第3話 初陣ランクバトル
水曜の昼休み、学園中央講堂。通常は式典に使われる広いホールが、今日はランクバトル専用のリングとして設置されていた。観客席は下級生や上級生でほぼ満席。ひとりの落ちこぼれが新しいチームを作り、初戦に挑むという噂があっという間に広まっていたのだ。
対戦相手はCランク常連の双子コンビ、迅と隼。ふたりは完璧な連携を売りにしており、短期決戦で相手を叩きのめすスタイルで有名だった。
控室で、拓馬は緊張に肩をこわばらせていた。
「なあ……負けたらどうする?」
哲が不安を隠さず口にする。だが祥子はおおらかに笑った。
「負けたら次に勝てばいい。経験は裏切らないわ」
友梨は小さな端末で双子コンビの過去映像を再生していた。
「パターンは単純。片方が正面突破、もう片方が側面を突く。同時に攻撃を仕掛けるのが常套手段みたいね」
寛人は腕を組んでにやりと笑う。
「じゃあ、正面を俺が受けてやる。側面は拓馬、お前の出番だ」
栞奈はすでに勝利条件をホワイトボードに書き出していた。
「勝利までのステップを三段階に分けました。――拓馬さん、“再演(リフレイン)”は一度だけ使えるんですよね?」
「ああ、一回きり。でもそれで十分だ」
開始のブザーが鳴った。
迅が低い姿勢で突っ込み、隼が反時計回りに回り込む。観客席からどよめきが起こる。
「来たぞ、必勝コンビネーションだ!」
その瞬間、拓馬の視界が青白い光に包まれた。世界が一瞬だけ巻き戻る。
――再演。
隼の足運び、重心の傾き、攻撃のタイミング。すべてが頭の中で最適化される。
「寛人、正面を頼む!」
「任せろ!」
寛人が迅の攻撃を受け止めた瞬間、拓馬は一歩踏み出し、隼の動きの先回りをした。驚く隼の表情をよそに、拓馬は反撃の一撃を叩き込む。
試合は一分足らずで終わった。
観客席が静まり返り、次いで大歓声に包まれる。
「勝った……のか?」哲が目を丸くする。
祥子は笑みを浮かべて拓馬の肩を叩いた。
「初陣にしては上出来ね。――見た? 経験が生きたでしょう」
友梨も小さくうなずく。
「これで、私たちの存在を無視できなくなったはず」
リングサイドの最前列で、理事長が腕を組み、無表情のまま試合を見届けていた。
(面白い芽が出たな……)
こうして“スプロウツ”は初勝利を収め、学園内で一躍注目の的となった。
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