第5話 ミツヒサ家の人々

 翌日、ノックの音で目を覚ます。


「んう~~~ん……」


 昨日は気絶したのもあって、夜になってもなかなか眠気が来ず、寝不足気味だ。


「ぼっちゃま、お目覚めですか?」


 シアヌが部屋に入ってくる。


「うん~~、おきたぁふぁ~~~……」


 今は起きているけど二度寝しそう……


「ぼっちゃま、ご気分はどうですか?」


 シアヌが目線を合わせ、僕の顔を見つめてくる。


「ちょっと寝るのが遅くなっただけで、もう大丈夫だよ?」


 無表情のまま、僕の頭をなでてくれるシアヌ。


 うちのメイド長シアヌ。元々は母様の専属メイドだったらしい。父様と結婚するときに母様についてきた。長く輝く銀髪三つ編み、ナイスバディな体。え?! ヒロインじゃないの!? という感想。その容姿で苦労してきたらしく、群がる男たちを喜ばせまいと無表情でいたら癖になって表情が動かなくなったのだとか。生まれた時からの付き合いなので表情の違いがわかるようになってきた。結構感情豊かな人だよ。


「そのようですね安心いたしました」


 シアヌの手が止まらない。

 なでなで、なでなで、なでなで、なでなで。頭熱なるで!

 むぎゅっと抱きしめられる。双丘に押しつぶされる僕。窒息しますよ?

 貴族に対してなれなれしいと思うかもしれないがうちが緩いだけである。

 チュッと頬にキスをされ解放される。


「では私は先に食堂に戻ります。それとも着替えをお手伝いいたしましょうか?」


「ううん、大丈夫だよ」


「そうですか……では」


 スッと立ち上がるシアヌ。ちょっと残念そうだったな。

 あ、目がうっすら潤んでる。うん、結構心配させちゃったみたいだね。彼女の名誉のために言っておくが、ここまで情熱的な抱擁はあんまりない! さて、僕も着替えて食堂に行こう。


 食堂に到着。中に入ると先にいた母様が僕に気がついた。


「アツキ、もう大丈夫なの?」


 と心配そうにこちらによってきて抱きしめてくれる母様。レイリア・ミツヒサ。青みがかった白みがかった青い色のロングヘアー、実にファンタジーな色をしている。母様母様と言っているが、母様の見た目は美人なお姉さん。貴族らしくこちらの世界の成人年齢である16で父様と結婚1年後に姉を出産。そして1年あけて僕を出産。今だ25歳。スキンシップの多い人なのでどぎまぎしてしまうよ。まあ、シアヌというスキンシップモンスターに鍛えられてるので顔には出ないんだけれどね。ていうか多分シアヌの影響だろこれっ!!


「はい! もう大丈夫です母様」


 僕の顔をまじまじと見てくる母様。なんだ?


「アツキ……ちょっと変わった?」


 おう? 変わった? まあ、変わったと言えば変わったけど……自分の顔をペタペタ触って確認する。ん~ノリで触ったけどわからんな。


「わかりますか?」


「ふふっ、母様にはぜーんぶお見通しですよ」


笑みを浮かべ、またぎゅっと抱きしめてくれる母様。暖かい……ふむ、家族というものはいいものだ。凡庸な感想だろうが、凡庸な僕にはちょうどいい。やはり死ぬのダメ絶対。


ガチャリとドアの音が鳴り、父様が入ってくる。


「アツキ……大丈夫なようだな」


父様。カイト・ミツヒサ。黒髪黒目、実になじみ深い。髪を結ってポニーテイルにしている、イケメンにしか許されないヘアスタイルだよね。


母より2歳年上の27歳。僕の周囲にいる人物がずいぶんと和風よりな名前だが、この世界は西洋風であり、うちが変わっているだけである。

父様は東方からやってきた天才剣士。母とはこの国で偶然出会い、それはそれはロマンティックなラブロマンスを繰り広げ、なんやかんやあってこの国に貴族となったらしい。なんで主人公じゃないんですかね?


ま、悪くいってしまえば成り上がりなので、僕にはわからない所で苦労していそうだが。


「はい、父様。ご心配おかけしました」


「ああ」


「あ~、アツキちゃんおはよ~」


 後ろからむぎゅっと抱きしめられる。姉さまいつの間に部屋に!? なんでナチュラルに気配消してるんですかね? うん、全く外せない。どうなってんだ!?

 

「よしよし、アツキちゃんは可愛いね~」


「むにゅぅ……姉さま、僕はお人形ではないので、このあたりで……」


全く放してくれないな……僕を抱えたまま椅子に座る姉さま。微笑ましそうにスルーする両親。いや、止めて?


姉さま。シオン・ミツヒサ。桃色ふわふわロングヘアーの女の子。この世界の遺伝子どうなってんだよと突っ込まざるを得ない。天才剣士。最近の流行は僕で遊ぶこと。僕と、ではない。


ゲーム本編では、僕の死亡後ショックで髪が白色になり、猫背、目にクマとビジュアルが今と激変する。


 ユズリハ正ヒロインルートでは、なんとうちの姉さま闇落ちしてユズリハ達と壮絶な戦いを繰り広げ……

「お前が悪いわけじゃないのはわかっていた。でも、私はそれでも誰かを恨まずにはいられなかった……」

 

と最後の言葉を残して死んでしまう。


いけません、いけません。家族崩壊はいけません。そんなヒロインの成長のための生贄みたいなこと姉さまには似合いません! たとえ今この瞬間僕のほっぺをハムハムと口に含むような困ったちゃんでもいけません!!


「姉さま! 僕のほっぺは食べ物ではありません! ばっちいのです!」


「アツキちゃんにばっちいとこなんてないから大丈夫だよ~」


ダメだろそのセリフ! 父様母様も! 曲がりなりにも貴族子女なんですから止めましょうよ!!


そのまま、ぬいぐるみよろしく拘束され続け、そうこうしているとシアヌが朝食をもってきて配膳を始める。そこでようやく解放された。

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