第14話 魔法=

 時間は深夜、自室のベッドで横になっている。

 あのあと、戻ってきたぼたんに急かされる様に食堂に移動させられると、気合のだいぶ入ったパーティーの用意がされていた。

 どうもこのポンコツタヌキ娘、ユズと僕の愛と感動の妄想話を情感たっぷりに演説しやがったらしく、それに感化されたうちの家族がユズの歓迎会を急遽とり行ったという事だった。


 最初は困惑したが、僕の魔法習得記念としてパーティーを楽しむこととした。

 そう、僕は魔法を習得したのだ。


 あれだけ馬鹿みたいに悩んだ答えを出した。答えはやはり父様の言葉にあったように思う。

 最初から振り返ってみよう。

 魔法を見せてもらった日、父様は魔法のことを『自分の内面世界を魔力を触媒として外の世界に顕現させる』と言い、魔法の発動には薬が必要との情報をもらった。

 薬は詳細が不明すぎたのでひとまず置いておいて、内面世界=イメージと解釈し、魔法の発動を練習した。

 だがそれをしても魔法が発動することはなかった。何も起こらないのに微量な魔力を消費し続ける苦悩の時間であった……


 新たなヒントを得ようと母様に話を聞いてみれば、薬は必須ではない、魔法の発動は訓練次第で短縮が可能という情報を手に入れたが、魔法の発動には至らなかった。


 しばらくは停滞していたが……


 それもユズことユズリハ・シラヌイのおかげで解決を見た。


 彼女は父親から『シラヌイの花』というシラヌイ家に伝わる魔法を教えられていた。それはバチバチと音を出しながら手と手の間に電気でできた花を形作る魔法だった。僕よりも幼い彼女が魔法を使えることにも驚いたが、それとは別に僕は疑問を持った。

 電気のはずのそれに触れても痛みを感じなかった。であるならば、これは見た目が電気に似ているだけの光であり、電気そのものではない。


 つまりこの魔法には無駄が多い。光を電気に似せる必要がないし、わざわざ音を出す必要もない。子供をあやすだけなら魔法を使う必要もない。


 ここで僕の前世知識、英再伝での記憶がいい仕事をした。ユズのゲームでの必殺技とされていた魔法は赤い電撃で形作られた彼岸花を無数に咲かせ、そこを刀で切り裂くというものだった。ゲームではそれの具体的効果は語られず、かっこいい必殺技という感じだったが、シラヌイの花も、花を形作る魔法。この類似点を見れば誰もが思うだろう。この魔法を強化していけば、ユズのゲームでの必殺魔法につながっていくと。


 つまりシラヌイの花という魔法の存在理由は、シラヌイ家の伝来魔法を習得するために存在する。驚いたことにシラヌイ家は幼い子供に魔法を覚えさせるノウハウがあるというわけだ。


 どう教わったのかユズに話を聞けば、父親と一緒にやっていたと、手を重ねて魔法を発動してもらうと、いずれシラヌイの花の種が開いて魔法が使えるようになると。

 何のことやら意味不明。持続的に続ければ体を変質させたりするのだろうか? 


 実際にやってもらえるというのでやってもらえばさらに疑問にぶち当たる。

 ユズは誰かに魔法を使うことはできても、一人で魔法を使うことはできないという。だからといって使われた側は何もしない、ただ手を重ねるだけ。もう本当に意味が分からない。

 話を聞いてみてもユズは首をかしげるばかり。

 どうもユズにとって手を重ねることは自然なことであり、そこに疑問を感じていなかった。

 そこで気がついた。彼女にとって、手を重ねることが自然であり、手を重ねないことは不自然なのだ。内面世界……不自然なことは魔法が発動しない。もしかしたら、内面世界とは!


 仮説が出来たら実験。必要なものは、鉄と布。

 僕には前世の記憶がある、科学の知識がある。

 ちゃんとした理屈はこれっぽっちも覚えてはいないが、布で鉄をこすれば静電気が発生するはず。だってそれが自然、僕の『常識』だから。

 指先に感じた痛みと、減った魔力で確信した。

 これが魔法だ。父様の言った内面世界、僕はそれをこう表現する。内面世界とは人それぞれのもつ『常識』であると。

 魔力を使い、自身の『常識』で世界を侵食することが『魔法』であると。

 例えばの話だが、道を作る魔法があったとする。だがそれは、どんな道が出来上がるだろうか?

 けもの道、石畳、レンガ、木道、硬い地面。きっと作った本人の慣れ親しんだ、よく歩く道が再現されるだろう。

 僕の魔法が発動しなかった理由も今ならわかる。

 正確にはずっと発動していたのだろう。なにも発動しないという僕の常識が発動していたから、魔力を徐々に消費していたのだ。

 唸っても大声で叫んでも何も起こらない、それが僕の常識だから。


 逆に言えば父様の体を雷にする魔法など異様さが際立つ。体を自然現象に変換できることが父様の常識なのだ。意味が分からない。魔法って奥が深すぎない? 母様が言っていた薬もおそらくは幻覚剤の類だろう自身の認識を曖昧にして魔法を発動しやすい状態にしているのではないだろうか?


 にしても困った。

 そう、困ったことになったのだ。一つ解決するとまた一つ問題が出てくるとはままならないね。

 新たな問題はこうだ。

 魔法とは自身の常識で、世界を侵食すること。という答えを経た。

 そして僕の常識は、人間は空を飛ばないし、炎や氷を飛ばしたりできない、自身を自然現象に変換なんてどう転んでも出来るはずのない、科学の世界の常識なのだ。


「どんなに頑張っても、僕はファイアーボールさえ撃てないわけだ……」


 困ったけど、進みはした。とりあえず今日はそれで満足して寝る!

 おやすみ!

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