Chapter.5 膝枕と耳かき

//SE 風鈴の綺麗な音


(ルルテアナが窓を見ると、夜空が広がっている)


「もう、すっかり夜ですね……」


「星が、すごく綺麗……」


「……まだここにいて迷惑じゃないか、ですか?」


//段々と小声に

「迷惑だなんて、とんでもありません! むしろ、まだ一緒にいてくれたら、嬉しいと言いますか……」


「……そうだ! よければ後輩さん、来週発売する予定の新商品の実験台になってくれませんか?」


「あはは、怖いやつじゃないですよ。むしろ、『後輩さんの疲れを取る』の総仕上げとしてふさわしいかもしれません」


「そうしたら、わたしについてきてください」


//SE ふたりが店内を歩く音


「階段、少し急なので転ばないように気を付けてくださいね?」


//SE ふたりが階段を上る音

//SE ふたりが廊下を歩く音

//SE ルルテアナが自室のドアを開ける音


「じゃじゃーん。見てください、後輩さん! ここがわたしの部屋なんです」


//SE ふたりが部屋に入る足音

//SE ルルテアナがドアを閉める音


「どうですか、おしゃれでしょう? インテリアにもかなりこだわっているんですよ。白色と水色を基調にして、アクセントに少しだけ桃色も入れているんです!」


「……あれ? どうしたんですか、後輩さん? そわそわして」


「……男の人を気軽に部屋に上げない方がいい、ですか!?」


「で、でも! 誰でも上げる訳ではなくて! お父さんを除けば、その……後輩さんが、初めて、部屋に上げた男の人で……」


「…………」


//少し不安そうな声で

「……いや、でしたか?」


//安心したように

「あ、そういうことでは全くないんですね! よかったです! ほっとしました……」


「それでは後輩さんには、早速新商品の実験台になっていただきます!」


//SE ルルテアナの足音


「ええと、確か、あそこに仕舞っておいたはず……」


「……ありました!」


「じゃじゃーん、ユキドケトリの羽が付いた耳かきです。空色と白色のグラデーションが綺麗でしょう?」


「こちら側では木の感触を、こちら側では羽の感触を楽しめる耳かきという訳なんです!」


「そうしたら、このクッションに座ってっと……」


//SE ルルテアナがクッションの上に座る音


「さあ、後輩さん、来てください! わたしの太ももの上に頭を乗せるんです」


「恥ずかしい? 大丈夫ですよ、恥ずかしがらないで! 少々お耳を拝見するだけですから!」


「さあさあ、来てくださいね」


//SE 主人公の足音

//SE 主人公が寝転がる音


(耳かき中のルルテアナの声は近め)


「ありがとうございます! そうしたら早速、木の方から試してみますね」


//SE 右耳の耳かき(木)


「痛かったらすぐに言ってくださいね? わたし、肩揉みは得意ですけど、耳かきは初心者なので……」


「気持ちいい、ですか? ふふ、それはよかったです」


「ところで後輩さんのお耳、整った形ですね。今まで気付かなかったです」


「そう言われるのは初めて? 確かに、日常生活では余り褒められない部位かもしれませんね」


「少し奥の方にも挑戦してみましょうか……汚れがいい感じに取れるかもしれませんし」


「そっと、優しく……痛くないですか? ……それならよかったです!」


「耳の外側の部分もやらなきゃですね。意外とここに汚れが潜んでいたりするんですよ」


「ぐるっと、なぞるように……丁寧に……よし、いい感じにできました!」


「そうしたら今度は、羽の方を使ってみますね?」


//SE 右耳の耳かき(羽)


「……どうですか? ユキドケトリの羽の耳かき、最近流行っているらしいんです」


「先程よりも気持ちいい? そうなんですね! それは何よりです」


「後輩さんはユキドケトリ、見たことありますか? 雪解けの頃にだけ、まるで花が咲いたかのように、黄色と緑色のグラデーションに姿を変える鳥――すごく、ロマンチックですよね」


「普段の姿のときしか見たことないんですね。ふふ、わたしもです」


「いつか、見てみたいな……」


「……一緒に見に行こう、ですか? 本当に?」


「いいですね、それ……ぜひ、ご一緒させてください!」


//耳元でささやく

「ふふ、お約束ですからね?」


「……はい、ばっちりです! そうしたら、反対のお耳も先輩が綺麗にしてあげます」


「身体の向き、変えてくれますか?」


//SE 主人公が身体の向きを変える音


「それでは早速、先程と同じように木の方から使ってみますね」


//SE 左耳の耳かき(木)


「……耳かき初心者なりに、少しずつ上手くなってきた気がします。ふふ」


「後輩さんのお耳の形も、段々とわかってきた気がします」


「……後輩さんのこと、これからも沢山知れたらいいな」


「だってまだ、後輩さんとは半年の付き合いですもん。時期の長さで言ったら、後輩さんはお父さんにボロ負けですよ?」


「……ねえ、後輩さん。わたしたちが出会った日のこと、覚えていますか?」


「素材の採集から帰ってくるとき、急に大雨が降り出して。わたし、ずぶ濡れになってしまって……」


「そんなわたしに傘を貸してくれたのが、後輩さんでしたね」


「一本しかないから後輩さんはびしょびしょで去っていくし、名前も住んでいるところも教えてくれないし」


「傘、どうやって返したらいいかわからなくて、どきどきしたんですよ?」


「……だから、次の日に後輩さんがうちのお店に来たときは、びっくりしました」


「後輩さんもびっくりしていましたよね、ふふ」


「……ありがとうは、言った気がするけど。これは、言っていなかった気がします」


//耳元でささやく

「わたし、あのとき……すっごく、嬉しかったんです」


「見知らぬ人間に一本しかない傘を貸すなんて、普通の人にはできないですから」


「後輩さんは、すごい人です」


「……よし。それでは最後に、羽の方を使いますね」


//SE 左耳の耳かき(羽)


「ふふっ、後輩さん、お顔が少しとろけていますよ? そんなに気持ちいいんですね」


//耳元でささやく

「……かわいいですね、後輩さん?」


「え? ……ああ、わたしが後輩さんにかわいいって言うのはいいんですよ! 後輩さんがわたしにかわいいって言うのがだめなだけで!」


「平等じゃない? それはそうですよ、だってわたしが先輩ですから」


「後輩さんは先輩のわたしを敬ってくださいね? ふふっ」


「それにしても、何だか不思議な感覚です……自分の部屋に、こうして後輩さんがいるのって」


「こんなことになるなら、もっと細かいところまでお掃除しておけばよかったです。むう」


「後輩さんが次来るときは、ほこりの一つもないお部屋を目指しますね!」


「……よし。余りやりすぎても、お耳、痛くなっちゃいますもんね」


//SE 主人公が上体を起こす音


「…………」


「……あの」


//寂しそうに

「後輩さん、そろそろ帰っちゃうんですか……?」


「……え?」


「わたしが、何か悩んでいるか、ですか……?」


「……あはは、バレちゃいましたか」


//少し元気のない感じで

「流石、わたしの見込んだ後輩さんです」


「そうしたら、少しだけお話しさせてください」


「その前に、何か温かい飲み物を淹れてきますね」

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