我が国で死刑制度の賛否が叫ばれる中、心を揺さぶる一編でした。

裁判員制度が始まって四年。現実の殺人事件を思い浮かべることで、この物語の扱うテーマの複雑さが、いっそう迫ってくるように感じられます。

本作は、読む者の「正義感」に静かに楔を打ち込む、極めて重く、誠実な物語です。

田口の罪は明白である一方、その「動機」に滲む人間らしさが、看守の揺らぎを通して読者の心に波紋を広げます。「正しい立場」に立つ人間の葛藤が、「善と悪」「法と情」の曖昧な境界線を、痛いほどに浮かび上がらせていきます。

余白の多いラストも秀逸で、読後も深く考えさせられる余韻が残ります。「これからの罪と罰について考えるべき何か」という問いは、物語を読み終えた私自身に、そっと委ねられているように感じました。

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