恩人

という成り行きにより、マナミが僕に好意を寄せるというのは、ある程度想定出来る事かもしれない。多く語ることも無さそうだが、生まれて十数年間で異性から猛アタックを受けた経験がない僕にとってそれは幸福な出来事であり、その想いを拒む理由など万に一つも見当たらなかった。


結果、マナミは僕にとっての人生初彼女となる。コチラに来て初めての親密な出会いが、そのまま初めての恋人になるとは流石に想像すらしていなかった。当初は何かやましい事をしたようなニセの罪悪感に苛まれていたが、勇気を持ってケイとユウジに打ち明けてからは、それもすぐに消え去っていった。


季節的にも、付き合いはじめて数日でバレンタインデー。本命チョコというものを貰うのだって初めてだ。僕の心はこの類いの「恋愛から来る幸福」というものを受信したことが無かったが故、相当にまっさらな心でこの喜びを噛み締めていた。


そんな幸せの最中、バレンタインデー翌日の夜に見た夢の中で、僕は忘れかけていた不二田の顔を思い出す事になる。


「幸せの乱数調整」って知ってる?と、あまりにも不敵な笑顔と呟きを受け翌朝目覚めた僕は、嫌悪感たっぷりの冷や汗を寝汗として、敷き布団に跡がつくほどびっしょり掻いていた。


ガバっ!「夢か…」と勢いよく目覚める。それはまるで漫画のワンシーンの如く、布団の上で体を90度に曲げてしばらく動けず呆然と座わり尽くすさま、そのものといえる。


「僕には避けられない運命があるんだった…」


この時、僕の周りには朝イチのピュアな日差しと、そこには決してあって欲しくない「モヤモヤした黒いぐるぐる」が混雑して存在し、それらの混合物がここ数日で安定しかけていた僕のメンタルを、再び激しく揺らし始めた。

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10 minutes もにもに @monimoni4820

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