08 将来の夢
カログリアトリビア。
魔法使いの就職先は大きく2つ、中央と地方に分かれる。
中央は魔法師団と呼ばれる首都メディウムに本拠を置く魔法使い専用の組織の事。カログリア王国関係機関で王国の方針に沿って運営、活動を行う。
就職する条件はテフル魔法学園に6年間通い卒業する事だけ。実力があれば出世できるし個人の希望を聞いてくれるし、条件も簡単とあって中央を選ぶ人は多い。
一方の地方とは首都以外の都市や街、村の事。一応同じカログリア王国だけど、それぞれの長、族長が独自のやり方で治めている。そこに定住して求められる魔法を活かして暮らす形だ。
大抵が故郷だったするのだが、優秀な魔法使いを引き抜こうと各地から登用係が魔法学園を訪ねてくる。魔法学園は基本的に魔法使いしか出入りできないので、登用係には自然魔法使いが就く。
中央と違って地方の就職条件は登用係によってまちまちだけど、殆どは中央より更に簡単になる。
実はテフル魔法学園で魔法使いに必須な基礎基本のカリキュラムは、3年生までで学び終わるのだ。
4年生からは個人の特性を伸ばす事を目的とし、授業内容も実地に近い形になる。それらは魔法師団のやり方に沿うのだが、地方の環境によっては合わない事もある。
その為妙な癖が付く前に、と3年修了共に魔法学園を途中退学し地方に移る生徒が一定数いる。登用係と言う魔法使いを既に抱えている地方でなら、その後の教育も可能と言う訳で。
正式に卒業している訳ではないので、人によっては途中退学者を元学園生に数えない事もままある。
2つと言いつつ、フリーと言う3つ目の道もある。
何処にも所属せず色んな所から依頼を受けて仕事するフリーランスの魔法使い。相当の実力を持っていないと生計を立てるのは大変と聞く。
また魔法使いとしてではなく、一般人としての生活を選ぶ人も稀にいるらしい。
どの道を選ぶかは生徒の自由だ。テフル魔法学園は生徒の希望に沿って指導、相談に乗ってくれる。
私と言えば、最初はそれこそフリーを考えていた。
実力に自信があったわけではなく、6年生までちゃんと通って卒業したら世界ふしぎ発見の旅に出たいと思っていたから。
世界中の謎と不思議を探し追い求めるハラハラドキドキに溢れた人生……あぁ、ゾクゾクが止まらない。
と、入学早々の進路希望で問われるままに夢を熱く語ったら、中央所属の巡回治癒師を提示された。
魔法使いを抱えられる地方ばかりじゃないし、通常の医者すらいない田舎だってある。そう言った土地へと出向いて治療を行う魔法使いが、巡回治癒師。
私に魔力適性があったからだけど、これに成ればまず立場が保障される。田舎だろうが都市だろうが門前払いされる事はほぼなく、寧ろ歓迎される。見知らぬ土地を旅するからこそ、どこでも通用する立場は重要だと教えられた。
そして給与が出る。日銭を稼ぐ生活も結構だけど、一定額が保証される方が断然いいと。巡回治癒師は旅の危険もあって成り手が少なく、給料は結構良いそうだ。
行き先について多少の指示は受けるだろうが、道中の行動は基本自由。希望を先に伝えておけば、色々と融通してくれるだろうとの事だった。
つまり特技を活かして旅費を稼ぎながら自由に世界ふしぎ発見の旅ができる、と言う訳だ。
先生の説明は入学しばかりの私にもとても分かり易くて、すぐにその道で進もうと思った。
「でも印税でウハウハになったらお金の心配がいらなくなる訳でぇ、やっぱりフリーでもいいですかねぇ」
「いいや、先生が仰っているように中央所属と言う立場が一番重要だ。世界中を旅したいのなら巡回治癒師になっておいて、損はないどころか得しかないよ」
私の質問にわろたさんがきっぱりと答える。
最初こそ色んな人にもみくちゃにされる勢いだったお祝いも、テーブルに並んでいたご馳走が減る毎に落ち着いていってくれた。そうなってからやっとゆっくりご馳走を食べて、周りの友達と話に花を咲かせていたら、いつの間にか話題は将来の話に。
私が招待したと言う事で、わろたさんは私の隣に席を用意してもらっていた。
「例えばローリくんが旅先で困った事に出くわしたとしよう。中央ならほぼ確実に助けが来てくれるが、フリーではそもそも助けを頼む先も自分で手配しておかなければならない」
「なるほどぉ」
「地方でも難しい。まずせっかく抱えた魔法使いを旅に出すなんて真似はしないし、仮に出したとしても、仲の悪い土地には入れないか最悪捕まってしまうだろう。やりたい事、なりたい職業、それに必要な立場についてよく先生に相談しておくといい」
うんうん、と周りの子達と揃って神妙に頷く。
現状平和なカログリア王国だけど、地方同士でのいざこざは昔からある。土地柄の相性だったり長同士の仲が悪かったり、理由は色々だ。いざこざが行き過ぎて小さな村が消えるなんて事も…。
都市によっては兵士団を整備している。各地が魔法使いを引き抜こうとするのもそう言った事情が大きい。
中央は余程の事がない限り口も手も出さない。内心では思うところがあっても、だ。
「わろたさんは最初から3年生までで途中退学するつもりだったんですか?」
登用係であるわろたさんは当然、魔法使いである。
でも4年生には進級せず、途中退学して故郷のトラモントに戻った。だからスファイ先輩はわろたさんを元学園生と認めず、不審者と呼んでいる。…まぁスファイ先輩の場合はそれだけが理由じゃないのだけど、それについてはおいおい。
「トラモントの長である我が主は兵備に力を入れていて、中央には及ばないけれど、魔法使いの登用にも積極的だ。そのトラモントに生まれ、魔法適性を持っていた私は幼い頃から主に目を掛けてもらっていたからその恩に報いたいと入学当初から心に決めていた」
「わろたさんって主さんがお好きですよねぇ」
「そうでなければ仕えたいなんて思わないさ。無理強いするつもりはないが、君達の将来の夢がウチでも叶うなら是非来てほしい、なんて勧誘も主の為なら平気でやる」
ニッコリと片方だけ見える目でわろたさんは笑うけど……声が本気っぽくって皆ちょっと引き気味だ。ただでさえ私以外はわろたさんとあまり面識がなくて、慣れてないって言うのに。
まぁ、わざと何だろうな。少し離れた6年生がいる席から「1年生に粉かけてんじゃねぇ!」とスファイ先輩の声が飛んできた。この距離でどうやって話を聞いたんだろう?
「遠くの音を聞く情報系魔法。この場合は特定の場所に仕掛けを施しておいて声を拾う【盗聴の魔法】だね」
疑問が顔に出ていたのか、わろたさんが教えてくれた。
「【集音の魔法】じゃなくて、ですか?」
「よく勉強しているね。だがそれでは雑音も拾ってしまう。【盗聴の魔法】は【集音の魔法】をより高度に発展させたもので、私が良からぬ事を君達に吹き込まないか見張るのならそちらの方がいい。とは言え…」
わろたさんは私達を見渡しながら、憂いを秘めた表情を見せる。
「1年生とは言え女の子が集まる席に仕掛けるなんて褒められた行為ではない。すまないね、私がいるばかりに…」
自分のせいで私達に迷惑を掛けてしまった…と悲しそうな顔を手で覆うわろたさん。
自分達の話が聞かれていた。聞かれて恥ずかしい話はしていないけど、気分が良い訳ない。
わろたさんを不憫に思う気持ちもあって、皆で6年生がいる席に…スファイ先輩に冷たい目を向けた。
「わろたさんを誘ったのは私です。私のせいです」
「事情があるのは何となく分かるけど…」
「せめて気付かずにいられたらまだ良かったのに…」
「何で声出すかなぁ…」
私達の視線を受けて、スファイ先輩が青い顔で「うぐっ!」と苦しそうな声を上げる。あの人、公式で年下に甘い兄貴肌って紹介されるくらい後輩思いだから、1年生女子に冷たい目を向けられるのはさぞ堪えるだろうなぁ。
6年生の他の先輩達が呆れた顔になり、先生達は頭を抱えている。多分、あの方々もこっちの話を聞いていたんだろう。友達が言うように事情があるのは何となく分かるから、怒りはしないけど。
私の隣にいるわろたさんの肩がめっちゃ震えているのは……気付かないふりをしておく。
「魔法の解除とかって出来ないんですかぁ?」
「出来るけどあえてやらない。聞かれて困る事は話さないからね。君達も私から何か聞き出してみたい事はないかい? 魔法使いは戦うだけじゃない、情報収集も求められる能力だよ」
わろたさんにそう言われて、皆で顔を見合わせる。皆、特に思い浮かばないようだ。
なら、と私が手を挙げてみる。
この際だからハラハラドキドキの質問をしてみよう。
「つかぬ事をお聞きしますが、もし主さんが世界征服するって言い出したら…わろたさんは世界征服しちゃいますかぁ?」
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