第8話 サクラ参上!元相棒の記憶
月曜日の朝、教室がざわついていた。
「転校生だって!」
「しかも女子らしいぜ!」
男子たちが興奮している中、翔太はレックスと作戦ノートを見ていた。
「ここの動きをもっとスムーズに――」
ガラッ!
教室のドアが勢いよく開いた。
「おっはよー! 転校生の桜井サクラだ!」
ピンクのショートヘアの女の子が、ビシッとポーズを決めて入ってきた。
可愛い見た目とは裏腹に、その立ち姿は武道家のようだった。
「げっ」
クラスの男子の一人が声を漏らした。
「桜井サクラって……まさか『鬼神サクラ』!?」
「鬼神?」
翔太が首を傾げた。
「知らないの? 去年の関東大会優勝者だよ!」
「マジで!?」
山田先生が教室に入ってきた。
「はい、今日から転校生の桜井さんが――」
「先生! 自己紹介は自分でやります!」
サクラが前に出た。
「桜井サクラ! 好きなものは勝利! 嫌いなものは卑怯! 得意技は正拳突き!」
教室がシーンとなった。
「あと、ギア使いです! 相棒は――」
サクラがコアを取り出した。薄いピンク色で、表面に無数の傷がある。
「出てこい! ローズ・ナイト!」
光の中から、優雅な女騎士が現れた。薔薇の装飾の鎧が美しい。
「初めまして、皆様。私はローズ・ナイト」
優雅な一礼に、女子たちから歓声が上がった。
「きれい〜!」
「カッコいい!」
でも、レックスだけは違う反応を示した。
「……二代目か」
ピタリと空気が凍った。
サクラの笑顔が、一瞬で消えた。
「……よく分かったね」
「君の中に、別のギアの残滓を感じる」
教室がざわつき始めた。二代目って何だ? という囁き声。
サクラは拳を握りしめた。
「その話は――」
突然、サクラの目から大粒の涙がポロポロこぼれ始めた。
「うわあああん! チェリー! チェリーナイト〜!」
いきなりの号泣に、クラス中が唖然とした。
「ち、ちょっと!?」
山田先生も慌てる。
「私の初代相棒! チェリー・ナイト! 守って……守って砕けちゃった〜!」
鬼神と呼ばれた少女が、子供のように泣きじゃくっている。
保健室。
サクラは保健室のベッドで鼻をかんでいた。
「ずびばぜん……」(すみません)
「いや、こっちこそ……」
翔太とレックスが申し訳なさそうに立っている。G-COREのメンバーも心配して集まっていた。
「もう大丈夫?」
レイナが優しく声をかける。
「うん……ごめん、『二代目』って言葉に反応しちゃって」
サクラは涙を拭いて、ゆっくりと話し始めた。
「二年前、私とチェリー・ナイトは最強だった」
―― 回想 ――
『行くよ、チェリー!』
『はい! サクラ様!』
赤い鎧の騎士が、剣を振るう。必殺技が決まり、相手が倒れる。
『優勝! 桜井・チェリーペア!』
歓声の中、サクラとチェリーは抱き合って喜んだ。
『やったね、サクラ様!』
『うん! 最高だよ、チェリー!』
しかし、その帰り道――
『きゃあああ!』
小さな女の子が、暴走ギアに襲われていた。
『サクラ様!』
『分かってる!』
二人は迷わず飛び込んだ。激しい戦闘。チェリーは女の子を庇いながら戦った。
そして――
パキィィィン……
『チェ、チェリー!?』
チェリーのコアに、大きなヒビが入っていた。
『サクラ様……女の子は……無事です……』
『そんなことより! チェリー!』
『最後まで……正義を貫けて……幸せでした……』
光になって、消えていくチェリー。
『チェリーーーー!』
―― 回想終了 ――
「それから半年間、何もできなかった」
サクラが震え声で続けた。
「でも、ある日、新しいコアが光って……ローズが生まれた」
ローズ・ナイトが優しくサクラの肩に手を置いた。
「私の中には、チェリーの想いの欠片があります。でも、私は私。チェリーではありません」
「分かってる……分かってるけど……」
サクラがまた泣き始めた。
「うわああん! でもチェリーの必殺技『チェリー・ブロッサム』が使えないの〜!」
「そこかよ!」
翔太が思わずツッコんだ。
「だって! あれ超カッコよかったのに! 桜吹雪がブワーって!」
「泣く理由それ!?」
急にシリアスな空気が崩れた。
「だって必殺技大事じゃん!」
「まあ……そうだけど」
レイナが呆れたように言った。
「てっきり、もっと深刻な理由かと」
「深刻だよ! 必殺技ないと勝てないじゃん!」
「いや、ローズ・ナイトにも必殺技あるでしょ」
「あるけど……薔薇なんだよ? 桜じゃないんだよ?」
「名前的に仕方ないだろ」
ショウが笑い始めた。
「なんや、ただの必殺技マニアやん」
「違う! 正義の味方は必殺技が命なの!」
サクラが立ち上がって、ポーズを取った。
「必殺! 正義の鉄拳!」
ブンブンとシャドーボクシングを始める。
「あれ、元気になってる」
ミナが驚いた。
「単純なのね……」
ルナも呆れ顔だ。
でも、翔太は違った。
「分かる! 必殺技は大事だよな!」
「でしょ!?」
サクラの目が輝いた。
「君、分かってくれる!?」
「当たり前だ! オレも新しい必殺技考えてるんだ! 『スーパーウルトラファイヤー』!」
「ダサい」
レックスが即座に却下した。
「なんだと!?」
「センスがない」
「じゃあ何がいいんだよ!」
「『紅蓮爆炎覇』とか」
「難しすぎて叫べねぇ!」
二人がまた言い合いを始めた。それを見て、サクラがクスクス笑い始めた。
「あはは! 君たち、本当に相棒なんだね」
「「え?」」
「だって、そうやってケンカできるのは、心を許し合ってる証拠じゃん」
サクラはローズ・ナイトを見た。
「私、ローズとまだそこまでいけてない。チェリーの代わりじゃないって分かってるのに……」
ローズ・ナイトが静かに言った。
「サクラ、私は待ちます。貴女が私を『ローズ』として見てくれる日まで」
「ローズ……」
感動的な雰囲気になりかけた時――
ドゴォォン!
窓の外で爆発音がした。
「なんだ!?」
全員が窓に駆け寄る。校庭に、巨大な穴が開いていた。
「暴走ギア!?」
穴から這い出してきたのは、モグラ型の暴走ギア。目が赤く光っている。
「生徒が危ない!」
体育の授業中の一年生たちが、逃げ惑っていた。
「行くぞ、レックス!」
「ああ!」
翔太が飛び出そうとした時――
「待って!」
サクラが前に出た。その目は、もう迷っていなかった。
「私が行く! ローズ!」
「はい!」
二人は窓から飛び出した。一階だったので、着地は問題ない。
「おい、危ないぞ!」
翔太たちも後を追った。
校庭では、暴走モグラが地面を掘り返しながら暴れていた。
「みんな、下がって!」
サクラが一年生たちを守るように立つ。
「ローズ、行けるか!?」
「もちろんです!」
ローズ・ナイトが剣を構えた。
暴走モグラが地中に潜り、次の瞬間、サクラの真下から飛び出してきた!
「くっ!」
間一髪でかわすが、体勢を崩す。
「今だ!」
モグラの爪が、サクラに迫る。
――また、守れないのか。
一瞬、過去の記憶がフラッシュバックした。
でも――
「違う!」
サクラが叫んだ。
「私は逃げない! ローズと一緒に戦う!」
その瞬間、ローズ・ナイトの剣が光り始めた。
「サクラ! 新しい力を感じます!」
「これは……」
二人の心が、完全にシンクロした。
「行くよ、ローズ! 私たちの必殺技!」
「はい!」
ローズが剣を大きく振りかぶる。剣先に、無数の花びらが集まっていく。
薔薇の花びら。そして――桜の花びらも!
「必殺! ローズ・サクラ・ブロッサム!」
薔薇と桜が混ざり合った美しい嵐が、暴走モグラを包み込んだ。
キュイイイイン……
暴走モグラの目から、赤い光が消えていく。正気を取り戻したモグラは、慌てて地中に逃げていった。
「やった……」
サクラが膝をついた。ローズが支える。
「素晴らしかったです、サクラ」
「ローズ……ありがとう」
初めて、心から相棒の名前を呼べた。
翔太たちが駆け寄ってきた。
「すげぇ! 新必殺技じゃん!」
「桜と薔薇のコラボとか最高!」
「でしょ!?」
サクラが得意げに胸を張った。
「これからは『薔薇桜のサクラ』って呼んで!」
「語呂悪っ!」
みんなが笑った。
その時、レイナが提案した。
「ねぇ、サクラ。G-COREに入らない?」
「え?」
「強い仲間は多い方がいいわ」
他のメンバーも頷く。
「おう! 必殺技マニア仲間だ!」
翔太が手を差し出した。
サクラは一瞬驚いて、それから満面の笑みを浮かべた。
「うん! よろしく!」
がっちりと握手を交わす。
ローズ・ナイトも、レックスたちに優雅に一礼した。
「皆様、よろしくお願いします」
「堅苦しいな」
レックスがぼやいたが、まんざらでもなさそうだった。
保健室に戻ると、保健の先生が真っ青な顔をしていた。
「校庭に大穴が! 何があったの!?」
「「「「「さあ?」」」」」
全員がとぼけた。
放課後、G-COREの新メンバーを加えて、さっそく特訓が始まった。
「見て見て! 新しいコンビネーション技!」
サクラとローズが息の合った動きを見せる。
「負けてられるか! オレたちも新技だ!」
翔太とレックスも張り切る。
賑やかになったG-CORE。
でも、この幸せな時間を脅かす影が、少しずつ近づいていることに――
まだ誰も気づいていなかった。
次回、大会で圧倒的な力を見せる謎の使い手が登場! その名は「ゼロ」! 最強の敵か、それとも……?
「次回、『ゼロの影』! なんでアイツ、泣いてるんだ?」
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