「死ぬんなら山の中がいいかなー」

 軽々しく響いた声に、なんとなく目を向ける。俺達は二人で爪を切っていた。なんでだか、一緒に爪を切るのが俺達の常だった。

 クーラーの利いた部屋で、山の中という単語はずいぶん遠くに聞こえる。風景までは頭に描けても、それに伴う音がない。

 俺はチヨリの言葉に頷いた。「それは、そうだよな」


「でもなー、やっぱさ、死ぬときはさ、青空見たいや」


 同感だった。出来れば夏がいい、と俺は思う。出来れば、うんざりするほど濃いブルーで。

 チヨリは続ける。山ん中じゃなかなかあんな空見えないんだよ。木が多いし。


「しばらく行方不明扱いされるくらいひっそり死にたい。土に還りたい。青空見たい。血は汚いから出したくないな。出来るだけ早く死にたい。でもなんか、お求めの死に方は品切れくさい」

「多分まだ未発表だよ。めんどくさいよな、理想的に死ぬのは」


 うん、と笑顔で答えたので、執行猶予がまた伸びる。手繰り寄せたいのに現実感沸かない、この微妙なかんじ恋に似てるかもしれない。似ててたまるか。

 答えは簡単だ。




「まだ死にたくない。」

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