第11話 移築
「まず、換金商に行くわ」
ロービと別れると私はサクを見ながら言った。
「換金??」
「魔石を換金するの」
「ああ、なるほど。魔石って換金しなきゃいけないのか……ちなみに手数料とか取られるの?」
手数料という言葉が出て来て驚いた。この国では換金に手数料はかからないが、かかる国もあるらしい。冒険者たちは手数料のいらない国で換金していると聞いたことがある。
「いいえ、この国は手数料は取られないわ」
「へぇ~~ん? この国は?」
サクが私を見たので、私も答えると同時に疑問を投げかけた。
「換金に手数料が必要な国もあるの。異世界は換金に手数料が必要なの?」
サクは少し考えた後に困ったように言った。
「クレア、俺はそもそも『魔法』っていうのもが存在しない世界から来たんだ。当然、魔石もない」
「え!?」
私は驚いて立ち止まってしまった。
「え? 魔法や魔石がない? 魔物は?」
「魔物もいない。俺の世界では魔法じゃなくて、科学っていうのが発達してる。だから、科学の力で空も飛べるし、大きな機械を使って城よりも高い石の建物も作れる」
私の中で雷が落ちたような衝撃を覚えた。
このことを異なる世界のことだと流してはいけない、そんな予感がした。
――科学というもので空が飛べる? これまでこの世界になかったものの話をしている?
今の状態で魔法と魔法を融合させるのは正直限界を感じている。
なぜなら、それぞれの属性魔法を突き詰めていくとそれが独立した力を持つ存在なのだ。
最小の力と最小の力を掛け合わせても、それぞれの力が同時に存在していることになり、融合はしない。
例えば、浄化という力も魔物を構成している魔石を破壊する作用があることがわかっているが、魔物持つ魔石を傷つけずに、瘴気だけを消す方法はないのだ。
つまり魔物になる前の瘴気を浄化するというのは、魔石が結晶化する前の段階を空気中で破壊することを意味する。瘴気とは魔石の元となる物質の集まりなのだ。
だから、魔石を保護しながら瘴気を浄化できないかと研究したが、今のところ成功にはしてはいない。
これまで魔法融合の研究は、魔法と魔法を融合させることだけを考えてきた。
だが――魔法以外との融合。
(これまで誰も考えていなかった方法だわ……)
これはもしかしら、王道から離れてしまう方法かもしれない。
でも、王道からずれたとしても私は――シンを助けたい!!
「サク、ありがとう!! ねぇ、もっとその……科学について教えて!!」
「え!? 俺、あんまり成績よくなかったけど……話をした責任はあるよな。じゃあ、ゆっくり時間のある時にな」
「ええ、それで十分よ」
新しい可能性が見えて、心が踊る。もしかしたら、サクがここに来てくれたのは、私の願いを叶えるためではないか、とさえ思えた。
(絶対にシンを助ける!!)
足取り軽く換金商の店に到着した。
「こんにちは」
「これは、賢者殿ようこそ」
この町は元々換金商はいなかったが、シンのダンジョンができたために冒険者が増えて換金商が出来た。
しかもシンのダンジョンはランクが高いので、ダンジョンから溢れた魔物に襲われるというリスクもあるが、レベルの高い冒険者が来るので町も潤っているそうだ。
ちなみ魔物は魔石を大きく成長させるための器のようなもので、魔物を倒しても魔石は消えないし、魔石が再び魔物になることもないし、魔物から取り出された魔石がこれ以上大きくなることもない。
「これ、お願い」
「はい」
私は以前ダンジョンに潜った分を換金した。基本的に魔石は調べた後に研究に使って砕けてしまうので、質のいいものだけを換金用に残している。
「ほう、さすが賢者殿。いつもいつも質のいい魔石をいただき感謝します。では早速」
換金商の動きをサクは真剣な顔でじっと見ていた。
(そんなに面白いかしら?)
換金商はまず魔石を色ごとに分けると、天秤に魔石を乗せると反対側に分銅を乗せていく。そしてその重さごとを紙に書き出している。
そして、それを計算して硬貨を差し出してくれた。
「こちらになります。ありがとうございました」
私は財布に硬貨を入れながら言った。
「ありがとう、こちらこそいつも助かっているわ」
「またのお越しをお待ちしております」
私は換金商の店を出ると、サクに換金した硬貨を袋の中からいくつか取り出した。
「サク、これどうぞ。この青い硬貨が100パーセクで、この赤い硬貨が50パーセクで、緑の硬貨が10パーセクで、白の硬貨が1パーセクよ。これより下の硬貨はないようね。やってみる? 買い物の仕方も覚えた方がいいでしょう?」
そう言って私は先ほど換金した財布ごとサクに差し出した。
「ああ、助かる。でもパーセク? なんか、どっかで聞いたことある気がするけど……まぁ、物価がわからないからとりあえず、必要な物を買ってみるな」
そして私たちは市に向かった。
市にはまだ多くの品物が並んでいた。
サクは、小麦を扱う店の前で止まった。
「え~~と、すみません。これ小麦粉ですか?」
「そうだよ」
元気そうな女性が大きな声で答えてくれた。サクはふむふむと考えていた。
「この大袋……30キロくらいか、これが30パーセク??」
「クレア、どのくらい持って帰れる?」
「ああ、いくらでも持って帰れるから気にしなくてもいいわ」
私は今、空間圧縮魔法のかかった鞄を持っているので、いくらでも入る。
「あ、そうなんだ。その鞄俺が持とうか?」
「え? いえ、私から離すと使えないの」
「ああ、そうなんだ……へぇ……」
空間圧縮だけではなく、大抵の高度な魔法を使った道具は術者から離れたら使えない。
魔法の使えない人が魔道具を使う場合は魔石が必要だ。だからこそ貴重な魔石は高価で買い取ってもらえる。ちなみに圧縮鞄はまだ魔道具にはなっていないので術者しか使えない。
サクは店の女性に向かって声をかけた。
「すみませ~ん。この大袋2つ下さい」
「はいよ」
「ありがとう」
私は小麦の袋を浮かせて鞄に入れた。
「まぁ、そんな鞄に二袋も!! 噂で聞いたことがあるわ。あなた賢者様だね? 初めて見たわ~~!!」
(私は自分で小麦粉を買ったことはないので、確かに初めてかもしれない)
その後、サクは調味料や野菜や肉などを次々に購入した。
硬貨が足りなくなるかと思ったが、サクはお店の人と交渉したりして、渡した分の硬貨をたくさん残して大量の食材を購入した。
「ふぅ、買い物終わり。クレア、こんな大金渡すって……これもしかして半年分の食費はあるんじゃない?」
そう言ってサクが私に財布を渡してくれた。
どうやらサクはこれだけで買い物の仕方を覚えただけではなく、交渉の仕方、物価感覚まで身に着けてしまったようだ。
(サクって、一体どんな教育を受けてきたのかしら? なんでも出来るわ……)
私はサクの吸収の速さに驚いているとサクが「じゃあ、戻ろう」と言ったので私もうなずいた。
「それでは、貰った建物の前に行きましょう」
「ああ」
サクと一緒に建物に戻ると、ロービはすでに待っていた。
「待たせてごめんなさい」
「いや、いいって、じゃあ、行こうか」
ロービは荷物を持ちながら言った。
「ええ。では家に入りましょうか」
「あ、この家ごと移動するの?」
サクが私を見ながら尋ねた。
「ええ。魔法陣で補助もしたから、このまま移動した方が楽だから」
そして3人で家に入ると、私は魔法陣の力も借りて、建物に空間圧縮魔法を使った。
「景色変わった……凄っ!!」
サクが外を見て声を上げた。
「よかった。それじゃあ、細かい場所を調節しましょうか」
それから私たちは外に出て細かな建物の位置を調整した。
「厨房は自宅にそのまま移動するってことは料理は運ぶことになるだろう? じゃあ、この辺りかな?」
サクの要望に答えて私は建物を移動させた。
「魔法って凄いな~~」
サクの言葉にロービが声を上げた。
「おい、賢者のお弟子さんよ。こんなことができるのは、お師匠様だけだぜ? 俺はクレアちゃんと出会うまで魔法がこんなすげぇなんて思ったこはねぇ。魔法はあってもなくてもいいくらいに思ってた」
「あってもなくてもいい?? そうなんだ……」
「ああ。大半のヤツは魔法なんて使えねぇし。魔法が使えて魔法の学校に行っても魔法を使いこなせるヤツは一握りだ。領主様や一部の人間は少しは使える人間もいるが、町には魔導士様なんて滅多にいないからな~~」
魔法の研究が進まない理由は、大半の人は魔法とは無関係に生きている。
魔道具など有れば使うが自分で原理を解明して、新たな魔道具を作ったり、魔法を誰でも使えるようにしようという研究をする人は少ない。
「それじゃあ、次は厨房の設備を家に移動させるわ。サク、どこがいい?」
「そうだな、どこがいいかな」
みんなで一緒にガランとした新しい家に入った。
「ここか? いや、ここ? ん~~スケール感がわからない」
「そう、じゃあ」
私は幻術で、貰ってきた建物内に配置されている厨房を幻術で配置してみせた。
「ここならこんな感じかな?」
「何、これ、バーチャルCAD!? いや、大事なのはそこじゃない。ん~~階段がここだから、なぁ、クレアこの辺りは?」
私はサクが立っている辺りに幻術を出した。
「ああ、いいな。ここだと共通スペースが広く取れていいよな。クレア、ここで頼む」
「わかったわ」
サクが私の方に来たのを確認して、貰ってきた建物の厨房を、新しく増築した家の1階に移動させた。
「こりゃ~~魔法というより、幻でも見てるみてぇだな……」
ロービが唖然としながら呟いた。
「本当にそれな……」
サクも唖然としていた。
「それじゃあ、ロービ厨房を使えるようにと、両方の家のお手洗いを使えるようにしてほしいわ」
「おう!! 任せろ」
私はサクを見た。
「向こうの家を固定して、使えそうな家具を持ってきましょうか」
サクが笑顔で言った。
「そうだな。クレアと二人で食事できるような大きめのテーブルと椅子があるといいな!!」
そして、移築した家を地面にしっかりと固定した後に再び移築した建物に入った。
「本当に厨房の場所に何もない!!」
ガランとした空間が広がっていたが、その隣の部屋には大きなテーブルと椅子がたくさんあった。
「クレア、これを1つ持って行こう!! ここ食堂だったんだな。そのまま使えそうだ」
サクと使うテーブルと椅子を持って行ってもまだまだたくさんテーブルはある。
「いい拾い物をしたわね」
「あはは、それな!!」
そして私がテーブルを浮かせて運び、サクが椅子を運び、新しい家に二人の食事をする空間が誕生したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます