第24話 そして、輝く未来へ、真の名前の先へ
数年の月日が流れた。
ヴァルシュ=ゼネリク王国は、
レオンハルトの統治のもと、
目覚ましい発展を遂げていた。
「記録消去罪」は完全に過去のものとなり、
人々は、互いの存在を尊重し合い、
希望に満ちた日々を送っている。
王都は活気に溢れ、
多くの人々が行き交っていた。
私もまた、王国の変革に深く関わり、
レオンハルトの傍で、彼を支え続けた。
彼の王妃として、
そして、一人のスナイパーとして。
私の銃身に刻まれた「Ø」の記号は、
もはや薄れ、その上に、
「雨宮」の文字が、
うっすらと彫り込まれていた。
それは、私が「ゼロ」として生きた証と、
「雨宮凛」として再生した証の両方を示す。
ルイゼ=グラフの「再生の訓練場」は、
多くの「ゼロ」たちを迎え入れ、
彼らに新たな生きる意味を与えていた。
かつて「無戸籍者の砦」と呼ばれたその町は、
今や、希望の光に満ちている。
私は、そこで「スナイパー教官」として、
後進の育成に尽力していた。
私の教え子たちは、
皆、過去に深い傷を負った者たちばかりだ。
彼らに、銃の技術だけでなく、
「誰かを信じることの強さ」
そして、「生きる意味」を伝えていた。
ユズは、成長し、
今やルイゼ=グラフのベテラン傭兵として、
若手指導にあたっていた。
彼は、私が教えた技術を完璧に習得し、
私と同じように、
風を読み、魔力の流れを感じ取る。
彼の瞳は、以前にも増して輝いている。
彼は、いつも私の傍を離れず、
私を「ゼロさん」と呼び、慕い続けてくれた。
ティナもまた、訓練場の運営を支え、
「ゼロ」たちの精神的なケアを担当していた。
彼女は、皆にとって、
温かい母親のような存在となっていた。
ある日の午後。
ルイゼ=グラフの訓練場。
ユズが、一人のスナイパー志望の少女を、
私の元へと連れてきた。
その少女は、私の年齢くらいの、
どこか孤独を抱えた瞳をしていた。
首には、私と同じ「Ø」の記号が刻まれた
ペンダントを身につけている。
彼女もまた、「社会的な死」を経験した者なのだろう。
「ゼロさん、この子、
俺みたいにゼロさんの弟子になりたいって。」
ユズが、嬉しそうに言った。
少女は、私をまっすぐに見つめ、
何も言わずに、ただ、頭を下げた。
その姿は、かつての私を見ているようだった。
私は、少女の瞳を覗き込んだ。
その奥に、深い絶望と、
そして、かすかな希望の光を見た。
私は、磨き上げられた自身の銃を、
少女へと手渡した。
銃身には、「Ø」の記号の上に、
薄く「雨宮凛」の名が彫り込まれている。
それは、私の全ての過去と、
そして、現在を示す、
私自身の「証」だった。
私の口元に、
かつての「ゼロ」では見られなかった、
穏やかで、温かい笑みが浮かんだ。
それは、心からの、
そして、喜びに満ちた笑顔だった。
「名前なんて、まだいらない。」
私の声は、優しく、
そして、確かな力を持っていた。
「でも、撃つ意味は……最初から持っていていい。」
少女は、私の言葉に、
目を大きく見開き、
そして、力強く頷いた。
その瞳には、新たな希望の光が宿る。
少女が銃を受け取り、
私が背を向け、去っていく際、
少女がそっと呟いた。
「……ゼロ、さん。」
私の心臓が、微かに揺れる。
その言葉は、私を「ゼロ」として呼ぶ、
昔の呼び名。
だが、もう、その言葉に、
悲しみも、絶望も、ない。
そこにあるのは、
ただ、純粋な憧れと、信頼。
私は振り返らなかった。
ただ、ほんの少しだけ口角を上げた。
その微笑みは、もはや「ゼロ」ではない。
**「雨宮凛」としての、**
**そして、「レオンハルトと共に生きる彼女」としての、**
**温かさに満ちていた。**
私の心の声が、響き渡る。
**「私は“凛”。**
**誰かのために撃つスナイパーで、**
**名前を呼ばれるのが……**
**少しだけ、嬉しい」**
それは、私が、
「社会的な死」を乗り越え、
愛する力を取り戻し、
そして、真の名前を、
心の底から受け入れた、
その証だった。
私の物語は、ここで終わりではない。
この世界のどこかで、
新たな「ゼロ」たちが、
それぞれの「撃つ意味」を見つけ、
未来へと歩み出す。
彼らの物語が、今、始まる。
そして、私とレオンハルトの物語もまた、
輝かしい未来へと、続いていく。
現代世界。
どこかの機関の、
古びたデータサーバー。
そこに、削除されたはずの
膨大なデータの中に、
光の粒子のように、
微かなデータが浮かび上がっていた。
それは、「雨宮凛」という、
かつて抹消されたはずの存在が、
形を変えて、確かに、
世界に再認識されたことを暗示していた。
彼女の「社会的な死」は、
愛と絆によって、
完全に乗り越えられたのだ。
Ø:ゼロ・コード ―記録抹消者は、異世界で「生」を取り戻す― 五平 @FiveFlat
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