第3話 思い出した前世の話
『英雄再誕伝、君とともに…』は恋愛要素のあるRPGだ。
物語はこう、平和な国、アルフアル王国。
その世界に魔王が現れ、騎士を目指し騎士学校に入学してきた平民の主人公がいつしか魔王を倒す英雄へとなる。
という王道RPGだ。
話は変わるが、僕は昨今の「俺、なにかやっちゃいましたか?」なんていう主人公が世界を救うなんて信じられない。
俗物的な彼らを見ると共感する。
だからダメだ。こんな普通で何処にでもいるような僕が共感できる人間なぞ、主人公の資格はないのだ。
極端な話、世界を救う主人公とは狂人だ。
世界のために自分の命をたやすくかけることができる。
仮の話だが、自分の命で世界が救えるという状況で、僕は命を捨てることができるのか? 僕はできないと思う。頭では自分の命を救うことが正しいと理解しつつ、恐怖で何も選べないと思う。
それが普通。それが普通の人間だと思う。
なにかやっちゃいましたか? 何て言う主人公の精神性は普通のそれだ。僕と同じように何も選べないと思う。
力が強いから主人公なのではない。
精神が強靭(狂人)だから主人公なのだ。
本物の主人公は正しいと思ったら止まらない。恐怖は感じるだろうがそれを押し殺し自分の命を捨てることができる。
その行動に共感はなく、あこがれを覚える。
そう、行動であこがれを感じさせる英雄が主人公たる資格を持つのだ。
長々と僕の主人公観を話したが、ゲームの話に戻ろう。
『英雄再誕伝』の世間的評価は散々であった。
恵まれたビジュアルによる、昭和のストーリー
主人公が暑っ苦しい。
ヒロインはいいのに……
『英雄再誕伝、君とともに…』略して英雄(ひでお)君だなwww
などなど。
その原因と言われているのが、このゲームの主人公にある。
主人公の名前は、レオン。レオン・アズハート。
前世の僕の推しキャラ
いわゆる熱血主人公である。
「んっ……」
目を開け、体を起こす。
どうやら自分の部屋のようだ。
「ぼっちゃま。お目覚めになられましたか」
家のメイド、シアヌが声をかけてくる。
「シアヌ、僕は、たおれた?」
「はい、その通りです。ご気分はどうですか?」
「大丈夫。水を……」
水差しから水を注いで僕の体を支えながら飲ませてくれる。
「ありがとう」
「よかったです。坊ちゃまが目を覚ましたことを伝えてまいります」
そのあと知らせを受けやってきた家族にもみくちゃにされ、今日は寝ているようにと厳命された。
その場にはユズリハ・シラヌイが顔を出すことはなかった。
まあそうだろう。客観的に見てあの子のせいで倒れたように見えなくもない。なんとかごまかしとかないとな……
「悪いことをしたな」
ユズリハ・シラヌイ。あの子は、英再伝(英雄君とは絶対略さない。)に登場するヒロインの1人だ。
恋愛要素があると言ったが、主人公以外にヒロインが5人いて好感度によって最後にパートナーを選ぶものになっている。
ユズリハ・シラヌイ。アルフアル高等騎士学校1年生。刀と雷魔術を得意とする剣士。学園での2つ名は紫電。モンスターを憎んでおり、いつも1人で行動し、誰もその笑顔を見たものはいない。
ゲームでのプロフィールは確かそんな感じだったと記憶している。
昨日会った小動物のような子が、この後育って、モンスター絶許ガールへとなるんだよな……
ゲーム通りなら、昨日のあれは彼女をこの家に引き取る説明のはずだ。
彼女の両親、母親は彼女を生んですぐに死亡。父親はつい最近モンスター討伐時に予想外の強敵に倒され死亡。天涯孤独となったはず。うちの父様がユズリハの父親の友人らしく引き取ったという経緯、のはず。はずばかりだが一応ゲームの通りか確認してないからね。
さっき来てくれた時に父様に確認したかったが、そういう雰囲気じゃなかったからな……
僕のせいであの子を引き取るのをやめるなんてことになったら目も当てられない。
僕としては彼女のことはぜひ引き取りたい。というか引き取らなければ世界の危機。
ゲーム通りなら、この世界は数年後には魔王に侵略されるのだから、それに対抗する主人公チームの一人がいなくなるなんてぞっとしない。
まあ、それだけではないんだけれど。
前世の記憶を思い出した僕には、やりたいことができてしまった。
「ああ罪深い……僕は世界がどうこうより、見たいものができてしまった」
僕は、前世での推し、レオン・アズハートの活躍を間近で見たい!!
「はぁ……世界に色がついたようって、こういうことを言うのかな」
恋ではないけれど、僕には恋よりも楽しいものだ。
熱血主人公、レオン・アズハート。なぜ好きになったのかなんて言われてもわからない。しいて言うなら刺さったのだ。僕の心に。彼を客観的に言えば感情的で無鉄砲。そう、僕には全く共感できない存在。だから好きになった。
冷めた人間である僕には彼のような行動はできない。だからといって他のプレイヤーのように馬鹿だなんていって冷笑する気もない。むしろうらやましい。理性が邪魔をして僕は馬鹿にはなれないのだから。もしも生まれ変わったら彼のようになりたいと思っていたが、生まれ変わった後も変わらないのだから、来世も期待できやしない。
であるならば、彼の活躍をそばで見たい。アイドルのライブにいくファンのように心の中でサイリウムを振り回し、余すことなく堪能したい!!
それが僕の今の世界での野望だ。
「ふむ、にしても困ったな……」
そう、やりたいことができたのはいいが、その前に問題がある。
「このままいくと僕は3年後に死ぬな」
困ったもんだね。
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