第33話 もはや見慣れた光景である

「ほ、本当に昆虫系の魔物がまったく出なくなりましたね……」

「いつもならあれだけ大量に湧いてくるというのに、効果抜群でござるな! お陰でまだ一度も吐いてないでござる!」

「ユズリハさん、普段は吐いてるんですか……」

「がはははっ! ユズリハのゲロ吐きなどもはや見慣れた光景である!」


『樹海迷宮』という名の通り、ダンジョンの内部は樹木で覆い尽くされていて、確かに昆虫系の魔物が出そうな環境だった。

 ただ、僕の〈虫よけ〉の効果で、一体も遭遇することなく地下1階を通過することができた。


「〈小物収納〉のお陰で身軽ですし、〈歩行補助〉で全然疲れずに高速移動ができる……ダンジョン攻略が大いに捗りそうです。レイラがあそこまで強く勧めてくれるわけですね(何より本当にかわいい……ハァハァ)」


 だけど生憎と僕の〈虫よけ〉は、このダンジョンにおいて昆虫系の次に多いという、植物系の魔物には効果がなかった。


「……気を付けろ。そこの木、トレントだ」


 ピンファさんが注意を促しながら、一本の木を指し示す。


「がはははっ! わしに任せるがよい!」


 普通の樹木にしか見えなかったけれど、ゴルドンさんが斧を担ぎながら接近すると、いきなり動き出した。


 幹の洞が人面のような形状を作り出し、長い枝葉を鞭のように振るう。

 トレントは樹木の魔物で、普段は普通の木のフリをしながら、獲物が近くを通ると突如として襲いかかってくるのだ。


「ふんっ!」


 ゴルドンさんが斧を振るい、トレントの幹をあっさりと輪切りにしてしまった。


「す、すごいパワーですね……」


 トレントの身体は硬く、物理攻撃で倒すのは難しいと本で読んだことがあった。

 なのに、たった一撃で切り倒してしまうなんて……。


「そこのキノコもだ」


 さらに草木に隠れるように生えていた、身の丈一メートルくらいの巨大キノコを示すピンファさん。


「ポイズンマッシュですね。毒を撒き散らすから注意が必要です」

「その前に倒すのがセオリーでござるよ! 拙者の腕前を刮目するでござる!」


 ユズリハさんが地面を蹴り、一気にそのキノコへ躍りかかった。

 毒キノコが動き出す前に、「刀」とも呼ばれる東方の剣であっさりと両断する。


「すごく俊敏でっ……しかも、斬撃が見えないくらい速い……っ!」


 本当に毒を撒き散らす前に討伐してしまった。


「うっ……く、苦しいでござる……」


 と思ったら、ちょっと毒をもらってしまったようである。

 あんなに威勢よく「拙者の腕前を刮目せよ!」なんて言ってたのに……。


「いや、毒なんて受けてないでござるよっ? ほんとでござる!」

「どう見ても顔色が良くないですけど」


 ユズリハさん、腕は確かなのだろうけど、少し残念な人のようだ。


「……前方からまた一体、近づいてきますね」

「ああ。ブッシュウルフだ」


 さらにそこへ現れたのが、全長二メートルほどの緑色の狼だ。

 草で身体が構成されているようで、これも植物系の魔物らしい。


「私に任せてください」


 リーゼさんが槍を手に前に出る。

 その槍の先端が、煌々とした光を放ったかと思うと、


「ふっ」

「~~~~ッ!?」


 ブッシュウルフの身体を脳天から貫いた。

 そのまま草の狼は絶命し、倒れ込む。


「つ、強い……っ!」


 今の輝きは恐らく、白魔法を槍の先端に付与させたものだろう。

 それで威力を上げ、ブッシュウルフを瞬殺してしまったのだ。


「みなさん、凄いですね! さすがCランク冒険者です!」


 ゲインたちDランク冒険者とは、明らかに格が違うのが見ただけで分かってしまう。


「ふふ、これくらいは当然ですよ。まだまだ上層ですからね」


 だけどリーゼさんは苦笑しながらそう謙遜する。


 確かにここまで順調に各階層を踏破してきたとはいえ、僕たちが今いるのはまだ地下8階だ。

 25階まであることを考えると、上層に位置する階層である。


「もう少し僕も戦闘で貢献できればいいんですけど……」


〈水生成〉や〈そよ風〉、それに〈冷房〉は、敵の動きを封じたりはできるけど攻撃力に乏しい。

 今この環境で使う意味は薄いだろう。


 かといって、威力の高い〈火起こし〉はこのダンジョンでは使いにくい。

 樹木が繁茂するここでは、あっという間に辺り一帯に延焼し、火の海になってしまうからだ。


「気にしないでください。ライル君はすでに十分過ぎるほど役に立っていますよ(私のモチベーション的にも!)」


 リーゼさんはそう言ってくれるけど、火力役の魔法使いを探していたことを考えると、物足りないはずだ。

 まぁでも、もう少し強い魔物が出てくるようになれば、戦闘でも役に立つ機会が出てくるかもしれない。


 そうしてさらに階層を進み、僕たちは地下10階に辿り着いていた。

 だけどそこで、僕たちはある危険地帯に迷い込んでしまう。


「マズいな……この辺り、トレントの森だ」


 そこには大量のトレントが待ち構えていて、まるで図ったかのように一斉に枝葉が蠢き出した。


「がはははっ! これはなかなか壮観であるな!」

「笑っている場合ではありません! こちらを完全に包囲しにかかってきています! しかも互いに密着し、即席の壁を作っています!」

「強引に突破するのを防ぐつもりでござるか!?」

「……賢いな」


 四方八方から躍りくる枝葉の鞭攻撃に、さすがのリーゼさんたちも苦戦している。

 もちろん枝葉は僕の方にも襲いかかってきた。


 ザンッ!


「後ろにいろ」


 それをピンファさんが短剣で斬り落としてくれた。

 次々と迫る枝葉の鞭を、ピンファさんは完璧に見切って捌いていく。


 すごい……ここまで戦うところを見たことなかったけど、こんなに強かったなんて。


 ただ、僕だけ指を咥えて見ているわけにはいかない。

 せめて、ただの足手纏いじゃないことを示さないと!


「〈火起こし〉はみんなを巻き込みそうで危険だし、やっぱり〈冷房〉で凍り付かせるのがいいかも。……でも、相手は植物系の魔物……もしかしたら、あれが効くかも?」


 ふと脳裏にあるアイデアが浮かぶ。

 早速とばかりに、僕はその生活魔法を発動した。


「〈草刈り〉!」

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