運命の根拠

第12話

「灼はさ、すごい変わった子でさ」

「それ何度も聞いた」


 朝、日直として早く登校した私と梨々香。


 1学期のころなんかは更新されたのネットドラマの事とかを話すけれど、最近は灼の事をよく話す。


 ただ最初は梨々香のほうから興味津々に聞いてきたのに、今は退屈そうにあくびをしている。


「あれからもう2週間だけど、マジで付き合ってるみたいなことしてるんだね」

「付き合ってるみたいって……そんな冗談みたいに」


 付き合うどころか婚約だから。


「だって冗談みたいだもん。というか聖がいきなり飛び出して陽鷹さんにプロポーズしたのですら冗談みたいな光景だったよ」


「そうかなぁ?」


 いや、そうかも。


 流石にあの時の私も無我夢中というか、変質者に襲われてる女の子を助けるような気分で飛び出してたからあまり客観的に見れてない。


「でも、そうしたいって思ったんだもん」

「どこからそんな衝動が湧き立つのやら……」


 梨々香が窓を開けてすぅーっと深呼吸をすると、朝日を背にしてこちらを見る。


「ただまぁ本当、意外だよね。聖に陽鷹さんがついていけてる」


「なんで?」

「なんでって……今まで男があんたにどれだけ振り回されたと思ってんの?」


 どれだけだろう。

 振り回した自覚はあるけれど、それをわざわざ人数とか回数で覚えてない。


「というか梨々香は知らないでしょ? 別に振り回してないかも」

「無理無理、あれだけの短期間で彼氏とくっついたり離れたりするだけで振り回してるみたいなもんだって」


 でも基本的には私が告白された側だし。

 告白もまぁしたことはあるけど、それだって私に好意を見せてる相手が告白してこないから代わりにしてあげたみたいなもの。


 運命の人だったりするのかなーって付き合ってみれば色々と食い違ったりして合わないからフった。


 誰にでもよくある事だと思う。


「んーまぁ振り回してるとは思うけど……仕方なくない? なんか違うんだもん」


「その”なんか”ってのをよく陽鷹さんは理解してるねって話」


「理解……?」


 今ひとつ言いたい事が読めなくて私はつい口にする。


「だって最近になってやっと陽鷹さんの魅力に色々気づいてきたんでしょ?」

「それがなにかおかしいの?」


「普通は付き合う前にある程度固まってるんだよ。魅力とか印象とか、色々と思い描いた上で付き合うの」


 何が言いたいか分からず首を傾げると、私の巻いた髪をぐりぐりとイジりながら梨々香は続けた。


「だから、自分のことなんも知らないで付き合おうって言ってきた人によく合わせるなってこと」

「あー……」


 たしかに。


「陽鷹さんは聖のどこが好きなの?」

「それは……」


 どこだろ。

 そういえば聞いたことなかった。


 たしかにそこは初歩の初歩じゃん。


「それに聖はどこを見て、灼を好きになったの?」

「それは……見た目?」


「本当に?」

「そう言われると……」


 難しすぎる。

 そこが分かったらもうちょい効率よく人生を謳歌できてる。


 運命の人を探したり、直感にピンとくる人を見つけようとするために他の男の告白だって受けない。


 でも、あそこで目が合った時に私は直感しちゃったんだもん。


 この人と、陽鷹灼と結婚するって。

 その瞬間にはもうなんか……好きで……。


「あーはいはい。ごめんね。悩ますつもりはないの」


 思考の堂々巡りの入り口に立った時、梨々香はパンと手を叩いた。


 それで意識が引き戻る。


「えっ?」

「夫婦とかなんだかは実感ないけど、そういうの大事じゃん? なんとなく一緒にいるだけって、割りかしすぐ離婚しそうだし」


「りこ……っ!?」


 ビリビリっと背中から電気が走ったような気分になった。


 言葉にされるとドキッとしてしまう。


 私から言い出さない限り離婚はないと灼は言ってくれていたけど、言葉自体の持つ現実味は私を緊張させる。


 もう灼とはこのまま本格的に結婚して同居して、お墓に入るまでハッピーに過ごせる物だと思ってるけど、そうじゃないかもって思わされる、


「理由って大事じゃん? だから親友のあたしがそこを立ち返らせてあげようと思ってさ」


「……より悩んだかも」


 結局、この直感の中身が見つからないことを思い出した。


 それでも良いというかなんというか。


 後付けで理由を見出しただけだったけど、結局……どうなんだろう?


 いやでも、幸せならよくない?


 灼も同じように感じてくれてるみたいだし、きっと私と直感が噛み合ったんだと思ってる。


 それが運命なんだよ。


 私はそう結論づける。


 ただ……


「悩んだ方が夫婦仲は良くなるよ。喧嘩して悩んで仲良くなって、理解した数だけ夫婦は強くなるってお母さん言ってたし」


 イタズラ気味に歯を見せて笑う梨々香は窓を閉めてそう言った。

 彼女なりに私を見て心配してくれてる。


 それはとてもよく伝わった。


 私も直感や思ったままに行動することが多いから、考えてくれるだけ嬉しい。


「ただ灼が私をどう思ってるかは気になるかも」

「だよね。あたしも気になる」


「えっ、それどういう意味」


 どういう意味でしょーっといつも通りのテンションに戻って梨々香はカーテンを閉めた。


 今日は体育がある。


 2学期から始まる隣のクラスと合同で行われる球技選択の体育。


 そういえば灼は何の球技を選択したんだろ。

 一緒になれるといいな。


 夏休み前に球技選択のプリントは提出したから示し合わせることはできないけど、運命の相手ならきっと一緒になるはず。


 うん。きっと一緒だよ。


 何となく、そう思う。

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