第8話 能力開花

「ん~~やっぱりさっきのが幻覚だとは思えないな……温泉も……この雨よりリアルに思える……俺、シンの作る幻覚の中で生きて行けるかも……」


 サクが雨の中に手を差し出した。


「濡れるわ……」


 私はサクと自分の上に防御壁を作った。


――幻術の中で生きていたの?


 私は声に出しそうになった言葉を必死に呑み込んだ。

 シンの言葉――その青年は心に悲しみは抱いているが、闇は抱いてはいない。

 それがどういう意味なのか……気になったのかもしれない。


「ありがとな、あ、そう言えばマフィンは渡せたのか?」


「ええ。サクが温泉に入っている間にね」


「ああ、なるほどな……じゃあ、家に戻って夕食作るか……」


 サクが笑ったので、私もつられて笑ったのだった。






「え? 何もない……?」


 家に戻ったサクは料理を作ってくれることになった。

 だが……?


「鍋とナイフがあるわ」


 愕然とするサクに私はかまどの横の石の台の上にナイフと鍋を置いた。


「あ、うん。寸胴鍋と果物ナイフね……クレア、本当に普段は何を食べているんだ?」


 サクの顔がみるみる青くなる。そんなに大変なことだろうか?


「木の実をそのまま食べたり……解析で食べられる野草を調べて煮込んだり? たまに近くの町でパンを買ってきたり、食事をしたりしてるわ」


「外食派ってこと?? あのさ、料理道具とか材料とか買ってもいいかな? 正直これじゃあ……不便過ぎる!!」


 外食派ということはないし、サクが作ってくれるのなら私としても有難い。


「私はできないだけだから、道具や材料を買っても無駄になると思って持っていないの。サクが使ってくれるなら用意するわ」


「使う、使う!!」


「じゃあ、増築したら厨房も作りましょう」


 話がまとまって、サクが近くに置いてある魔草を手に取った。


「これ、解析で調べられるんだ……」


 するとサクの目が黄金色に変わった。


(あ……もう普通に使えるようになったのね……)


 サクは顔を上げると嬉しそうに笑った。


「うわ、これ凄いな!! 人にとって毒はどうかだけじゃなくて、摂取時の魔力量とか、食べることで得られる効能まで出るんだな」


「え……?」


 私はじっとサクを見た。


「魔力量に効果? そんなの出たことないけど……」


「あ、そうなのか? ほら」


【ビガン草】

薬草レベル55

含有魔力:15

魔力摂取量:10

人体への毒性:無し

魔物への毒性:無し

熱耐性:×

効能:細胞組成補助、魔力量保存、老廃物の吸収、発汗作用、体温上昇、魔力上昇

効果上昇:ウンドウ草

効果相殺:オカシ草


「何これ? ちなみに私が解析すると……」


【ビガン草】

含有魔力:15

人体への毒性:無し

魔物への毒性:無し


「これって、食べられるかどうかしかわかんないじゃん」


「ええ……」


 私は解析レベルは高い方だと自負している。それでも植物を解析するとこの程度の情報しかない。

 他の人は【魔物への毒性】という項目はないので、私の情報は他の人より多いくらいだ。


「薬草レベルって……初めて聞いたわ……しかも、食べ合わせで効果を上昇させたり、相殺させたりするなんて!! こんなの、誰も知らなかった。これだけで大発見だわ!!」


 私が興奮気味に声を上げると、サクが驚きながら言った。


「お、おう、そうか……そんなにクレアが興奮するってことは凄いことなんだろうな……」


 私は、家のすぐ近くで採取できるので頻繁に食べている野草を手に取った。


「サク、これは??」


 サクは「了解」と言って解析してくれた。


【ビハダ草】

薬草レベル85

含有魔力:40

魔力摂取量:15

人体への毒性:無し

魔物への毒性:無し

熱耐性:〇

効能:魔力上昇、細胞構築、細胞修復、血液浄化

効果上昇:ビガン草

効果相殺:グウタラ草


サクが嬉しそうに言った。


「おお~~、これとさきのこの野草と組み合わせれば両方の効果が増すみたいだな。いい組み合わせだな」


「私……普段、その2つをよく一緒に煮込んで食べてる……」


「あ~~でも煮込むとこっちの野草の効果はなくなるな。熱耐性ないからな……あれ? よく考えたらこの能力って料理人の俺にとって最高の能力じゃね?」


「確かに!!」


「あはは、これでさらにクレアの役に立てるな、大賢者への道を俺が料理でサポートするよ」


「え?」


「何驚いているんだよ? さっき片付けた書きかけのメモ、全部魔法融合のメモだろう? クレアなら成れるさ。大賢者にさ」


 サクの言葉は、私の胸に自然に染み入るように思えた。ずっと一人で必死でやってきた。でも誰かが助けてくれると言ってくれたのは、初めてだった。

 私はきつく手の平を握りながら言った。


「私、シンを助けたいの」


「え? シンって、さっきのシン?」


「ええ」


 サクが眉を寄せながら尋ねた。


「元気そうだったけど……何かあるのか?」


 私は深呼吸してサクを見ながら答えた。


「この岩の向こう側にダンジョンの入口がある。このダンジョンを作ったのは――シンなの」


「は?」


「魔物は、身体を瘴気で犯されるとその瘴気を放つためにダンジョンを形成する。そうしなければ形を保てない。シンはつまり、あの洞窟の中から出れない」


「え……? 一生幻惑の中にいるってこと?」


「ええ。そして、例えダンジョンに瘴気を流して魔物を作り続けることで生命を維持しても、身体は瘴気に犯さて……真っ黒になったら……その時は……」


 思わず口を閉じると、サクが私を見て言った。


「そっか、シンがここから離れらないから、クレアはここにいたのか……なるほど……」


 宮廷魔導士を辞めるとき、みんなにもったいないと言われた。

 それでも私にはシンの側で生きることを優先した。


「かっこいいね!! いいじゃん。一番大切なものを優先したんだろう? そしてそのために研究に情熱を注ぐ。きっとそれは絶対に誰かの役に立つ。応援する。シンを助けよう、クレア」


 頬を熱い何かが流れ落ちるのを感じた。

 先ほどまでしっかりと見えていたサクの顔が揺らめいてよく見えない。


 私――肯定されたかったんだ……。


 無謀だと、無意味だと、もっと有益なことを研究しろと散々言われた。

 でも私にとっての一番は唯一友人シンを助けること。

 

「ありがとう、サク」


 私はサクを見て笑うと、サクが袖を手にかけて私の頬に触れた。


「あ~~ごめん、ハンカチとか持ってなくさ……」


 困ったように言うサクの優しい瞳が嬉しくて、私も頬をゆるめた。

 その日は、私がいつも食べているスープをごちそうした、サクは引きつった顔で「ありがとう」と言ってくれた。

 そして、私はベッドでサクはソファーで毛布をかけて眠った。

 私は、いつもより早く寝て魔力を回復することを最優先させたのだった。




――――――――――


2日ほど更新をお休みして申し訳ございません。

本日はあと1話更新します!!

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