第23話 スナイパーとしての未来、そして小さな命の兆し
ヴァルシュ=ゼネリク王国の改革は、
着実に進んでいた。
レオンハルトは、国民からの絶大な支持を得て、
真に開かれた国を築きつつあった。
「記録消去罪」の撤廃は、
この国の歴史に新たな光を灯し、
多くの人々に希望を与えた。
私もまた、彼の傍で、
彼の改革を支え続けた。
彼の護衛として、
そして、彼の政策の助言者として。
かつて、誰とも関わろうとしなかった私が、
今、一国の未来に深く関わっている。
その事実に、私は、
大きな喜びを感じていた。
私の「ゼロ」としての活動も、
新たな局面を迎えていた。
もはや、過去から逃れるための狙撃ではない。
未来の平和を守るための、
そして、この世界で「ゼロ」の悲劇を
繰り返させないための、狙撃。
私は、レオンハルトの命を受け、
国内外の紛争の芽を摘み、
裏で暗躍する者たちを排除した。
私の銃身に刻まれた「Ø」の記号は、
もはや冷たい烙印ではなく、
この世界の平和を守るための、
確かな証となっていた。
ある日、レオンハルトが、
私をルイゼ=グラフへと誘った。
「凛。君に、見せたいものがある。」
彼の瞳は、期待に輝いていた。
ルイゼ=グラフ。
かつて「無戸籍者の砦」と呼ばれたその町は、
今や「再生の拠点」として、
多くの人々で賑わっていた。
私たちは、町の奥へと進む。
そこには、広大な敷地が広がっていた。
訓練場。
射撃場。
そして、簡易な宿舎。
「ここで、『再生の訓練場』を建設する。」
レオンハルトが、そう言った。
「『記録消去罪』によって存在を消され、
あるいは、社会から見放された者たち。
彼らに、ここで新たな技術を教え、
生きる場所を与える。
そして、彼らが、この世界の平和を守る
新たな力となるのだ。」
彼の言葉に、私は深く感動した。
それは、私自身の再生のようでもあった。
レオンハルトは、私へと視線を向けた。
「そして、その教官として、
君に、力を貸してほしい。」
彼の瞳は、私に、
確かな信頼と、期待を向けていた。
私は、彼の言葉に、静かに頷いた。
「……わかった。」
私の声は、冷静だったが、
その心は、歓喜に震えていた。
私が、誰かを教える。
私のような、過去を持つ者たちに。
それは、かつての「雨宮凛」では、
考えられないことだった。
だが、今の私なら、できる。
私は、この世界の「ゼロ」たちに、
新たな希望を与えることができる。
私は、レオンハルトと共に、
「再生の訓練場」の建設に尽力した。
ユズも、この計画に深く関わっていた。
彼は、成長し、立派な若者となっていた。
「ゼロさん! 俺、ここで、
ゼロさんの教えを広めます!」
彼の瞳は、以前にも増して輝いている。
彼は、訓練場の運営に奔走し、
他の「ゼロ」たちを励ましていた。
ティナもまた、訓練場の運営を支え、
精神的なケアを担当していた。
彼女は、かつて自身の経験した苦しみを、
今、他の人々を救う力に変えている。
日々、訓練場には、
多くの「ゼロ」たちが集まってきた。
彼らは、それぞれが深い傷を負っている。
社会から存在を否定された痛み。
裏切りによる絶望。
私は、彼らに、銃の技術を教えるだけでなく、
生きる意味を、
そして、誰かを信じることの尊さを、
言葉ではなく、私の生き様で伝えた。
彼らは、私の言葉に、
真剣に耳を傾けてくれた。
そして、彼らの瞳には、
次第に、希望の光が宿っていくのが見えた。
そんな穏やかな日々が続く中、
私の身体に、小さな変化が訪れていた。
それは、私の意識とは裏腹に、
確実に進行していた。
時折、感じる微かな吐き気。
そして、朝の倦怠感。
最初は何かの病気かと思ったが、
ティナが、私の体調の変化に気づき、
優しく私に尋ねた。
「ゼロさん……もしかして、」
彼女の瞳が、何かを確信したように輝く。
彼女は、私を王都の医者の元へと連れて行った。
診察を受け、結果を待つ間、
私の心は、激しく動揺していた。
そして、医者から告げられた言葉は、
私にとって、
予想もしないものだった。
「おめでとうございます。
ご懐妊です。」
その言葉に、私は、
頭の中が真っ白になった。
私は、レオンハルトの元へと駆けつけた。
彼の執務室。
私は、震える声で、彼に告げた。
「……私、あなたの子を、授かった。」
私の言葉に、レオンハルトは、
最初、呆然とした表情を見せた。
そして、ゆっくりと、私の手を取った。
彼の瞳には、驚きと、
そして、この上ない喜びが宿っていた。
彼は、私の身体を抱きしめ、
静かに、私の頭を撫でた。
「ありがとう……凛。」
彼の声は、震えていたが、
確かな愛情に満ちていた。
それは、私自身の「社会的な死」からの、
完全な復活。
そして、「愛する力を取り戻した」証だった。
私の中に、新しい命が宿る。
それは、私とレオンハルトの、
そして、この世界の、
未来への希望だった。
数日後、私は、レオンハルトと共に、
現代世界へと続く、
かつての「雨宮凛」の「墓標」を訪れた。
そこは、この異世界の片隅にひっそりと佇む、
誰も知らない場所だった。
簡素な石碑が一つ。
そこには「名もなき勇士」と刻まれている。
それは、私が「社会的な死」を経験した、
あの時の名残なのだろう。
私は、石碑に触れた。
冷たい石の感触。
その石碑は、私自身の過去を、
象徴しているようだった。
かつて、私は、ここに葬られた。
「雨宮凛」という存在は、
社会から抹殺され、
この場所に、ひっそりと埋められたのだ。
あの男の言葉が、脳裏にこだまする。
「私は殺さない。社会があなたを殺すだけ」
だが、もう、その言葉に、
私は縛られない。
レオンハルトが、私の隣に立つ。
彼は、私の手を握りしめた。
「君は、もう『名もなき勇士』ではない。」
彼の声は、優しく、力強かった。
私は、その言葉に頷き、
銃身の「Ø」の記号に、
そっと指で「雨宮」の文字をなぞった。
「雨宮凛」。
それは、私がかつて持っていた名前。
そして、今、私が再び取り戻した、
私自身の名前。
私は、過去の自分に、静かに別れを告げた。
さようなら、雨宮凛。
さようなら、ゼロ。
そして、ありがとう。
この場所から、私の新しい人生が始まる。
私は、もう「ゼロ」ではない。
私は、ここにいる。
私の傍には、レオンハルトがいる。
そして、私の中には、新しい命が宿っている。
それは、私自身の「再生」の証。
そして、愛と希望に満ちた、
新しい未来への、確かな一歩だった。
私は、静かに、
その新しい命の息吹を感じていた。
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