第12話 光る音
変らず訓練場。ユズリハは僕の股の間に座りながら体重をこちらに預けている。元々寡黙な子なのか特に何をするわけでもなく地面をぼんやり見ている。そして僕はというと、背もたれをしつつも、あいかわらず冷や汗をかいていたりする。彼女は英再伝のヒロインらしく今でも超絶美少女なのだが、それは遠く眺めているからこその感想で、近くにいると彼女という作り物めいた美少女を傷つけやしないかとよくわからない使命感で気が休まらないのだ。
そして……
「ほんとうに、ぼたんは肩の荷が下りた思いです。やはり若様はいずれひとかどの人物へとなる器をおもちです~」
さっきからぼたんがうるさい、この子はだいぶマイペースなところがあってこっちが反応しようがしなかろうがずっとしゃべり続ける悪癖があるのだ。まあ、ずっと沈黙が続くよりはマシなのかもしれないが、こっちはその言葉を聞いてあげらえれるほど余裕ないんだよね。
「……にいさま」
「ん、なにかな?」
本当に何? 僕で対応できることならいいんだが……
「かぞくの前でしか、やっちゃだめって。にいさまいるし、いいよね?」
主語、欲しいな。主語、言ってくれない?
「ぼたんちゃん、ちょっと……」
しっしっと手を振るユズリハ。
「うふふ~お兄様と2人きりがいいのですね~ それでは、ぼたんは少し席をはずしますね~それでは~~うふふふふ~~」
なんか邪険にされた割に楽しそうに去っていったな。
ユズリハが僕の方に向き座り直す。
「ん」
「ん?」
対話しよう? 人間には言葉があるのだから。ユズリハは両手を軽く前に出し、何かを包むように手を緩やかに曲げている。
「ん」
再度の催促。手を動かしているから、手に関係あるらしいが……
「にいさま、手。だして」
「えっと、こう?」
「うん」
ユズリハの手を外側から支えるように重ねる。何がしたいんだろう? なにかしらのおまじないか何かか? だからって家族だけしか参加できないとか、物々しいな……
「見てて」
「うん」
「ん……」
ユズリハは目をつむり、何かに集中している様子だ、とりあえずそのまま見ていると……
「え?」
チッチッと微かにはじけるような音がしたと思ったら、ユズリハの手と手の間に青白い光が線香花火のように弾けだす。これは、電気による花だ……つまりこれは……
「魔法だ……」
「……うん!」
ユズリハがこちらを見てうれしそうに笑う。なんというか、いろいろな衝撃が合わさってくらくらした……
2、3分してその光景は終った。今のは、英再伝でのユズリハの必殺魔法だ。威力はないが、これを強力にしたものがゲームでの家伝魔法になるんだ……深呼吸。落ち着け、聞きたいことは山ほどある、だがここで興奮して問い詰め怯えさせないように……
「……きれいだったね」
「うん」
「えっと、家族の前でしか使っちゃダメなの?」
「うん。とうさまがいってたから……」
「そ、そっか……」
デリケートな話題すぎる……どう触ったら大丈夫だ? 冷静になれ、あの魔法をどう覚えたか、それを知りたいんだ。
「すごいね、僕も出せるようになるかな?」
「……うん。手……」
言われて手を出すと今度はユズリハが僕の手を包むように手を添えてきた、さっきとは逆の状態。
ユズリハが目をつむり集中するとチッチッと弾ける音とともに、また電気の花が僕の手の間で発生する。びっくりして手を引っ込めそうになるが、ユズリハの手が僕の手を掴んでいたのでできず。息を吐きながら肩の力をゆっくり抜く。
僕の手越しにユズリハが電気を発生させているようだが、痛みや熱はない。だからこれは、言ってしまえば見た目通りの電気ではない。音のなる光だ…… 静かに混乱が加速する。そこにユズリハの声が響く。
「これは、シラヌイの花。こうしてあてていると、にいさまの手にもタネがうまるの、まいにちいっしょにやれば、にいさまも、できるように、なる。ユズも、とうさまにやってもらった」
しずかに笑みを浮かべるユズリハ。
この子は、強いな……父親が死んだのを理解しているはずなのに。だからこそ、原作でも世界を救うヒロインなんてできるのかな?
ひねくれ者の僕には珍しく、守りたいと、素直に思った。
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