閑話 少女ヴァネッサの奮闘
私ヴァネッサ! 南の統括守護者アスラムヴーアの娘!
いずれは私がアスラムヴーアを継ぐために修行の日々を過ごしているわ!
それまではお父様に頑張ってもらわなくっちゃ! 私が大人になる前にアスラムヴーアの地位を誰かに取られないか心配だわ。
「たあっ!」
右手の剣で切りかかる、軽くいなされて反撃が来るのを左手の小剣で防ぐ。
今は長さの違う2本の剣を使う二刀流を体になじませようとしているの、強くなるために毎日練習あるのみ!
「まだ左がぎこちないよ?」
お父様からの指摘が飛ぶ、私はもともと剣一本で戦ってたからまだ左の小剣の使いかたが納得いってないのよね。
「まだ頭で考えている、ね? それじゃあいけない、ね?」
お父様の剣が早くなる。
「何も考えられないくらい、やるしかない、ね?」
「はいっ!」
やって見せるわ! 私は強くなるんだから!!
「ふふ、いい返事。あの子に感謝しなくちゃ、ね?」
「むっ、関係もん!」
「そうなの? でもあの子に言われたんだよ、ね? 二刀流」
「お父様うるさい! 集中して!」
「はいはい」
私にはライバルがいるの! あの子との出会いは去年の話。
建国祭に行われる剣術大会、奉剣祭の日!
その日私は大会前に強そうな剣士がいないかと会場周りを散策していたの。
その時私の目に、噴水の前でぼんやりと空を見ている子が映ったの。ちっちゃい体に真っ黒な髪、ぱっちりおめめの子。私ピンときたわ!
「あなた迷子ね!」
「え?」
「大丈夫よ! 私は未来のアスラムヴーア! 私が来たからにはみんな守ってあげるんだから!! ついて来なさい!」
私はこの子の手を取って走り出す!
「あなた名前は?」
「あ、アツキです」
「そう、アツキちゃんね」
「ああ、いえ僕は……」
「今日は何しに来たの?」
「えっと、剣術の大会に……」
「奉剣祭ね! 兄弟の応援に来たってわけね!」
「ええ、姉の。いやでも僕も……」
「会場に行けばきっと誰か探しているはずよ! 安心しなさいぜーんぶ私が解決しちゃうんだから!」
「ああっと……おねがいします」
「まかせなさい!」
私は奉剣祭の会場に向かったわ!
受付を通って関係者しか入れない場所に移動したわ。
「受付のおじさんは私の顔を知ってるから顔パスよ! すごいでしょ!」
「すごいですね」
向かうはお父様の所!
「お父様は今回奉剣祭の審判をするのよ! お父様押しに弱いからなんでも引き受けちゃうのほんとう困ったものよね!」
「あー、そうなんですね。大変ですね」
やっぱりそう思うわよね! お父様はもっと私に構うべきなのよね!!
「あ、いたわ! お父様!!」
あら、お父様誰かと話してるみたい。アスラムヴーアともなるといっぱい人が寄ってくるのよね。
「マウア殿、ご息女ですか?」
「ええ。ヴァネッサといいます、少しお転婆でして、ね」
「お父様! 私迷子を見つけたの! ほめてくれていいのよ!」
「あ、父様」
「え? アツキ? どうして……」
「ん?」
なんと! お父様と話していたのはアツキちゃんのお父様だったの! それになんとシゼンレリアル・レヌウラータ! 南東守護者だっていうの! そして一番驚いたことがなんとアツキちゃんは男の子だったの! あんなに可愛いのに!! 本当にびっくりしたわ!
「うちのおてんばが申し訳ない」
「いえいえ、アツキも妻の買い物を待つ間暇だったようですし、むしろ遊んでいただいてありがとうございます」
「でしょ! 私ったらすっごいのよ!」
「調子に乗らない、ね?」
「父様、母様には連絡お願いします。何も言わずに来てしまったので、とくにシアヌが何をするか……」
「ああ。カエデを使いにやったから大丈夫だ」
「アツキちゃん!」
「ああ、呼び名はそのままなんですね。なんでしょう?」
「私、奉剣祭の幼年部に出場するの! 応援してちょうだいね!」
「ああ……それは、ごめんなさい」
「え! なんで!?」
「それは、僕も出場しますので」
「ええ!!!!!!!!」
そんな衝撃的にできごとがあって今は奉剣祭の決勝戦!
奉剣祭では、誰と戦うのか出場者には知らされず、控室から直接、試合会場に転送されるの。試合が終わったらまた控室に戻されるの。すごい仕掛けよね!!
アツキちゃんが出場するっていうので驚いたけど、あんな可愛い子もう負けちゃったわよね。わたしがかっこよく優勝して慰めてあげなくちゃ!
地面が光って転送が始まる。光が強まって、それが消えたとき試合会場に転送が完了したわ。
「え?」
「あ、どうも」
そこにはアツキちゃんが立っていたの。
「え、すごい! あつきちゃん、よく勝ち進んだわね!」
「まあ、はい」
ちょっとびっくりしたけどそういうこともあるわよね!
「可哀そうだけれど優勝は私がいただくわ!」
「そうですか、お手柔らかに」
「双方準備はいいか?」
お父様が聞いてくる。
「いいわ!」
「大丈夫です」
「では、はじめ!」
「いくわよ!」
「どうぞ」
私は剣を上段に構え、アツキちゃんに突っ込む!
「たああっ!」
アツキちゃんも上段に構えて私の剣に合わせてくる
「へ?」
剣がぶつかると思ったけど手ごたえがない!? 足に衝撃を感じて私はこらえきれず転んでしまう。
「勝負あり! 勝者アツキ・ミツヒサ!」
気がついたら私の目の前にアツキちゃんの剣が突きつけられていた。
「まーーーーーけーーーーーーたぁーーーーーーーーーーー!!!!!」
控室に戻ると、くやしくって涙が止まらない! 何で負けたか意味も分からないわ!!
「負けちゃった、ね」
控室にやってきたお父様が声をかけてくる。
「う、う、おとうさま~~」
「よしよし」
「わた、し、なんで~~まけた、た、の?」
お父様に詰め寄る。
「あの子はねネッサより一歩深く深く踏み込んだんだ、よ。」
「いっぽ?」
「そう。ネッサの剣の速さがまだ遅いうちに剣を合わせて、大振りになるように誘導した、そして体が流れたところで軸足を蹴って転がして、それで終わり。勉強になった、ね?」
「べん、きょう?」
「剣で斬ることにこだわってはいけない。彼は斬りあいをするためではなく、勝ちにあそこにいた。その違いが出た、ね」
「むぅ~~~……」
「表彰式が間もなく始まる、泣いてるとこなど見せてはいけない、よ」
「わ、わかってるわ! 私は、未来のアスラムヴーアですもの!」
「いいこ」
お父様の手が頭をなでる、悔しくってまた涙がでてきちゃう! でもいいわよね、まだ控室ですもの!
無事表彰式が終わって。アツキちゃんと観客席に移動する道すがら私は宣言したの
「アツキちゃん! あなたを私のライバルにしてあげる!」
「え?」
「来年は負けないわ!」
「……来年は負けちゃうかもな」
「え?」
「いや、ヴァネッサさんはすごい才能の持ち主ですから、来年は勝てるかどうか……」
「む~…… アツキちゃん! そこはあなたも負けないっていう所よ!」
「ふむ。 では、負けません」
「そう! それでいいのよ!」
「あ、ヴァネッサさんって二刀流じゃないんですね?」
「え? 二刀流? 私使ったことないけど」
「あれ? そうですよね。ごめんなさい変なこと言って、なんだかわからないけどヴァネッサさんには二刀流が似合ってる気がして? 何で僕そう思ったんだろ?」
「二刀流…… いいわ! 1回試してみるわ! 私は未来のアスラムヴーアですもの! 二刀流くらいちょいちょいっとマスターして見せるわ!!」
「では、来年を楽しみにしています」
「ええ! 楽しみにしていなさい!!」
それが私と私のライバルアツキちゃんとの出会いよ!
「さあ! お父様もう1本!」
「いいよ、かかっておいで」
私は未来のアスラムヴーア、ヴァネッサ!
次の奉剣祭で私の華麗な二刀流を披露して、今度こそ私が優勝して見せるんだから!!
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