第10話 縁

「着いたわ。大丈夫?」


 サクの顔を覗き込むと、サクが笑った。


「ああ。今回のは全く問題ない」


 一番近い街へは馬車でも半日で到着する。浮遊魔法なら半刻ほどだ。

 だからそれほど負担にはならなかったようだ。


「じゃあ、ここからすぐのロービの工房に行きましょうか」


「ああ」


 そして私はたちは森を少しだけ歩いて、町外れのロービの工房にやってきた。


「こんにちは~~」


「いらっしゃ~~おお!! クレアちゃんか!! これは天の助けだ!! 領主様。この人は賢者クレアだ。王宮で働いていたすげぇお人だ」


 ロービは、貴族のような出で立ちをした男性と何かを話していたようで、彼に私を紹介した。

 そして男性が私の前に歩いて来た。


「まさか、こんなところで賢者クレアにお会いできるなんて!! 私も少々水魔法を扱えるので、あなたの魔力量を増やすという理論でずっと学んでいました。申し遅れました私はガレオンと言います。この領の新しい領主になりました」


 そして私に手を差し出したのでその手を握りながら言った。


「はじめまして」


 確かこの領の領主のガレオン子爵は、世継ぎに恵まれなかったと聞いたので養子を迎えたのかもしれない。私が手を離すと、ロービが言った。


「クレアちゃん、ちと困ったことになってな……」


 ロ―ビが「ん~なんていうか……」と説明に困っているとガレオン子爵が声を上げた。


「ロービ、私から説明させて下さい。賢者クレア、聞いていただけますか?」


「はい」


 私がうなずくと、ガレオン子爵が説明をしてくれた。


「この町の中心部にはかつて鉱山で働く者たちのために一時的な宿泊施設があったのですが、今では皆この町に自分たちの家を持ち、家族と共に暮らしています。そこで子供たちも増えたので学校を作りたいと思ったのですが、土地がなく、その場所を利用したいと思います。ところが破壊魔法を使える者たちがこの町におらず、周辺の町にもいないので困っていました」


 この町は高い城壁に囲まれている。そこに鉱山で働いていた人々がそれぞれ家を建てたのだ。当然人も増えれば、土地が必要になる。だから今は使わなくなった建物の場所を利用したいいうはよく理解できる。城壁は便利だが、町が大きくなるを妨げると欠点がある。

 そしてロービが口を開いた。


「再利用できないかって言われたんだが、元々一人が生活するように細かく区切られていてな~~学校にするには全く向かねぇんだわ。壁有りきで作った建物だからな~~壁を取ると強度に問題があるし、そもそも頑丈に作ってあるからな、壁は取れねぇ」


 話を聞くと、石で出来ているようだし、破壊することが出来そうだ。

 だから引き受けようと思っていると、サクが口を開いた。


「ふ~~ん。元ホテルか……移築とか出来たら、ゲストハウスとして使えそうだけどな……」


 皆が一斉にサクを見た。


「移築?! 出来るわ!! むしろ作るより断然楽よ!!」


「そうなのか?」


 私はサクからガレオン子爵に視線を移して言った。


「ガレオン子爵、私がその建物を頂いてもよろしいでしょうか? 移築いたします」


「え!? 賢者クレアが引き取って下さるのですか!? それは有難い限りです。破壊魔法の使い手に破壊を依頼するだけでも随分な金額になりますので……」


 サクの願いを叶えることが出来そうで嬉しくなっていると、ロービがニヤリと笑いながら言った。


「では、ガレオンさん、中の家具なんかもクレアちゃんにあげてもいいってことですか? クレアちゃんなら、分解して再び使うことが出来る」


 ガレオン子爵は大きくうなずいた。


「ええ。もちろんです。建物と中の物も全て賢者クレアに差し上げます。賢者クレア、感謝いたします。何かお礼を……」


 考えるガレオン子爵に言った。


「いえ、お礼は結構です。私としても悪い話ではありませんので」


「そうですか? それでは、何か困ったことがありましたら、私を訪ねて来て下さい。力になります」


「はい。ありがとうございます」


 偶然にもこの領の若き領主様と接点を持つことになった。通常、領主と繋がりを持てることなどほとんどない。これからダンジョンで何かあった時のために、領主と面識があるのは何かあった時に報告できるので助かる。これもサクのおかけだと思うと不思議な気分だった。


「それでは早速ですが、その建物を確認していただけますか? 鍵は私が持っております」


 ガレオン子爵に声をかけられて私はうなずいた。


「はい。それではお願いします」


 そしてロービと目が合うと、ロービが楽しそうに言った。


「俺も一緒に行こう。移築するにしても使えるようにする必要があるだろう?」


「ええ。助かるわ。実は自宅を増築したので、そちらをお願いしに来たの」


「おう、そうか。じゃあ、そっちも請け負う」


「よろしくね」


 ロービとの話を終えると、ガレオン子爵が爽やかな笑みを浮かべながら言った。


「話はまとまったようですね。私の馬車に乗って下さい。ご案内いたします」


「ええ」


 私たちはガレオン子爵の馬車に乗って譲りうける予定の建物に向かった。


「ところで、そちらの方は?」


 馬車に乗ると、ガレオン子爵がサクの方を見ながら尋ねた。ずっと彼の視線がサクに向けられていたので、心配していたが案の定、サクのことを聞かれてしまった。


「彼は……」


(どうしよう、異世界からの転移者なんて言わない方がいいわ。ん~~一緒に暮らすのに正当な理由が思い浮かばない……恋人、と言ってしまうとサクがこの町の方と恋に落ちた時に困るわよね……何か……弟……は、亡き母の不貞を疑われたら困るし……)


 私が考えているとサクがにっこりと笑いながら言った。


「私は、賢者クレアの弟子です」


(え? 弟子!?)


 サクの顔を見ると、にっこりと微笑んだ。


「おおお!! 賢者クレアのお弟子さんでしたか!! 誰一人して弟子を取らないと有名でしたが、等々お弟子さんを迎えられたのですね!! 通りで移築など常人では考えもしないことを思いついたのですね!」


 ガレオン子爵は酷く納得したようで、上機嫌になった。やはりサクのことを不審に思っていたようだ。


「おう、兄ちゃん、若いのに賢者クレアの弟子かぁ~~そいつはすげぇ!!」


 ロービが楽しそうに笑った。サクの機転のおかげで馬車の中が一気に和やかになった。


(サクって本当に凄いわ……)


 こうして私は周りから、恋人でも家族でもないが、一緒に生活していても全く不審に思われない理想的な関係を手に入れたのだった。







「こちらです、どうぞ」


(3階建ての建てもだったのね……)


「お邪魔します」


 そして私たちは譲り受ける建物の中を見て回った。

 入ってすぐに食堂とその奥に厨房、そして倉庫があった。


「この調理器具とか食器ももらっていい……ですか?」


 サクが目を輝かせながら言った。するとガレオン子爵が笑顔で答えてくれた。


「ええ。全て差し上げます」


 2階に上がると、部屋が8部屋。それぞれベットとロッカーとテーブルと椅子がある。

 そして2階の中央寄りにお手洗いがあり、3階も同じ作りになっていた。


「いいな~~最高だ!!」


「ふふふ、そうね。移築したら、ここの厨房を家に移してもいいわね」


「ああ、そんなこともできるんだ。確かに家に厨房あった方が便利だよな」


 サクと話をしていると、ガレオン子爵が口を開いた。


「賢者クレア。こちらの建物の処分をお任せしてもよろしいでしょうか?」


 私は大きくうなずいた。


「ええ、予定通りもらい受けますわ」


「感謝します! ではこれがこの建物の鍵です」


「確かに」


 そして、少し話をするとガレオン子爵は屋敷に戻った。

 私はガレオン子爵の姿が見えなくなると、建物の隅に魔法陣の描いた紙を魔力で張りつけた。


「へぇ~~魔法陣を使うんだ」


 サクが私の手元を覗き込みながら言った。


「ええ。その方がずっと楽だし」


 興味津々で魔法陣を見るサクに声をかけた。


「サク、調理器具は大体揃っていたようだし、食材を買う?」


「そうする」


「ロービ、少し待ってて食材を買ってくるわ」


 私はロービに声をかけた。


「おう、じゃあ、俺は町で用事があるから、済ませてくるわ」


「ええ」


 こうして私はサクと二人で街に買い物に行くことにした。

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