06.「曇ってきたな。」
最後の競技、クラス対抗リレーは皆が皆食い入るように見ていて、今なら大丈夫かもしれないと鞄の底で携帯を開いた。
新着は三件。
『書類ばかり相手にしていると、散歩したくなるよ。』
『曇ってきたな。
雲の切れ間から日の光が降りる情景は美しいよね。』
美都は顔を上げる。そういえばこちらも少し曇ったような気がする。怪し気な黒い雲が二つ三つ、綿を千切ったように長く薄く浮いていた。
ここからは、メールに書かれたような景色は見えなかった。「空は繋がっている」なんて誰が言ったんだろう。自分達の見ている空は全く別のものに思え、それは二人の空間に根本的な隔たりがあるように感じさせた。
何も――このメールが失くなれば、もと在る姿に世界は戻り、自分と彼との繋がりは何も無くなる。空一つ、大地一つで繋がっているだなんて言える程おおらかな思考は持てそうにない。
人知れず顔を歪めた。本当に終わり? 「彼」の消えた世界を、自分はどんな風に見たらいい?
そして三つ目のメールを開いて息をのむのだ。
『次で最後にする。
と、自戒しておくよ。』
ぱたり、と。
水が携帯の画面に落ちた。
自分が零したものかと一瞬驚いたが、どこかから聞こえた「あめ」という単語にその正体を教えられる。もう一度顔を上げると、光の降り注ぐ景色に雨水が散っていた。
天気雨。その光景の中でリレーの選手が疾走している。
(きつねの、嫁入り…)
苦笑でも付きそうな文面に、口元を緩めるなんてとてもできなかった。
この景色は、さながら彼との別離の儀式のようだったから。
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