第9話 増築

 朝食は昨日私の作ったスープの残りで済ませて、早速増築作業をすることになった。


「サク、今から増築しようと思うのだけどいいかしら?」


「はは、すげぇ気軽な感じで始まるんだ。俺は何をすればいい?」


 サクがお皿を拭き終わって戸棚に片付けながら言った。


「何もしなくていいわ。ただ、扉の前には行かないで。窓の近くは構わないわ」


「それだけでいいんだ」


「ええ」


 私は頭の中で魔法を組み合わせた。

 使用魔法は、水・雷・解析・破壊・構築の5種類。

 周囲の地面の中から水と混じると固まる鉱石を探し出し、それを破壊して雷を加えながら混ぜて構築していく。すると少しずつ少しずつ視線が高くなって行く。


「うわっ、何これ……もしかして、この家ごと上がってんの?? マジで??」


 サクが窓の近くに行って外を見ていた。ジワリジワリと家の形が形成されていく。

 私は運よく解析魔法と破壊魔法と構築魔法が使える。そのおかげで魔法で家を建てることが出来る。ただし、近くに材料がないと出来ないのだが……


「あれ?」


 サクがある一点を見て視線を止めたが、私はとりあえず増築を続けた。一定のリズムで魔法をかけ続ける方が魔力が少なくて完成する。

 そして私のイメージ通りに完成した。


「出来た……」


 サクが慌てて私を見た。


「すごいな、クレア。ありがとう!!」


 嬉しそうに笑うサクを見て私まで頬が緩む。


「どういたしまして。それよりサク、さっきからどうしたの?」


 私はサクの見ていた方角を見た。見るとダンジョンに潜る冒険者たちが野営をしていた。


「いや、この近くにキャンプ場でもあるのかなって?」


「……これからダンジョンに潜るんじゃない?」


 私は当たり前のように言った。

 ここはかなり難易度の高いダンジョンなので、きっとランクの高い冒険者たちが野営をしているのだろう。陽も昇ったのでそろそろ彼もダンジョンに入るはずだ。


「ああ~~そっか、ここダンジョン前だから……冒険者が……なるほど……」


 サクが何かを考え込んでいた。とても真剣に考えていたので気になってしまった。


「何を考えているの?」


 私が尋ねると、サクが少し考えて後に言った。


「いや……居候の身で言いにくいんだけどさ、ここでゲストハウスっていうか、冒険者の休める場所を提供する商売をしたらどうかな~~って」


 冒険者相手に商売と聞いて、私は過去に何度か冒険者を何度か助けたことを思い出した。


「冒険者相手に商売を? そんなこと……考えたこともなかった。確かにたまに薬を分けてほしいとか、酷いケガをしたときに休ませてほしいって、お願いされることはあるの……」


 私は研究を優先していたので、彼らから頼まれれば手を貸すが、自ら関わることはない。

 だが……休める場所があれば体力回復の効率も上がるし、何より安全だ。

 この家の周りしか退魔の香の効果はない。シンの作るダンジョンで誰かがケガをすることに胸が締め付けられる思いをしていた。

 彼らが魔物を減らしてくれるおかげで、シンも助かっている。


(シンのダンジョンに入る冒険者を最適な状態でダンジョンに送り出すか……確かにいいかもしれない。でも……)


「そうなんだ。まぁ、こんなのどうかな~~って、ただ思いついただけだから、気にしなくていいよ」


「あ、待って。サク。良い考えだと思ったわ。ただ……私には何をどうすればいいのかわからなくて……家の近くに建物を作ることくらいしか手伝えないかもしれないわ」


 彼らの休める場所を提供するのは賛成だ。

 ただ自分にそれができるか、と言えば研究だってまだまだ中途半端で、時間が足りない。

 他のことを同時にできるほど器用なほうでもない。


「それだけで十分だ!! まだこの世界のことをよくわかってないけど、理解したら実際に俺が動くから、クレアは気にしなくていいよ。それに俺の実家が民宿だったんだ」


 サクが楽しそうに目を輝かせた。

 

(ああ、そうか……サクはずっと働きたかったんだ……)


 働くというのは大変だが、いきがいとか、誰かの役に立つという自己肯定にも繋がる。きっとサクは誰かのために働きたかったのだろうと思えた。


「まずは家を作って数日生活して、この世界に慣れたら冒険者が休める場所を作るわ」


「ありがとう、クレア!! そうと決まれば、一日でも早くこっちでの生活に慣れる必要があるな」


 なぜだだろう、サクが笑うと私まで嬉しくなる。

 それが不思議だったが私も自分のできることでサクの願いを叶えたくなってきた。


「それじゃあ、今は、階段を作りましょうか。この家と同じ構造の建物を下に2つ作っただけなの。だから、今から階段を作るわ。どこがいいかしら?」


「え? 2つも!? クレア、魔力大丈夫か?」


 サクはさっきまでは喜んでいたのに、今は私を心配してくれて本当に表情が豊かだ。


「半分は残っているから問題ないわ」


 サクがほっとした顔をして言った。


「さすが……これだけ増築しても半分も残っているんだ。ごめん、話が逸れた。階段だった」


「ええ。どこがいい?」


 私が尋ねるとサクが腕を組んで考えた後に私を見た。


「そうだな……この建物は3階建てってことだろう? この建物をどんな風に使う予定?」


「そうね、ここはこのまま私が研究室と寝室にして、2階をサクの私室で、1階を共通の部屋にしたいと思ったのだけどどう?」


 研究するのに手狭に感じるようになったので、一階に食器や食材を移してここは研究に使いたい。

 サクだって今は少なくとも物が増えて行くだろう。


「2階を全部!? それ、広いって……とにかく、ここはクレアの部屋だから、クレアが決めたらいいよ。他はその階段の場所に合わせて配置すればいいし……」


「そう? じゃあ、この扉の近くに階段を作ってもいいかしら?」


 私はかまどの辺りを指を差して言った。


「厨房は1階に移す予定だし、いいんじゃないかな」


 私は石で出来た床に穴を開けて階段を作った。そしてふと横を見ると扉がついていた。


「その扉、危ないわね」


 私が手をかざすと、扉が取れて壁になった。この扉は1階に取り付ければいいだろう。


「おお~~空に通じる扉が安全な壁になった。なぁ、クレア。降りてもいいか?」


「ええ」


 私たちは階段を降りた。するとそこには当たり前だが、何もない空間が広がっていた。


「広い……え? ここが俺の部屋??」


「ええ。どうかしら? やっぱり家具がないと寂しいわよね。家具は、職人のところに行きましょう」


 私は見た目を無視した簡素な建物は作れるが、家具は職人が作ってくれた物を購入している。


「ありがとう……でもさ、申し訳ないけど、広くて落ち着かない。なぁ、クレア。ここを3つくらいに仕切れる? 廊下のスぺ―スを開けてさ」


「出来るけど……狭くなるわよ?」


 サクは必死な様子で言った。


「狭くない!! むしろこんなに広いと落ち着かないって……」


 あまりに真剣なので、私はサクの言う通りに空間を仕切ることにした。


「じゃあ、廊下を付けて、この空間を3つに区切る壁を作るわ」


「お願いします」


 私は壁を作り、そして最後に扉を木で作り、部屋の入り口部分に取り付けた。


「うん、完成! どうかしら?」


 サクは出来たばかりの部屋に入った。


「うん!! いいね!! ちょうどいい広さだ」


 サクが満足そうに笑ったので、私もよかったと思えた。

 

「それあじゃあ、1階に移動しましょう」


「ああ」


 一階も何もない空間が広がっていた。


「ここも仕切った方がいい?」


「いや、ここは共通スペースだろう? 広い方がいい」


「そう」


 私は、サクに言った。


「さぁ、ここまで出来たので、ドアーフのロービを呼びましょうか。水回りは彼がいないとさすがにできないの」


 そうなのだ。私は大きな石の箱を作ることしかできない。厨房や水回りなどはドアーフのロ―ビに任せていた。


「呼ぶってこれから?」


「ええ。町まで空間圧縮で移動……あ、サクは魔力に酔ってしまうわね。それほど遠くもないから浮遊魔法で飛んで行く?」


「クレアはどっちが楽なの?」


「そうね、町までなら魔力と時間両方を考えても圧縮で移動した方が楽だけど……」


「それじゃあ、圧縮で!! 大丈夫1回ならなんとかなる」


 サクが真剣な顔で言ったが私は「無理しなくていいわよ?」と言った。だがサクは「大丈夫」と言った。


「鞄を取ってくるわ」


「あ、うん」


 私は階段を昇らずに一気に浮遊魔法で移動した。


「うわ~~そんな手が使えるわけ?? だからクレアが3階なのか……」


 私は自分の部屋に着くと鞄を持ってサクの待つ1階に戻った。


「お待たせ。行きましょうか」


「はは、待ってないけどな。じゃあ、町に行こう」


 そして私たちは外に出て町に向かったのだった。





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