第13話 光明
変わらず訓練場で、僕はユズリハの言うシラヌイの花について質問をしていた。
「ユズリハ、シラヌイの花、今のを続けていれば、僕の手に種が埋まるの? それって……」
「ユズ!」
「え?」
「ユズ」
自分のことを指さして言い直すユズリハ。呼べってことだよね? さっき自分のことをそう言っていたし、家族にはそう呼ばれていたのかな?
「ん、ユズ。僕の手に種が埋まるの?」
「うん」
「それってどれくらい?」
「ん……わかんない」
「そっか、ユズはずっとユズの父様とこれを続けていたの?」
「……うん。おかあさまが死んじゃってから、とうさまが」
「……そうなんだ」
「だいじょうぶだよ? とうさま言ってた。あせらなくていい、いつか花がさく、木と同じって」
「あ……うん、ありがとう。」
触れ辛い話題になって言い淀んだのを、勘違いさせてしまったな。
まあいい、いったん冷静になろう。魔法がまたわからなくなった。種、植物と同じ?
しかしこれが父様の魔法につながるとは思えない。あくまでこの鍛錬は、シラヌイ家の伝来魔法へとつながる道だ。でも、魔法は魔法。つまりこれはアプローチが違うんだ。山の頂上を目指すルートがいくつもあるように、これも、魔法へとたどり着く1つのルートなんだ。
これを続けて3年後に備える? いや、どうにも……これを続けていて魔法が使える気がしない。根拠は何もないのだけれど、どうにも不安がぬぐえない。
「ん?」
あ、考え事に集中しすぎた。ユズが僕の前で手を振っている。
「ごめん、ごめん。ちょっと考え事、にしてもすごいねユズは、毎日これをやってるの?」
「ううん。とうさまが死んじゃってからはやってなかった。ユズだけじゃ……」
ユズは手をまた前に出し、目をつむり集中する。チリッと音がし電気が光るが、それは一瞬のことで、先ほどの様に持続的に光り続けることはなかった。
「ね?」
「そ、そうなんだ。」
どういうことだ!? 僕は何もしていない、魔力は何も使っていない、本当に手を触れていただけだ。そうだ、それに2回目。感覚的にだが2回目なんて僕の手を挟んでいただけだ。むしろやりづらいだろ! なんでできない? 障害物を挟んでできるなら、1人でもできるはずだ、でもできない。ユズに僕をだます意図はない。で、あるならば、何かがあるんだ。手を触れることに。
そもそも、魔法とは安定しないもの、だから魔術が生まれた。しかしここまでデリケートとは…… 母様も言っていたな、不安要素は極力排除すべきと……
「ユズ」
「ん?」
「僕の手が間にない方がやりやすいんじゃないの? こう、ほら。だから1人でももうユズは魔法を使えるんじゃないかな?」
フルフルと首を横に振るユズ。
「みてた?」
「いや、見てはいたけど……」
むっと不満そうなユズ。
「じゃ、じゃあ、実験しよう!」
「じっけん?」
「そ、さっきと同じように魔法を使って、途中で僕が手を外す。その時魔法はどうなるのか? 確かめてみよう」
「うん」
というわけで早速実験。先ほどと同じようにユズが魔法を使う。シラヌイの花は見事に電気の花を咲かせている。そこからそっと手を外していく……
「あ」
バチッと音がして花は散り、ユズの手の平から微かにチリチリ音が聞こえるだけとなった。
「ね?」
「うん…… じゃあ今度は内側、ユズの手の間に僕の手を入れるね?」
先ほどと同じように僕の手をユズが支える状態になると、またバチッっと音がして電気の花が発生する。そのあと片手だけ外したり、手を高速でくっつけたり離したり色々と実験してみたが、手をそえる形が崩れると魔法も崩れるという結果だった。
「どうしてなんだろう、手をそえてるだけなのに……ユズはどう思う?」
「ん?」
コテンと首を傾げ不思議そうにしているユズ。なるほど、この子にとっては出来ないのが当たり前だから疑問が生じる余地がないのか……
「はぁ……何かつかめるかと思ったんだが……あ~~~~~」
ゴロンと床に大の字になる。正直ちょっと疲れた……
「あーー」
僕を真似てユズも僕のおなかを枕に寝転がる。可愛らしいがマネしちゃいけませんという気持ちを込めて多少乱暴に頭をなでる。
まあ、今日は仲良くなれただけで良しとするか……このまま寝ちゃおうかな?
目をつむりまどろみに身を任せようとする。
・
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あれ? さっき僕、何を考えたっけ……
「っ!!」
がばっと起き上がる。ユズがびくっと驚いているが今はちょっとかまってられない。
もしかして、そうなのか? そういうことなのか?!
「試してみよう……」
訓練場の隅、練習用の武器が置いてあるところに走る。何がいいだろう?
辺りを見回し、棒術用の金属製の棒を手に取り、メンテナンス用の布も手に取りユズの元まで戻り、棒を地面に置く。
「ん?」
不思議そうにしているユズをしり目に僕は一心不乱に布をこする。十分にこすったらゆっくりと地面に落としてある棒に手を伸ばす。
パチッっと音がして指に痛みが走る。そして僕は……
「そうか、そうか! これが魔法だ!!」
歓喜に打ち震えた。
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