第14話『アイツは以前言っていた…』
歩き始めてから20分。
俺達はダラダラと喋りながら道なりに沿って歩いていた。
「羨ましいぜ水城。藍田さんと2人班とか」
なぜか陽キャ男子に羨望される。
「どこが良いんだ?」
「だってあの白銀の氷姫だぜ? そんな人を独占出来るとか、誰だって羨むに決まってるだろ」
「なるほどな……」
この陽キャ男子の言う通り、今の俺の状況は誰だって羨む。
白銀の氷姫を独占出来るなんて、人生で一度あるかないかぐらいのビッグイベントだ。
そのイベントに参加出来ている時点で、俺は運が良い。
だが参加出来たからといって、必ずしも喜べるとはかぎらない。
独占出来たとしても、お姫様に愛想を尽かされたり、罵倒するような発言をされれば、一生癒えない傷として心に刻まれる。
実際、飲食店に入って以降機嫌が悪くなり、あまり口を聞いてくれなくなった。
俺以外の奴にどういう対応するか知らないが、最高のイベントになるかならいかはそいつの接し方次第だ。
まあ、9割9分の人間が後者に属することになると思うが……。
「水城は嬉しくないのか?」
「嬉しいとは思わねえな。でも嫌とも思わねえ」
「どうして嬉しくないんだ?」
「それは……」
「裏では我儘で他力本願な奴なんだ」とは流石に言えない。言ったら雷どころか、地球を滅亡される隕石が降ってくる。
かと言って、皆を納得させる言い訳も思いつかねえ。
「嘘つくなよ聡仁。本当は嬉しいんだろ?」
思考を巡らしていると、凌空に俺が虚言を吐いていると言われる。
まさか、俺をよく知っている凌空に疑われるとは。
「嘘だと思うエビデンスを提示してくれ」
「5月だったっけ? お前、藍田さんが登校している姿をじっと見つめていただろ? そんなの、好意がないとしないと思うが」
「ぐっ……確かに見てはいたが、そんな気持ちで見てねえよ」
「ホントか?」
凌空はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
コイツ、俺で遊ぶためにわざと訊いてきやがったな。
「なんだよ水城! 藍田さんのこと好きだったのかよ!」
「いや、全然違うけど……」
「こう見えて、聡仁はむっつりんなんだよ」
「なんだ、そういうことか!」
「だから違うって!」
陽キャ男子に背中をバシッ!と叩かれる。
マジで早く帰りてえ。こういうノリが苦手だから、ハッピーヒューマン達と関わりたくないんだよな。
「あれ? ……みんな! 藍田さんどこ行ったか知らない?」
男子だけで盛り上がっていると、1人の陽キャ女子がそう尋ねてくる。
「藍田さん? 知らないけど」
凌空が返すと、他の男子も続いて頷く。
「……あ、いた!」
1人の女子が後ろを見ながら指を差す。
その方向には、俺達から距離を取り、俯いているお姫様がいた。
「なにしてるの藍田さん? 早くこっちに来なよ」
「え、ええ。分かったわ……」
陽キャ女子にそう促された藍田萌香は急ぎ足でこちらに来る。
「どうしたの藍田さん? 元気ないみたいだけど……もしかして体調が悪かったりする?」
「全然大丈夫、気にしないで。少し歩き疲れただけだから……」
何も問題ないと言われた陽キャ女子は、その後「困ったことがあったらなんでも言ってね」とだけ告げ、他の女子と喋り出す。
「じーっ…」
「……なによ」
「別に、何でもねえよ」
怪しい。
陽キャ女子の言う通り、藍田萌香には元気がない。
でもそれは、体調不良や疲れで元気が無くなったようには見えない。
いつもより覇気がなく、気分が沈んでいるような感じがする。
もしかして、あの時からかったのが精神的に結構きてるのか?だとしたら、ちょっと心苦しいな。後で謝っておこう。
☆☆☆
それから歩くこと数十分。
「ねえ藍田さん! うちらと一緒にあっちに行かない?」
「えっ……でも班でまとまって行動しないと……」
「大丈夫だよ近くだし! それに女子だけで話したいこともあるし。ね? お願い!」
そんな話声が、後ろから聞こえてくる。
どうやら陽キャ女子達は藍田萌香を独占したいようだ。
『女子だけで』というのは、おそらく色恋関連の話をするため。
だがこれは建前であり、本当は女子から見ても高嶺の花に映る白銀の氷姫を独占して、色々質問するための口実に過ぎない。
だからわざわざ男子禁制にした。
というのが、俺の脳が導き出した答えだ。
「えっと……」
「お願い! うちらどうしても藍田さんと喋りたいの!」
「……わ、分かったわ」
「ホントに! ありがとう」
「でも男子には言っておいた方がいいんじゃない、かな?」
「おっけー。なら男子に言ってくるね」
陽キャ女子達に詰め寄られた藍田萌香は根負けし、渋々その誘いに乗った。
声を聞く限り、めちゃくちゃ嫌そうにしているが、民の言うことを聞くのもお姫様の仕事なので……まああれだ、健闘を祈るとしよう。
「ねえねえ男子」
「ん? どうした?」
「うちら藍田さんと向こうのお店行くから、近くで待っててくんない?」
「了解。じゃあオレら男子もあっちの店行くか!」
凌空の提案で男子グループも店の中に入ることになる。
これで少しは陽キャ成分が薄まるな。
男女別に分かれることになった俺達は、集合場所と集合時間を決める。
「じゃあ14時20分、ここに集合な」
「りょーかーい。もう行って良いよね凌空くん?」
「いいぞ」
凌空の一時解散の合図と同時に、女子達は藍田萌香の下に駆け寄る。
「じゃあ行こっか、藍田さん!」
「う、うん……」
ま、精々頑張ってくれよ姫さん。
そのあと藍田萌香は陽キャ女子に手を掴まれ、言われるがままに足を──
『……けて……』
ああ、なぜ気づかなかった。
どうして気づいてやれなかったんだ。
知っていたはずなのに……。
アイツは以前言っていた。
「知らない人と喋るのは苦手」「大人数だと萎縮してしまう」と。
だがそんなものじゃない。
さっきのアイツの表情は不安以上のもの……恐怖心を抱いている表情だ。
藍田萌香は手を取られ、連れられようとした瞬間──俺の方に振り返った。
その時の眼はいつもの青く煌めく宝石とは違い、輝きを失い、虚ろな眼をしていた。
そして未知の世界に、それも常闇に引きずり込まれていくような表情を……。
『助けてほしい』『止めてほしい』『引き離してほしい』
そんな眼が、俺に訴えかけていた。
「バシッ!」
考えてなどいない。考える暇もない。
「聡仁?」
「え、藍田さんになにか用なの? 水城くん?」
俺の右手はなぜか、藍田萌香の腕を力強く掴んでいた……。
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拙い文章ですが、引き続き読んでいただけると執筆の励みになります!
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