第一章 終わりの始まり 2
玄関には、陽介さんが立っていた。
「里香に頼まれて昼飯を持って来たよ」と言って、コンビニで買って来たであろうパンとお茶を渡される。
受けとると、陽介さんはニヤニヤしながら仕事に戻ると言って、すぐに出て行った。
休憩室に案内され、そこでご飯を食べる様に言われ、休憩室に入ると、一人の男がドアを背にしてテレビを見ながらカップラーメンを食べている。
俺が入って来た事に気付いて振り返る。
「あぁ、君が噂の相川君ね。里香さんの弟さんの…」それだけ言って、またテレビを見ながらカップラーメンを食べ始めた。
俺の目や姿を見ようともしないで、男は話し始めた。
「そこ空いてるから適当に座ってご飯食べな。えっと…僕は主任やっている渡辺雄二郎って言うんだけど、よろしく」
俺は、空いている席に座って、パンを食べ始める。
この、渡辺雄二郎って人は、俺とは正反対の人種だなと、心の中で思った。
伸びきった髪を後ろで束ね、黒縁の眼鏡を掛けている。
カップラーメンの湯気で眼鏡が曇り、それをいちいち拭きながら食べている。
第一印象は、冴えないオタクって感想だ。
それに比べ、俺は金髪で耳が隠れるくらいの髪型。
絶対に仲良くなれない、今までに関わる事のなかったタイプの人間だからか、少しこの男に興味を持ち始めた。
ただ、俺は今まで自分家のラーメン屋以外でのバイト経験が無いから、この男を何て呼んだら良いのかさえ解らない。
取り敢えず「先輩」と呼んでみる。
渡辺は右手で眼鏡の縁を上げながらクスっと笑い「先輩って…別に、普通に呼んでくれて良いですよ。みんなからは"ナベさん"って呼ばれてるし」
少し照れ臭そうに見えた。
「じゃあ、ナベさん。俺、何をすれば良いんですか?」
カップラーメンのスープを飲みながら棚を指さして言った。
そこにマニュアルがあるから目を通しておいてと。
俺はマニュアルに手を伸ばし読み始まると、ナベさんは立ち上がって何も言わずに休憩室から出て行った。
この人とは上手くコミュニケーションが取れなそうだなと思いながら、不思議な存在だと思い、興味が湧いて来た。
パンを食べながらマニュアルを読んでいると、ドアをノックされたから「はい」とだけ返事をすると、佐々木泉が入って来る。
「明人君、休憩一緒に良い?」と聞かれ、俺は頷いて返事をする。
駄目だ…この人の前だと緊張してしまう…
緊張して、何を話したら良いのか、どう接したら良いのかが解らない。
それだけ、魅力的だって事は理解出来るが、上手く説明が出来ないけど、この人には他にも何かがある様な気がする。
それは、きっと誰にも言えない様な悩みだったり葛藤だったり…
俺自身、誰にも言えない秘密はある。
ただ、それに関しては両親や姉、友達なら知っている事。
敢えて言う必要もないし、言う事はないのだけど、それ以上の何かが彼女からは伝わって来るのだった。
ノックも無くドアが開く。
ナベさんが何も言わずに入って来て天井を見ながらボソっと呟く。
「佐々木さん、社長が探していましたよ」
そう言うと、佐々木さんは休憩室を出て行った。
出て行くと同時にナベさんはドアを閉める。
一瞬の沈黙が訪れナベさんが口を開く。
「解っていると思うけど…彼女は…佐々木さんは…いや、やっぱ良いや。ゆっくり休んで食べたら事務所に行って」
それだけ言い残してナベさんは休憩室を後にした。
何なんだ?と、思いながらも、パンを食べ終えて一服をしに外へ出ると、喫煙所にはナベさんと佐々木さんが居た。
「君は、未成年なのに煙草を吸うのか?」と、ナベさんが言うと、「別に良いじゃないですか」と、佐々木さんが俺を庇う。
そのやり取り中、ナベさんが不機嫌そうな顔をし、俺を睨みつけて来た。
「私は吸わないけど、社長に頼まれて午後のレクリエーションの話をナベさんとしてるんだけど、明人君は車の免許は持ってるの?」
「一応、持ってますけど…」そう言うと、佐々木さんが笑顔で「ドライブに行こうか?」と言って来た。
ドライブ?そもそも、レクリエーションって何だ?俺、介護の事なんか何も知らないし、それが一体何なのかも知らないし、それにドライブって…
「じゃあ、今回は相川君は初めてなので僕が運転する車に同乗して貰おう。佐々木さんは単独でお願いします」
ナベさんが仕切り、ドライブの段取りを組み始める。
「僕は車の準備をしつつ、社長に報告してくるから、先に行ってます」
ナベさんが離れて行くのを見届けると、佐々木さんが少し嫌そうな顔をして言う。
「あの人、苦手なんだよね。今日、入ったばかりの明人君にこんな事を言うのも良くないけど、本当に生理的に受け付けなくてね…」
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