第6話 魔法と魔術

 さっきから気になってはいたが、配膳が始まって確定した。

 ユズリハがいない。どうする? 様子を見るか? いやここは子供の特権で空気を読まずいこう。


「あれ? 父様あの子はどうしていないんですか? 」


 食らえ5歳児あざとい首傾げポーズをっ!

 目をぱちくりさせる父様。


「どうしたんだアツキ、なにかあったのか!? いつものぼんやりとした目は!?」


 失礼な……僕のことを何だと思っているんだ。

 でもまあ、客観的に見てそれほど僕の様子がおかしいという事か……まあいい、隠すようなことでもないしここで宣言しておこう。


「父様……ぼくはやりたいことを見つけたのです。今までのように、ぼんやりしてばかりではいられないのです!」


「そ、うなのか……」


 気を使ったような笑顔をうかべる父様。息子の成長に声も出ないのかな?


「で、あの子はどこですか?」


 早く答えて?


 朝食を食べながら聞いた話によるとユズリハの事情はゲームの通り、両親がなくなり父様が引き取ったというものだった。

 そこまでは想定通りだったのだが、なんと僕がぶっ倒れちゃったのを見た彼女もショックを受け今は部屋で療養中らしい。やらかしてんじゃん僕!!


「そ、そそそ、れは大丈夫なのでしょうか?」


 ちなみにユズリハとあったのが昨日の昼頃の話。僕がベッドで寝ている時に彼女も寝ていたというわけだ。


「うん、体より心の問題らしい、今はそっとしておいてあげよう。私も少し急ぎすぎた……」


「僕、昨日のことあんまり覚えていなくて……でも僕のせいで……」


「っ……アツキ気にしすぎるな。今回はタイミングが悪かっただけだ。」


 ごめん父様。あの時のこと突っ込まれると困るから、今うやむやにしているんです。母様も僕のことを心配そうに見ている。罪悪感で胸が痛い。

 とにかく、ユズリハと会うのは彼女の体調がよくなるのを待つことになった。


「はー……ま、やってしまったことはしょうがないな。僕ごときが完璧に何かできるわけもなし。切り替えてやれることをしよう。」


 自分は凡人。実力以上のことをもとめても失敗するだけだ。

 今僕は屋敷にある鍛錬場に移動していた。この世界なにをするにも力が必要。僕は凡人ではあるが逆説的に人並の才能はあるのだ、毎日鍛錬あるのみだ。それにこれだけは多分僕は人より優れているものがある。


「何事もやっておくもんだね」


 僕の武器。それは幼いころより鍛えていた魔力である。英再伝での設定によると、生まれてから2~3年の間に魔力は劇的に伸びるらしい。生まれたばかりで魔力を扱えるドラゴンはそれゆえに最強種なのだと語られていた。


「ふむ。英再伝ではたしか、魔法の力は想いの力……だっけ?」


 まず英再伝では、魔力を使う攻撃は2種類ある。『魔術』と『魔法』である。ゲームのシステム的には、魔術を使うには魔貨というメダル型のアイテムを装備して魔力を消費してそれに対応した魔術が使えるというもの。

 魔法はテンションゲージという専用のゲージと魔力を消費して使う必殺技という立ち位置だった。


 では、この世界での魔術と魔法は? 調べた限り、魔術を使うには魔貨を使うのは変わらないようだった。だがこの魔貨というもの、1枚1枚、錬金鍛冶師という職人の手作りで5歳児がおいそれと手を出せるような安価なものではなかった。

 

 なので僕が使うのは必然的に魔法となった。


「魔貨を使うか、使わないか。それだけで本質的に魔術も魔法は一緒のもの、のはず。」


 ここからは英再伝内の歴史のお話。その昔、魔術はまだなく、魔法だけがあった。だがこの魔法、本人の技量やコンディションにものすごく左右されるもので、撃ってみるまで豆鉄砲か大砲かわからないという信頼性のないものだった。それでもモンスターという脅威に対抗するためにはそれを使うしかない。

 時の王様は「魔法を安定して発動させる技術を見つけたものになんでも望むものをやる」と国中に呼び掛けた。それを聞いた一人の天才錬金術師が魔法を誰が撃っても同じ結果を生み出す魔法安定術式装備『魔貨』を生み出し、魔法と差別化するために、魔術と呼び習わすこととなった。


「魔法には特別な道具はいらない。魔力さえあれば大丈夫なはず…… 僕の魔力はドラゴン理論が正しいのなら、人類最強……上位のはず」


といってもゲームとも齟齬があるだろうしまずは実験してみることにした。ちなみに家族には止められるだろうから内緒でおこなっている。


「ふ~……ふんっ!」


両手を前に出し、気合を入れる!


「ん~~~~~っ!!!!!!!」


なんか力んでみる!


「いや? どうすりゃいいの?」


いや落ち着け僕。ゲームではどうだったろうか? なんか「うおーーー!!」とか叫んでた。 


「う、うお~~~~……」


……恥ずかしい。


「ん? これ、魔力は消費されてるきがするな?」


魔力量が多くて変化が分かりづらいけど……なんで? 何も起きてないよ?


「ん~? 意味が分からない~~~……」


ん~……最初からこの調子じゃ3年後死んじゃうんじゃないかな?


「よし、悩んでもしょうがない。父様に聞こう」


答えてくれるかわからないが、ヒントくらいはもらえるかもしれないし…… 悩むのは後で幾らでも出来るからね。


「待ってろ父様愛息子が会いに行くぞ!!」


とテンションを無駄に上げて叫んでみたが、仕事で家にいるわけもなく、帰ってくるまでは普通の訓練しますかね……

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