第32話 涎が出てるような

「ソロで岩窟迷宮を攻略できるというなら話は早いわ。あなたに合ったパーティをすぐに見つけてあげる。すでに心当たりがあるのよ」

「ほんとですか?」


 レイラさんが自信満々に請け負った、その翌日だった。

 冒険者ギルドに赴くと、レイラさんがとあるパーティを紹介してくれた。


「彼らは全員がCランク冒険者。さらにその上も狙えると言われてる、この都市でもトップレベルのパーティよ」


 四人組のパーティだ。

 一人は見たところ中年のおじさんだけれど、残り三人は二十代半ばくらいだろうか。


 この都市の冒険者ギルドを代表するような活躍をしているという。


「よろしく頼むぞ、少年! わしの名はゴルドン! こう見えてまだまだぴちぴちの二十代だ! がはははっ!」


 豪快に笑いながら自己紹介してくれたのは、中年のおじさん……と思いきや、どうやら他の人たちと同じくらいの年齢らしい。

 背はそこまで高くないけれど、肩幅が広く筋骨隆々の大男で、背中には大きな戦斧を背負っている。


「拙者はユズリハと申すでござる! 東方の島国出身のサムライでござるよ!」


 続いて独特な方言のお姉さんが、快活に挨拶してくれる。

 東方らしい艶やかな黒髪と特徴的な服装で、腰に下げている剣もこの辺りではあまり見かけない類のものだ。


「……ピンファだ」


 ボソボソと聞き取り辛い声で名乗ったのは、細身の青年。

 恰好からしてシーフだろうか。


「あなたがライル君ですね。私はこのパーティのリーダーをしているリーゼです。レイラから話は聞いています。よろしくお願いします」


 最後の一人は真面目で優しそうな女性だ。

 身に着けている装備から考えて、聖騎士かもしれない。


「よろしくお願いします! 生活魔法使いのライルです! 皆さんをサポートできるように頑張ります!」


 僕は元気よく挨拶する。


「……か、かわいい」

「リーゼさん? 今なんて……?」

「いえ、何でもありませんよ?(小動物が頑張ってるみたいでかわいいいいいいいっ! 実は私、年下のかわいい男の子が大好物なんですよおおおおおおっ!)」


 凛と背筋を伸ばし、澄まし顔をするリーゼさんだけど、なぜか少し呼吸が荒い。


「ハァハァ……じゅるり」

「あの、涎が出てるような」

「気のせいです」


 一瞬、涎を拭いたようにも見えたけど、きっとそれも気のせいなのだろう。


「がははははっ! やる気があってよいな!」

「何か分からないことがあったら、拙者が何でも教えてあげるでござるよ!」

「……ユズリハ、お前が人に教示できるような人間か?」


 さらに三者三様の反応が返ってくる。


「見ての通り、今の私たちは前衛にばかり偏っているんです。元々は魔法使いがいたのですが、事情があって引退してしまいまして。だからその代わりを探していたんです」


 と、リーゼさん。


「えっと……僕は生活魔法しか使えないですけど……?」

「はい、そう聞いています。ですが、レイラから強く薦められまして。最初は何を言っているのかと思いましたけど、彼女は信頼している受付嬢の一人です。説得されて、一度、試しに君をパーティに入れてみようということになったのです(かわいい男の子だと聞いたので即OKしましたけどね!)」

「そ、そうなんですね」


 急に不安になる。


 彼女たちが求めているのは火力のある魔法使いだろう。

 生活魔法使いの僕では、どう考えてもその期待に応えられない。


 僕は小声でレイラさんを問い詰めた。


「どういうことですか、レイラさんっ? 僕は生活魔法使いを求めているパーティを探していたんですよっ」

「ふふ、大丈夫よ。ライルくんならきっとこのパーティで活躍できるはず」

「何を根拠に……」


 このやり取りにリーゼさんが苦笑しながら、


「心配要りませんよ、ライル君。レイラが言うなら間違いありませんから」


 どうやらリーゼさんとレイラさんの二人は、プライベートでも付き合いがある友人関係らしい。


「……ゲインのパーティを紹介してくれたのも、レイラさんだったけど」

「あ、あれはごめんね? でも今回こそは大丈夫だから! それにリーゼなら、あのパーティと違って良くしてくれるはずよ!(まぁ、別の意味でちょっと心配なところもあるけれど)」





「ひとまず一緒に冒険をしてみましょう」


 とのことで、リーゼさんのパーティと共に、僕は街の外に来ていた。


 こうなったら生活魔法の便利さで彼女たちに貢献し、火力がなくてもパーティに置いておきたいと思ってもらうしかない。

 そう内心で決意しつつ、まずは〈小物収納〉で全員分の荷物を運搬することに。


「あ、あれだけあった荷物を、すべて亜空間に収納してしまうなんて……」

「がははははっ! これは随分と移動が楽になりそうだ!」


 さらに全員に〈歩行補助〉を使う。


「軽く歩いただけでこんなにスピードが出るなんて!」

「まるで走っているようでござるよ!?」


 そうして僕たちが二十分ほどで辿り着いたのは、本来なら歩いて一時間以上はかかる場所にあるダンジョンの入り口だった。


 ダンジョン『樹海迷宮』。

 大木の根元に存在する洞の中に形成されたここは、アーゼル周辺にあるもう一つのダンジョンである。


『岩窟迷宮』よりも高レベルで、上層であってもDランク以上の実力が求められるという。


「ライル君のお陰であっという間に到着しましたね」

「がはははっ! 荷物も預かってもらえるし、上級パーティが生活魔法使いを欲するのも理解できるな!」


 サポート要員冥利に尽きる言葉をいただき、ここまでの評価は上々だ。


「この『樹海迷宮』って確か、昆虫系の魔物が多く出没するダンジョンですよね?」

「そうです。人によっては見るだけで生理的嫌悪感を抱いて、挑戦を躊躇うダンジョンですが……ライル君は大丈夫ですか? 今さらですけど」

「大丈夫です!」

「……拙者はあまり大丈夫ではないでござる」


 ユズリハさんは虫が苦手らしい。


「〈虫よけ〉という生活魔法が使えるので、上層の弱い昆虫系の魔物であれば、戦闘を回避できると思います!」

「えっ、それは本当でござるかっ!?」


 上層から『岩窟迷宮』より強い魔物が出るとはいえ、地下25階まであるこのダンジョンで、リーゼさんたちは現在、地下15階まで踏破しているという。

 戦う意味の薄い上層の魔物を避けられるなら、より探索が捗るはずだった。

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