第29話 晴れて底辺冒険者ね
見習い冒険者の依頼を頑張ってこなしていったかいあって、僕はFランクからEランクに昇格することができた。
「おめでとう、ライルくん。これからは晴れて底辺冒険者ね!」
「はい、ありがとうございます!」
底辺とはいえ、冒険者は冒険者だ。
「こんなに早くおれに並んでくるとは……やっぱおれが思った通り、お前さんには才能があるぜ!」
同じ底辺冒険者のガッツさんも喜んでくれる。
「これで魔物討伐系の依頼も受けることができるわけですね」
「そうね。普通の生活魔法使いにはおススメしないけれど……ビッグシットスライムを倒せるライルくんなら問題ないと思うわ。でも、無理はしないでね? ゴブリンだって舐めてかかると痛い目みるんだから」
「分かっています」
最初からゴブリンは倒せていたけどね。
それから随分と経験値を積んだので、もっと強くなっているはずだった。
ステータスも以前とは比べ物にならないくらい上がった感覚がある。
まぁ生活魔法使いの身体能力なんて、向上したところでたかが知れているけど。
それよりも魔力量の上昇が大きい。
元から自信のあった魔力量が、数倍以上に増大している印象だ。
魔力操作もまた、以前よりスムーズになっている。
これは生活魔法を使う際にもメリットがあって、例えば〈火起こし〉の火をコントロールしやすくなっている。
「まだ加入できるパーティも見つからないみたいだし……今ならどれだけ戦えるか、ちょっと試してみようかな」
そんなわけで、僕は一人でダンジョン『岩窟迷宮』にやってきていた。
ゲインさんのパーティと一緒に挑戦したダンジョンだけれど、上の方の階層はゴブリンやコボルトといった最弱レベルの魔物ばかりなので、底辺冒険者にはちょうどいい難易度なのだ。
討伐依頼も受けてきた。
ゴブリンを倒して得られる「小鬼の角」を、十本以上集めてくるというものだ。
「小鬼の角」は、低級の武器などの素材として利用されるもので、売れば一本あたり銅貨数枚くらいにはなるらしい。
少額だけれど、さらに依頼の達成報酬が上乗せして支払われるそうだ。
もちろん達成報酬を期待しないのであれば、依頼を受けずに魔物を討伐し、素材だけ持ち帰って買い取ってもらうことも可能だ。
ただしその場合、冒険者のランクを上げるための評価には反映されないらしい。
「グギャギャ!」
「お、早速いた」
洞窟の通路の向こうに現れた一体のゴブリン。
まだ三十メートルくらいの距離がある。
――ドンッ。
「グゲ?」
構わず魔力弾を放つと、ゴブリンの頭部を貫いた。
そのままゴブリンは何が起こったのかも分からず地面に崩れ落ちる。
「うん、だいぶ飛距離が伸びたね」
以前は数メートルくらいまで近づかないと、ゴブリンの頭を貫通できる威力にはならなかったのに、この距離でも余裕で撃ち抜くことができた。
コントロールもばっちりだ。
「この調子でどんどん倒して――ん?」
不意に殺気を感じて振り返る。
するとそこにいたのは、地下1階に現れるにしては随分と体格のいい魔物……いや、人間だ。
「くくく、まさかたった一人でダンジョンに潜るとはなァ?」
「ゲインさん?」
目を血走らせながら不敵に嗤うのは、Dランク冒険者のゲインさんだった。
最後に会ったときと比べると随分とやつれた顔で、髪も伸び放題だ。
「禁固刑で捕まってるはずじゃ」
「はっ、前から付き合いのあった連中に、裏から看守と交渉してもらったんだよ」
どうやら賄賂を渡して脱走したらしい。
「ここなら冒険者の死なんてあり触れているぜ? 死体はやがてダンジョンに吸収され、証拠も残らねぇ……そんな場所に単身でのこのこ出向くなんてよ、間抜けにもほどがあると思わねぇか?」
「ええと、どういう意味ですか?」
「今ここで、てめぇをぶっ殺してやるっつってんだよォォォっ!」
ゲインさんはいきなり叫んだ。
「全部てめぇのせいだ! てめぇのせいでオレは冒険者をクビになり、実家からも勘当された! メーテアにも振られっ……オレはすべてを失っちまった! 残ったのはなかなか治らねぇ厄介な性病だけだ……っ!」
「性病はどう考えても僕のせいじゃないでしょ」
「黙れっ!」
大剣を抜き放ち、こちらに近づいてくる。
絶対的に有利な立場だと疑っていないのか、その顔には嗜虐的な笑みが浮かんだ。
「てめぇのその細い首なんざ、オレにかかれば一瞬で宙を舞うぜ?」
「……」
「死にたくなければ、オレの奴隷になるって手もあるかもなァ? もちろんあの獣人の小娘みたいに隷属魔法をかけてよォ。オレはな、てめぇのその生活魔法の才能だけは買っているんだ。特にあの〈小物収納〉ってやつだな。そいつを使えば魔薬も、禁忌の魔導書も、魔剣も、都市内に運び入れ放題だ! くくく、上手くいけば、裏社会でのし上がっていくことも可能かもしれねぇ!」
うーん、禁固刑になったというのに、まったく懲りていないみたいだ。
まぁ反省してたらそもそも脱走なんてしまいけど。
そして話しぶりから、多分すでに犯罪グループにでも入って活動しているのだろう。
この間のパトロール中に子供を誘拐している集団と遭遇したけど、ああした連中はこの街に少なくないのだ。
「どうするよ? 死ぬか、それともオレの奴隷になるか、どっちか選べ」
ふざけた選択肢を提示し、催促してくるゲインさん……いや、ゲインへ僕は言ってやった。
「お前みたいなゴミ人間の奴隷になるくらいなら、死んだ方が遥かにマシだよ、バーカ」
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