第7話『お家デート?①』
「着いてしまった……」
気づけば俺は、藍田萌香と共に自分の家の前に立っていた。
道中説得を試みたが、効果はゼロ。一瞬たりともお姫様の歩みは止まらなかった。
マジで俺、女子を家に上げるのか?
こんなの、傍から見たら完全にお家デートじゃねえか。
「さ、早く開けてちょうだい」
入るのに躊躇っていると、ドアを開けるよう促される。一応、俺ん家なんですが……。
渋々俺はカギを回し、ドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
藍田萌香は俺より先に家に入る。遠慮というのはないのかコイツには。
幸い、母さんは綺麗好きなので急に人を呼んでも問題ない。唯一問題があるとしたら俺の部屋ぐらいだ。
「それで、猫はどこにいるの!」
入るなり藍田萌香は、星のように目を輝かせながら俺に尋ねてくる。
「探すからちょっと待っ──」
『ニャーオ』
リビングに向かおうとすると、上から
「ねこっ!!!」
「お、おい!」
鳴き声が聞こえるなり、藍田萌香は靴を脱ぎ捨て階段を駆け上がる。
「どこにいるの! 早く会わせて!!!」
先程よりも目を輝かせながら訊いてくる。眩しすぎて直視できねえ……。
「一度落ちついてくれ。ちゃんと触らせてやるから」
落ち着くよう促した俺は、まず自室以外の部屋を探し回った。
だが吉英の姿はどこにも見当たらず、残すは俺の部屋だけとなった。
「どうか俺の部屋じゃありませんように……」
神頼みし、恐る恐る扉を開ける。
『ニャー…』
最悪だ。
ベッドを見ると、そこには吉英が俺らを歓迎するかのように座っていた。
「ねこちゃんだ!!!」
「おまっ! ここ俺の部屋だって!」
俺の部屋などお構いなしに、藍田萌香は吉英へと飛びつく。
「は~ん! 一体どうしたらこんな可愛い生物が生まれてくるの~~~」
猫に夢中で、俺の声など一切聞こえていないのか?
そのあと何度も声を掛けたが、反応する気配は全くなかった。
(はあ……何やってんだよ、俺)
学校一の美少女が自分の部屋に居るというのに、猫と戯れているのをただ眺めるだけとか、普通にバカだよな。
でも俺にはそれぐらいの権利しかない。手を出すなんてもってのほかだ。
「ねえ! この子なんていう名前なの!」
「……吉英だ……」
「分かったありがとう! 吉英、肉球触ってもいいでちゅか~?」
コイツからしたら、俺なんてモブキャラにしか映っていなよな。
それから藍田萌香はモフモフしたり、吸ったりして思う存分猫と戯れた。
☆☆☆
あれから1時間以上が経過した。
藍田萌香が猫と戯れている間、俺は部屋の隅っこで漫画を読んでいた。
読んでいる最中に話し掛けられることはなく、ここが本当に自分の家なのか一瞬疑った。
お家デートなんて、ただの幻想だったんだな……。
「可愛いかった~」
堪能しきったのか、藍田萌香は抱えていた吉英を離す。
解放された吉英はペタペタと床を歩き、部屋から出ていった。やっと終わったか。
時刻は17時過ぎ。目的も果たしたし、これでようやく俺も解放されるな。
「──ねえ!」
「っ!?」
「なにしてるの?」
「えっ……ただ漫画読んでただけだが……」
漫画を読んでいると、上から藍田萌香が顔を覗かせていた。
「あ! それ私も読みたかったの! 今度貸してちょうだい」
「お、おう……今度な」
ビックリした。
ふと顔を上げると女子の、それも白銀の氷姫の顔が目の前にあるとは。
「あなた、漫画とかアニメ好きなの?」
「そう……だな」
「ふーん……ガサガサ」
なんだコイツ。
俺に尋ねるなり、藍田萌香は本棚を物色し始めた。
一応男子の部屋なんですが……。
もしエロいやつとかあったらどうするんだよ。(そんな物はねえけど)
ていうか、さっさと帰ってほしいのだが。
「ねえ、今からこのゲームやらない?」
「え、まあ、いいけど……」
「やったー! 前からこのゲームやりたかったのよねー」
やべ、なんか勢いで頷いてしまったわ。
藍田萌香が見つけたのは協力型アクションゲームのソフト。春休みに凌空と遊んでいたゲームだ。
「早くやりましょ。コントローラー貸して」
「はいよ……」
言われるがまま、俺はゲームの準備を始める。いつになったら帰るんだよ。
「まだ居る気なのか?」
「邪魔だったかしら?」
「別に邪魔じゃねえけど……男子の部屋に長時間いても良いのかよ」
「私は気にしないわ。それに、そういうことをする度胸なんてあなたにないでしょ」
「グハツ…!」
お姫様が打ったパンチは、俺の胸にクリティカルヒットする。
次喰らったら間違いなく失神してノックアウトするだろうな。
「そんなことより、この部屋熱くないかしら? エアコンつけないの?」
「つけたいとこだが、絶賛故障中でして。後で扇風機持ってくるから待ってくれ」
「分かったわ」
5月だが気温は30度近く、今にも身体が溶けそうだ。
ゲームを起動させている間に、俺は隣の部屋に行き扇風機をかっさらう。
それを自室に運び、コンセントに挿す。
てかこの部屋、めっちゃ花の香りがするんだが。
まさか女子がいるだけで、俺の部屋がお花畑に変貌するとは。
「回して良い?」
「おう、いいぜ」
藍田萌香はカチャッとスイッチを押す。
「はあ~涼しい~~。よいしょっと」
「っ!? お前なにやってんの!?」
チラッと横を見ると、藍田萌香が汗じみたソックスを脱ぎ始めた。
「なにって、暑いから脱いでいるだけだけど」
「そういう問題じゃなくてっ!」
ソックスを降ろすと、水滴を付着させた白い肌が顔を覗かせる。羞恥心とかないのかよ。
『スー…』
やがでソックスが最下層まで降り、雪のように真っ白な肌が世に解き放たれる。
見るな。見るんじゃねえ俺。
凝視したら、本当に紳士ではなくなるぞ。理性を保つんだ。
「明日からソックスはやめようかしら。でもそれだと日焼けしちゃうしなー。あなたはどっちが良いと思う?」
「そんなの自分で決めろっ!」
誘ってんのか、素で脱いでいるのか分からん。あとで要注意人物リストに入れておこう。
「んんっ! さ、やるぞ」
「楽しみだわ」
準備が終わり、気を紛らわすため俺はゲームをやるよう促した。
☆☆☆
お姫様と一緒にゲームをプレイすること30分。
「なっ…」
「あの天下のお姫様も、ゲームは下手くそみたいだな」
「……うっさい!!!」
どうやら藍田萌香はゲームのセンスが皆無のようだ。
比較的難易度の低いボスに4回挑んだが、残機が全てなくなり、ゲームオーバーになってしまった。
ちなみに全ての残機を消費したのはもちろんコイツだ。
初めてプレイするというので、俺は後ろでヒールしたりシールドを張ってやったが、ダメージを負う速度の方がなぜか速く、負けてしまった。
「まだやるか?」
「当り前よ! クリアするまでやるわ!」
「りょーかい」
完全に火が着いちまったな。
これはまた、長い闘いになりそうだ。
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