浮いていた。
「……ふわあ」
古代ギアは、大きなあくびをした。
「あれ? もう千年経った?」
全然恐ろしくなかった。むしろ可愛い。
「えーと……」
翔太が恐る恐る話しかける。
「人間、恨んでるんじゃ……」
「え? 別に?」
古代ギアはキョトンとした。
「ただ寝てただけだけど」
「じゃあ、なんで封印されてたの?」
「寝相が悪くて、周りを壊しちゃうから」
理由がしょぼかった。
「なーんだ」
みんなの緊張が一気に解けた。
Dr.ヴォイドは、呆然と立ち尽くしている。
「私は……何を恐れていたんだ……」
「まあ、そういうこともあるって」
翔太がポンと肩を叩いた。
気がつけば、ギアたちの姿もはっきりしてきていた。
みんなで力を合わせたことで、コアが回復し始めたのだ。
「やった!」
歓声が上がる中、Dr.ヴォイドとシエルは静かに向き合っていた。
「シエル……ごめん」
『ううん。おかえり、ヴォイド』
十年ぶりの、本当の再会だった。
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