第4話 下層の反乱種 

 初陣の勝利からわずか数日。スプロウツは連勝を重ね、CランクからBランクへと昇格した。だが注目を集めたことで、当然のように上位者たちからの嫌がらせも増えていった。

  夜の地下通路。薄暗い蛍光灯の下で、拓馬たちは寄宿舎に戻る途中だった。

 「最近、視線が痛いな……」哲が小声でつぶやく。

  祥子は肩をすくめる。

 「下克上を狙うチームなんて、目障り以外の何物でもないでしょうね」

  友梨は手元の端末を確認しながら周囲を見回した。

 「……気をつけて。変な動きがある」

  その瞬間、通路の両端を上位生徒たちが塞いだ。五人組で、いずれもAランク寄りのBランク勢。

 「お前ら、調子に乗ってるな」

  リーダー格の男子が冷笑を浮かべ、金属バトンを肩に担ぐ。

  拓馬は無意識に身構えた。――だが、その直後に足を取られて倒れ込む。古い鉄板に気づかず踏み外したのだ。

 「また失敗かよ……」哲が苦笑した。

  上位生徒たちが攻めかかる。

 「やめろ!」寛人が前に出て、短期決戦型らしい鋭い突進で敵を押し返した。

  栞奈は即座に指示を飛ばす。

 「友梨さん、右側へ誘導して! 哲君は後方支援!」

 「了解!」友梨が動き、哲が警戒音を鳴らす。

  乱戦の中、拓馬は失敗を取り戻すかのように立ち上がった。だが攻撃を受け止めきれず、一度は壁に叩きつけられる。

 (くそ……また同じ繰り返しじゃないか!)

  その瞬間、蒼光が走る。再演(リフレイン)が発動し、敵の動きが巻き戻る。

  次の瞬間、拓馬は相手の攻撃を回避し、カウンターを決めた。

 「そこだ!」寛人が続けて一人を倒す。祥子は背後から迫る敵の腕を絡め取り、華麗に投げ飛ばした。

  残りは一人。拓馬が一歩踏み込み、鋭い一撃で沈黙させる。

  通路に静けさが戻った。

 「……ふう」哲が肩で息をしながら笑った。「怖かったけど、なんかすごいな。俺たち」

  友梨も微笑みながらうなずく。

 「失敗を糧に、着実に前進してる」

  祥子は腕を組み、拓馬を見た。

 「拓馬、あんたの力――本物だわ」

  しかし、帰寮後に掲示板を見て全員が凍り付いた。

 《スプロウツ連勝止まる。拓馬、致命的ミスで敗北》

  夕方の練習試合で拓馬が再び古いミスを犯し、敗北していたのだ。

  悔しさが胸を焼く。だが拓馬は静かに言った。

 「……もう二度と同じ失敗はしない」

  その目に、確かな決意の光が宿っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る