第4話『告白イベ!?』

 日曜日の昼。


『ニャー』

「母さん、それどうしたの?」

「あら聡仁〜見てこれ、可愛いでしょ」

「可愛いけど……」


 自室から出て1階に降り、リビングに行くと母さんが猫を抱いていた。

 どうやら猫を飼うことにしたらしい。急に飼うものなので父さんに許可を取ったのか訊くと、すんなりオーケーをくれたみたいだ。


 ちなみに猫の名前は吉英きちひで

 吉英か……どっかで聞いたことある名前だが、確かアイツん家の犬の名前が英吉ひできちだったよな?なんかややこしいな。

 でもまさか、小学生の頃に抱いた願望が高校生になって叶うとは。これで苦悩の日々も乗り越えれそうだ。



    ☆☆☆



 月曜の朝8時15分、今日も今日とて重い足を引きずりながら学校へ登校する。

 

「はあ……学校だりーなー」


 月曜日──それは週の始まりを表すと同時に、憂鬱が幕を開ける言葉でもある。

 学生なら学校に、社会人なら勤め先に数日間拘束され、自由を奪われる。

 『月曜日』はおそらく、世間で最も嫌われている曜日だと思う。

 可哀そうだな。週の初めってだけで嫌われるのは。

 でもだからって、俺が月曜日を好きになることはないけど。


「よいしょっと」

 

 靴を下駄箱に入れ、学校指定のスリッパに履き替える。

 

「ドス…ドス…」


 重い足でゆっくりと階段を上り、教室へ向かう。

 

「ガラガラ…」


 教室に着いたので、扉を開ける。


「おっす聡仁! 元気にしてたか?」

「なんだよその質問。いつも通りだ」


 中に入るなり凌空におはようの挨拶される。月曜だっていうのによくそんなテンションで挨拶できるな。でもまあ、凌空らしいと言えば凌空らしいか。

 挨拶を済ませた俺は席に着き、カバンから携帯を取り出して日課の情報収集を行う。


「ふむふむ……マジで!? この人、新作出すのか!」

『ガラガラ…』

『おい! みんな来たぞ!』


 情報収集していると、後ろの扉が開く。

 開くと同時に、クラス全員が(俺は除く)その扉に目を向ける。


『今日もなんて綺麗なんだ』

『いつ見ても美しいわね!』

『やっぱ俺、今日も告ろうかな』


 もうお気づきだろうが、扉を開けたのはアイツだ。


『ヒラッ…』


 短い白銀の髪を靡かせ、花の香りを漂わせながら自分の席へ向かう。

 コイツ、ほんっっっと猫被るの上手いよな。

 雰囲気はもちろん、表情も何一つ崩さず氷のような冷たさをしている。

 クラスの皆が、コイツの裏の顔を見たらどんな反応するんだろうな。


『ドサッ…』


 席に着くと、藍田萌香はリュックを机に置く。


「……おはよう、水城君」

「あー。おはようお姫様」


 携帯をいじりながら俺は挨拶を返す。

 …………え、俺今コイツに挨拶されなかった!?


 「挨拶なんて普通だろ」と思うだろうが、これは普通じゃない。異常だ。

 入学してからこれまで藍田萌香に挨拶なんてされなかったし、してこなかった。

 だが急にしてくるのは、異常以外の何ものでもない。

 流石の俺も、こればっかりは不思議で仕方がないので本人に訊いてみる。


「あの……姫さん? どうして挨拶なんかをしてきたのですか?」

「は? なに言ってるの? 挨拶なんて普通でしょ。ホント変な人よねあなた」


 質問すると普通にキレられ、変人扱いされてしまった。まあ、変な質問ではあるか。

 

「んー……」


 俺は顎に手を当て、眉をひそめる。

 なんか怪しいんだよな。こう、裏があるというか思惑があるというか……。まさかあの日を境に距離が縮まったのか?

 でも今はこともあるし、警戒はしておこう。


『キーン、コーン…』


 頭を悩ませていると、憂鬱な時間を知らせるチャイムが鳴る。

 よし、1限目は寝るか。



    ☆☆☆



 それから2・3・4、そして昼休憩と時が進み、食後の睡魔が襲ってくる5限目のこと。


『チラッ……チラッ……』


 睡魔に耐えながら授業に耳を向けていると、時折横から視線を感じる。

 視線を感じると言ってもずっと見られているのではなく、チラチラとこちらの様子を窺うような視線だ。

 俺の顔にご飯粒でもついてんのか?それならジェスチャーやらなんやらで教えてほしいのだが。

 でもまあいいか。今はせっかく起きてるんだし授業に集中しねえとな。

 

 それから5限目と10分休憩が終わり、本日ラストの授業が始まった。

 休憩中に話掛けれると思っていたが、その予測はあっけなく外れた。

 

「むず。なんだよこの問題」


 俺は引き続き6限目もしっかり起きて授業に集中する。えらいな俺。


『スッ…』

「ん? なあ、なんだよこれ」

「……」


 問題を必死に解いていると、横から四つ折りにされた小さい紙を置かれる。

 まさかこれ、問題の答えか!?

 フッ…なかなか気が利く奴じゃねえか。そういえばコイツ、学年トップの成績を収めてるんだったな。後でお礼言っとかねえと。


「どれどれ……」


 藍田萌香に感謝しつつ、俺は紙を広げる。

 そこには、




【放課後、時間あるかしら? あるなら屋上に来てほしい】




 と綺麗な字で書いてあった。

 なるほどなー。

 通りで答えが合わないわけ────じゃなくて、は?どういうこと?なんの呼び出し?まさか俺、かんに障るよなことでもしたのか?

 いや待て、違う視点で考えてみるんだ。


 学校一の美女に放課後、屋上に来るようこっそり呼び出される。

 ラブコメ的に考えるとこれは……告白イベか!?

 嘘だろ。まさか朝挨拶してきたのと、チラチラ見てきたのって、この紙を渡すためのきっかけ作りだったのか。


 (おいおい。素直に渡してくれたら俺も怪しまず接したっていうのに)


 俺は澄ました顔をしながら、心の中でそう呟いた。


『◆◇◆◇』


 すると突然、俺の脳がモーターを回し始めた。

 本当に俺の考えはあっているのか、もっと可能性が高いパターンがあるのではないかと。

 

『……ピコン!」


 やがて演算が終了し、もう一つのパターンを提示してくる。

 ラブコメシチュエーションなのは変わりないが、どうやら結果が違うみたいだ。

 俺の考えは王道ラブコメの展開。


 だが脳の考えによると、王道から外れた展開になるらしい。

 つまり、めっちゃどうでもいい秘密をカミングアウトしてくる、あるいは想像の斜め上のことを言ってくる展開になるそうだ。

 なるほどな、そういうパターンもあるな。


「んー…………よし決めた」


 悩みに悩んだ結果、俺は秘密を暴露してくる系の展開だと結論づけた。

 出会って日も浅いし、妥当な判断だと思う。


「【いけますよ】っと」


 俺は紙の裏面に返事を書いて、藍田萌香の机に置いた。


『キーン、コーン…』

「やっと終わった~」


 授業終了のチャイムが鳴り、俺はペンを置いて伸びをする。

 あとは終礼と、屋上に行ってコイツの話を聞くだけか。

 頼むから早く終わらしてくれよ。俺も暇じゃないんでね。


 

 

 



 

 


 

 

 


 

 


 

 



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