【第7話】天星神の城を目指して
デイグルスを後にした二人の旅路は、炎天下にさらされながら始まった。
照り返す陽射しが砂の匂いを立ち昇らせ、遠くに浮かぶ蜃気楼のような城がぼんやりと姿を見せている。
「……で、結局どこに行くんだ?」
無骨に問いかけるギルに、シエラは肩をすくめる。
「はぁ? 決まってんだろ。天星神ってやつのところだよ」
シエラが即答するが、その声にはどこか面倒くさそうな色が混じっていた。
「……天星神?」
首を傾げるギル。
「おいおい、そこからかよ。星の力に目覚めた奴のことを“天星士”って呼ぶのは知ってんだろ?」
「あー、あのお姉ちゃんがそんなこと言ってたな」
ギルの曖昧な返事に、シエラは思わず頭を抱えた。
「まったく……で、俺ら天星士のトップに立ってまとめてるのが、その天星神様ってわけよ」
「ふむ」
「“ふむ”じゃねぇ! 反応薄いんだよ!」
「ふーん。で、どこにいるんだ?」
「ほら、あそこ」
シエラが指差す先を、ギルは目を細めて見やる。
その指の先には、巨大な城塞のような建物が見えていた。
白亜の塔が陽光を反射し、雲の彼方にまで届きそうにそびえている。
「……え、お城?」
「そう、あの馬鹿でかい城」
「そんなにでかいのか?」
「でけぇに決まってんだろ! 俺の街からも見えるんだぞ!」
「そーなんだ」
そんなこんな話をしながら足を進める二人だったが、歩みはどんどんと重くなっていくばかり。
どれだけ進んでも城が近づいている実感がないのだ。
「……このままじゃ足がもげる……」
「足はもげん」
「わかってるわ! 冗談だよ! お前ってやつはほんっと戦うことしか能がねぇな! もうちょっとワイワイやれねぇのかよ!」
ぶつぶつ文句を言いながら、シエラは前を睨み歩みを続ける。ギルは相変わらず無言でついてくるだけだった。
⸻
日が傾きかけたころ、街道を行く旅人たちとすれ違った。
農夫の一団や行商人、流浪の剣士らしい男たちが口々に噂を交わしている。
「――また何か騒ぎがあったらしいぞ」
「西の村がやられたんだよな……」
「今度は人が獣に変わったって話だ。ありゃもう災厄だ」
その言葉にシエラとギルは一瞬だけ視線を交わす。
しかし互いに何も言葉を発さず、すぐに黙々と歩を進めた。
ただ胸の奥に、説明できないざらついた感覚が残った。
⸻
夜。
道端の林で野宿を決めた二人は、焚き火を囲む。
「……火がつかねぇ……」
ギルが不器用に火打ち石を叩くが、なかなか火花が散らない。
「お前、ほんっと戦うことしか能がねぇな」
「……」
「はぁ、貸してみろよ」
シエラがやると、二、三度の火打ちでぱちりと炎が上がった。
「ほらな! こういうのはコツが――っておい、魚焼くな! お前血抜きもしてねぇだろ!」
無口なギルは無表情で串に刺した魚を焙っていた。
「うわっ、くっせぇ! 煙すげぇんだけど! もう少し文明的に生きろよ!」
火を囲みながら、シエラの愚痴は止まらない。だが不思議と、その声は夜の闇を和らげていた。
⸻
翌朝。
道の先から「おーい! おーい!」と声が響く。
二人が顔を上げると、奇妙な影がこちらに近づいてきた。
「……馬車?」
「え、でも、なんか……形がおかしくねぇか?」
目の前に立ち止まったのは、馬車に似た“何か”だった。
馬のようなものが引いているが、その顔はやけに人間じみていて、ぎょろりとこちらを睨んでいる。
「うわ、気持ち悪っ!」
シエラが思わず叫ぶと、その“馬”が「ん、ん!」と咳払いをした。
「喋った!?」
「……」ギルは眉をひそめる。
やがて馬車から人影が降りてきた。
「二人ともー! 迎えに来たよー!」
「誰だ!?」声をそろえる二人。
すると馬も車も溶けるように変形し、一人の紳士へと姿を変えた。
「……」
「……」
二人はただ呆然と立ち尽くす。
「すごいよねー。俺も最初見たときは驚いたよー」
涼しい顔を浮かべる青年が、軽く笑い飛ばした。
「ご紹介が遅れました。私は御者の使徒、カラマ・ペンナと申します。先ほどの姿は、私の
「……御者の使徒?
「ええ。人や物を自在に運ぶ魔力、というわけでございます」
呆けたシエラを無視して、彼は恭しく後ろを振り返った。
「そしてこちらがお二方と同じ、黄道十二使徒で在らせられる――人馬の使徒、クウ・カルバトス様です」
「やっほー! 初めまして!」
明るい声と共に、背の高い青年が手をひらひら振った。
「……また妙なのが出てきたな」
シエラは心底げんなりした顔をした。
「君たちが遅いから迎えに来ちゃったよ!」
「よく俺らの場所がわかったな」
「僕の魔力のおかげさ!」
カラマが補足するように頭を下げる。
「クウ様の魔力は(
「はー……なるほどな」
納得しかけるシエラだったが、クウが唐突に声をあげた。
「ねー、早く行こうよー。僕、何日も待ってたんだから!」
「……マジかよ」
そうして賑やかなやり取りののち、カラマが再び魔力を発動させると、肉体がぐにゃりと歪み、瞬く間に先ほどの“奇妙な馬車”へと変化していった。
「うぇ……やっぱり気持ち悪ぃな」
「さぁ御三方、お乗りくださいませ」
半ば呆然としながらも、シエラとギルはその奇妙な乗り物に乗り込んだ。
その後に続くようにクウはご機嫌な様子で座席に座り足を組む。
「では出発いたします」
馬車がごとりと揺れ、動き出す。
「なんか……おっそいな」
「心地よい旅路を満喫していただきたいので」
「いや旅じゃねぇから! もっと早くしていいんだよ!」
「そうですか。では――」
次の瞬間、景色が流星のように後ろへ吹き飛んでいった。
「は、速っ……! 今度は速すぎだって!」
「急いでいるとのことでしたので」
「怒ってんのか!? さっき“遅い”って言ったのが悪かったのか!? ごめんって! 勘弁してくれぇぇ!」
クウが隣でケラケラと笑っていた。
そして――遠くに、再びあの巨大な城が姿を現す。
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