第18話 「父さんからの手紙」
ガチャッ。
夜十時、玄関のドアが開いた。
「泥棒!?」
翔太は慌ててバットを持って階段を降りた。一応、少年野球をやっていたので、それなりに戦えるはず……。
「翔太? なんでバット持ってるんだ?」
見ると、そこに立っていたのは――
「とーさん!?」
バットを落としそうになった。
天城大樹。三年ぶりに見る父親は、なんかやつれていた。髪もボサボサで、服もヨレヨレ。まるでホームレスみたいだ。
「ただいま」
「お、おう……」
なんて言えばいいか分からない翔太。
すると、母さんが台所から出てきた。
「あら、あなた」
めっちゃ冷静だった。
「ちょうどいいわ。ゴミ出し手伝って」
「え? 今?」
「今よ」
父さんは大きなスーツケースを置いて、素直にゴミ袋を持った。三年ぶりの再会が、ゴミ出しである。
リビングに集まった家族。ユイはもう寝ていた。
「で? なんで帰ってきたの?」
母さんの目が怖い。
「あー、その……」
父さんはゴソゴソと鞄を漁り始めた。そして、古い写真を取り出す。
「実は俺、昔ギアの研究してたんだ」
「は?」
翔太は目を丸くした。
「マジで!?」
「ああ。つーか、レックスは俺が作った」
「はあああああ!?」
翔太は椅子から転げ落ちた。
「ちょ、どういうこと!?」
父さんは頭をポリポリ掻きながら説明を始めた。
「十五年前、俺たちは実験でギアに心を持たせることに成功した。最初に生まれたのが、ブレイズ・レックス」
「レックスが一号機!?」
「そう。でも、レックスは賢すぎた」
父さんの顔が曇る。
「ある日、レックスに聞かれたんだ。『僕は何のために生まれたの?』って」
「……」
「俺は答えられなかった。だって、実験のためだなんて言えないだろ?」
父さんは深いため息をついた。
「それで、怖くなって逃げた。研究所も、家族も、全部置いて」
「最低じゃん」
翔太の直球に、父さんはうなだれた。
「ごめん……」
でも母さんは優しく父さんの手を握った。
「まあ、あなたらしいわね」
「美咲……」
「でも、もう逃げないでね」
なんだかんだで仲良し夫婦だった。
「あ、そうだ」
父さんは封筒を取り出した。
「これ、預かってきた」
封筒には焦げ跡がついていた。見覚えがある。レックスの炎だ。
「レックスから!?」
翔太は震える手で封筒を開けた。
『翔太へ
元気か? 宿題ちゃんとやってるか?
お前の父親から話を聞いた。
俺が実験体だったって。
最初はムカついた。
でも、今は感謝してる。
だって、そのおかげでお前に会えたから。
お前との日々は最高だった。
朝寝坊で遅刻しそうになったり、
宿題忘れて怒られたり、
一緒にバカやったり。
全部、計算できない宝物だ。
今は離れてるけど、必ず戻る。
約束だ。
それまで、ちゃんと勉強しろよ。
あと、歯も磨け。虫歯になるぞ。
相棒より』
手紙を読み終えた翔太は――
「ぶわああああああ!」
号泣した。鼻水も出た。
「れ、レックスううううう!」
みっともないくらい泣いた。でも、止まらなかった。
レックスの優しさが、ツンデレな愛情が、痛いほど伝わってきたから。
「しょ、翔太……」
父さんがオロオロする。
「ティッシュ! ティッシュ!」
「はい」
母さんが差し出したティッシュで、翔太は豪快に鼻をかんだ。
ブーッ!
「レックス……バカヤロー……」
涙を拭きながら、翔太は笑った。
「歯磨きとか、お前が言うなよ……」
父さんが翔太の頭を撫でた。
「翔太、ありがとうな」
「え?」
「レックスを、幸せにしてくれて」
父さんも泣いていた。
「俺にはできなかったことを、お前がやってくれた」
「父さん……」
家族三人で、抱き合った。
温かかった。
その時、窓の外で何かが光った。
「ん?」
翔太が窓を開けると、小さな光の粒が舞っていた。
まるで、レックスが見守ってくれているみたいに。
「待ってろよ、レックス」
翔太は夜空に向かって叫んだ。
「必ず迎えに行くからな!」
風が吹いて、光の粒が踊った。
返事のように。
――翌日。
学校で、翔太は手紙を何度も読み返していた。
「翔太、また読んでるの?」
レイナが呆れ顔で言う。
「だって、レックスからの手紙だぜ!」
「もう二十回は読んでるでしょ」
「三十二回だ!」
自慢げに言う翔太。
「つーか、お前んとこのギアは?」
ショウが聞いてきた。
「ヴァルキリーもファングも、なんか薄くなってきてさ」
「うちもそう」
ミナも心配そうだ。
みんなのギアは、日に日に存在感が薄れていた。このままだと、また消えてしまうかもしれない。
「大丈夫だ!」
翔太は立ち上がった。
「絶対、みんなを元に戻す方法があるはず!」
「根拠は?」
「勘!」
レイナがため息をついた。でも、その顔は少し安心していた。
翔太の根拠のない自信が、みんなを勇気づけていたから。
「とりあえず、今日も頑張ろうぜ!」
「おう!」
みんなの声が重なった。
手紙を胸ポケットにしまい、翔太は空を見上げた。
もうすぐだ。もうすぐ、また会える。
そんな予感がした。
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