第3話『は?」

「ワンッ!!!」

「こら! 朝早いから吠えたらダメよ英吉ひできち。めっ! だから」


 ……え、何なのコイツ。何でついて来るの?ストーカーなの?

 「2人だけの秘密だから♡」って、顔を真っ赤にしながら言うからその場を離れてやったのに、これじゃ配慮した意味ねえじゃねえか。


 そもそも、なんででこんな田舎街にいるんだ?まさか近所に住んで……なわけねえよな。この辺で一度も見かけたことねえし、それに小中学校でもコイツはいなかった。

 

「よーし良い子ね~」


 吹っ切れたのか、俺がいる後ろで堂々と犬と戯れている。

 ダメだ、コイツの思考が全く読めない。頭を捻らせて考えても、有力な答えが一つも思い浮かばない。


「じーっ…」


 俺は少し、藍田萌香の方を見る。


「……なによ」

「別に、なんでもねえよ」


 こうして見ると、学校の時と全然雰囲気が違うな。

 普段は完璧クール系女子だが、裏では意外とお喋りで、犬にデレて、感情がすぐ表情に出る。

 まあでも、これが素の藍田萌香なんだろう。

 『裏の顔がその人の本性』という説を俺は以前から唱えている。なので、今の藍田萌香こそが真実であり、学校の時は猫を被った偽りの藍田萌香。

 白銀の氷姫というのは、外見だけだな。


「あなた今、失礼なこと考えていなかった?」

「え!? べ、別に何も……考えてねえよ」

「怪しいわね」


 あっぶね。まさか勘まで良いとは。神は一体どれだけ彼女に才を与えれば気が済むんだ。


 やがて最後の曲がり角に着き、俺は藍田萌香に挨拶を入れる。


「じゃあな白銀の氷姫。俺はここを右に曲がれば家に着く。もうついて来るなよ」

「だからついて行ってないわよ」

「へいへい」


 懲りない奴だなあ。


「ガチャ…」


 適当に頷いた後、俺は右に曲がって家の門に手を掛ける。


「ま、そうなりますよね」


 俺が右に曲がると藍田萌香も右に曲がってきた。やっぱコイツ、ストーカーなのでは?ここまで来たら流石の俺もドン引きだわ。


『ガチャ…』


 すると、藍田萌香は隣の家の門を開け始めた。


「お前何やってんの?」

「何って、門を開けてるだけだけど」

「そこ、他人の家だぞ? 入ったら普通に不法侵入だからな?」

「不法侵入? よく分からない冗談を言うのねあなた」


 何言ってんだコイツ?こっちは真面目に忠告してやっているのだが。


「早く中に入りましょうね英吉〜」


 俺の忠告に聞き耳を立てず、犬と一緒にそのまま中へ入ろうとする。


「お、おい。マジで入る気か?」

「あなた、さっきから何を言ってるの? 怖いんだけど」

「それはこっちのセリフだ」


 俺を頭のおかしい人扱いしているが、それはコイツの方だと思うのは俺だけだろうか。他人の家に無断で、それも犬と一緒に入ろうとする方がヤバい奴だろ。

 

「はあ……」


 そんなことを考えていると、藍田萌香は呆れた顔で溜息をつく。

 溜息をつきたいのは俺の方だわ。気使ってやったのに、それを仇で返されたんだぞ。

 はあ……。お姫様を相手するのはこれっきりにしてほしいぜ。


「これ以上あなたの冗談に付き合うのも面倒だから言うけど」


 なんだなんだ?まさか、不法侵入に正当性を主張する気か?生憎と、この世にはやっていい犯罪なんて存在しないんですよお姫様。


「ここ……」


 あーやだやだ。

 聞くのもバカバカしいので、俺は門を全開にして足を進めた。

 その時──

 

家だから」

「ふーん、そうかそうか。なら不法侵入じゃ──え、今、なんつった?」


 俺だけだろうか。自分の耳を疑ったのは。


「聞こえなかったかしら? ここ、家だから」

「…………は? はああああぁぁぁぁ!?」


 藍田萌香の発言に俺は度肝を抜かれ、頭がフリーズした。

 お隣さんが、あの白銀の氷姫の家だと!?いや待て待て、コイツが嘘をついている可能性だってある。鵜呑みにするな。


「チラッ」


 藍田萌香の発言が真実か確認するため、俺はお隣さんの表札をチェックした。


「嘘だろ……」


 そこには、明潮体で【藍田】としっかり刻まれていた。


『◆◇◆◇』


 真実だったことを確認した俺の脳が再稼働する。

 俺の脳は最新AI並みの処理速度で記憶回路を辿り、ある出来事を提示した。


『聡仁~』

『ん? なに母さん』


 そう。あれは今年の3月末の出来事。リビングのソファで携帯をいじっていると母さんに声を掛けられた。


『隣の家に新しい人が引っ越してきたから挨拶しておきなさいよ』

『はいはーい」

『ホントに分かってるの?』

『分かってるって』


 その時俺は携帯に夢中だっため、適当に頷いた。

 それから月日が流れ、俺がお隣さんに挨拶することはなかった。


 これが俺の脳が提示してきた出来事である。

 ちなみに俺は、今の今までお隣さんの苗字すら知らなかった。

 ……マジか。

 まさか俺の隣にあの白銀の氷姫が引越してくるとは。つくづくコイツとは謎の縁があるな。

 いや待て、これをラブコメ的に考えると……俺主人公じゃね?


 完璧ヒロインタイプとその隣の冴えない男子生徒──来たぞ、俺のモテ期がついに来たぞ!

 16年間一度も訪れなかったビッグウェーブが今ここに……と言いたいが、そんなわけねえよな。

 コイツは別世界の人間。俺なんかが関われる存在じゃない。幻想を抱くのはやめよう。


 てか、ちょっと待てくれ。

 改めて考えると俺って……めっちや非常識な奴じゃね!?

 いくら他人に興味が無いとはいえ、お隣さんの苗字を知らないのは流石にヤバいよな?


 あーあ。完全にやらかしたわ。

 大した取り柄のない俺だが、せめて紳士に、ナイスガイに生きると心に誓ったが、これでは誓いなんか到底果たせないな。


「ねえ、一ついいかしら?」


 失態に悔いていると、藍田萌香が尋ねてくる。


「何だよ」

「あなた、まさかこの家に私が住んでいること知らなかったの?」

「!? そそそんなわけ……ね、ねえだろ! もももちろん知っていたさ!」

「呆れた……じゃあね水城君。私はに帰るから」

「お、おう。またな」


 軽蔑するような目で俺を見ながら藍田萌香は家の中に入った。

 フンッ……終わったな俺。今ので俺の評価は絶対に0、なんならマイナスになった。


「どうすっかねー」


 月曜が怖え。多分一生アイツから冷たい目を向けられる。俺の豆腐メンタルじゃ耐えれそうにねえ。


『ガチャ』

「ん? どうしたんだよ」


 俺も家に入ろうとすると、藍田萌香が内側から門を開け顔だけを外に出す。

 

こと、他の人に絶対に言わないでね? 言ったら承知しないから」

「はいはい……」


 何かと思えば、あのことについてか。

 はあ……。これから俺の学校生活はどうなることやら。

 

 


 

 



 


  

 

 

 

 


 

 

 

 


 


 

 

 

 

 

 



 






 

 

 

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