第45話 ちょっと諸事情があってね
〈即帰宅〉の効果を確かめてみるため、僕は一度、都市の外に出てみた。
どれくらい帰宅速度が上がるのか分からないけれど、自宅を目指す場合は〈歩行補助〉よりも有効な生活魔法かもしれない。
「〈即帰宅〉!」
そうしてこの生活魔法を発動すると……なぜか目の前の光景が消失した。
と思った次の瞬間には、先ほどの豪邸が眼前に出現する。
「えっ……さっきの家!? どういうこと……?」
しばらく何が起こったのか分からずに困惑する僕だったけれど、ある可能性に思い至る。
「もしかして……〈即帰宅〉を使うと、一瞬で自宅に戻れちゃうってことなの!?」
だとすればめちゃくちゃ有用な魔法だ。
もちろん、どれだけ離れていても使えるというわけにはいかないだろうけど。
「込める魔力量が多ければ、より遠くから帰宅できるかもしれないし。……あれ? なんか、もう一か所、移動できそうな場所があるような……まさか」
その場所までかなり距離がある。
そのため相当な魔力を消費しそうだけど、もしこれが上手くいけば、〈即帰宅〉はとんでもなく有用な生活魔法かもしれない。
「試してみよう……〈即帰宅〉! っ……やっぱり……っ!」
僕が立っていたのは、フェリオネアにあるホライア家の豪邸だった。
アーゼルからは馬車で一週間はかかる距離のはずである。
「一瞬でフェリオネアに来れちゃうなんて……でも、なんで自宅扱いに……あっ!」
実は僕もこの家の鍵を所有しているのだ。
僕は亜空間からその鍵を取り出す。
「まさか、この鍵こそが、自宅認定の鍵になってるってこと……? 鍵だけに……」
ついそんなことを口にしていると、気配を感じ取ったのか、三階の窓が開いた。
そこから顔を出したのは、白銀の髪の獣人少女で。
「あら、誰かと思ったらライルじゃない。やっぱり私と一緒に暮らす気になって、戻ってきてくれたのね!」
「……やあ、シルア。えっと……ちょっと諸事情があってね」
嬉しそうに破顔する彼女に、僕は苦笑気味に応じるのだった。
◇ ◇ ◇
ライルが〈即帰宅〉を使い、フェリオネアにある
彼を追放したエグゼール家では、とある問題が勃発していた。
「ご当主様、ライル様の魔力量の計測結果が出ました」
まだ若いその魔導具師の言葉を受けて、エグゼール家の当主、ガウス=エグゼールが鋭い眼光で睨みつけた。
「……貴様、今、何と言った?」
「はい、『鏡の審判』の後に、慣例通りライル様の魔力量を計測いたしました。通常の計測具では計測が不可能で、特別な計測具を使用したため、結果が出るまでに時間がかかってしまったのです」
「そういう話をしているのではない!」
ガウスは激高し、その若い魔導具師を思い切り怒鳴りつける。
「今さらそんなもの必要ないと言っておるのだ! なにせあいつの才能は生活魔法! 我が一族の恥さらしなど、とっくに追放している! その名を聞くだけでも不愉快だ!」
だが高位魔法使いが放つ凄まじい威圧を受けても、その魔導具師は平然としていた。
「そうですか。では、ここから先はただのわたくしの独り言ということで、お聞き流しください」
淡々と頷いた彼は、踵を返しながら独り言にしては大きな声で口にする。
「ライル様の魔力量は、成人時点……すなわちレベル1の段階でですが、ゆうに5万を越えていました」
優秀と聞いて雇ってやったが、こんな不敬な輩は即刻クビにしてやる! と内心で吐き捨てるガウスだったが、その言葉に思わず「は?」と呟いた。
ちなみにこの世界では、経験値の獲得に伴う能力の上昇を〝レベル〟という言葉で表すこともあった。
エグゼール家でもそれを採用しており、一流の魔法使いになるには、最低でもレベル50は必要だと考えられている。
「これをもとに、レベル50に到達したときの魔力量を推定すると……おおよそ53万になります」
さすがのガウスも、これには反応するしかない。
「ごごご、53万だと!? 当主である私ですら、レベル70で5000を少し超えた程度なのだぞ!?」
それでも歴代の当主の中では上位の魔力量なのである。
53万など、もはや異次元の魔力量だ。
ガウスの言葉を受けて、若い魔道具師は足を止めて振り返った。
「はい。軽く100倍以上ですね。無論あくまでも推定ですが。そしてこの魔力量で計算しますと、生活魔法の基本中の基本である〈火起こし〉の威力が、魔力量5000の魔法使いが放つ最上級火魔法インフェルノに匹敵します」
魔法の威力を決定づける魔力の出力は、保有する魔力量に依存する。
すなわち魔力量が多い魔法使いが発動すれば、下級魔法であっても、上級魔法を凌駕する威力になることがあるのだ。
「は、は、は、早くあいつを連れ戻せえええええええええええっ!!」
ガウスの絶叫が、エグゼール家の屋敷中に響き渡るのだった。
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