第19話 D視点 根喰い虫

ゴブリン語読みにくくてすいません。

訳の方だけ読んでもらえれば結構です。


ゴブリン語は私の自己満足です。


もう一度言いますが、ゴブリン語は読み飛ばしてもらって結構です。


                丸兎

――――――――――――――――――――





ディー視点


「ぐりんもぅぐおっ!」

 訳:ちょっと待ってくださいっ!


――――いや、無理だな。王のために消えろ。


 我はギエルに跳びかかった。


「だからこの脳筋がッ……呪屍回廊じゅしかいろうッ!!」


 我とギエルの間に、突如として“それ”は現れた。

 

 ゴブリンを模したような、異形のナニカ。実体はただの土塊つちくれに過ぎないはずだが、ギエルの緻密な魔術操作により、まるで命を宿したかのように蠢き、牙を剥く。


「えぇ~と、ゴブリン語でなんだっけ……」


 ギエルが何事かを呟く。


 ギエルは本当になんの言語を喋っているのだ。相手の意図が分からないのはイラつく。……王は例外だが。


 とりあえず、憂さ晴らしに土塊つちくれどもを潰す。個々の力は弱い。数が多いのだけが厄介だが、一匹ずつ始末すれば、いずれは片付く。


 その間ギエルは、なぜか逃げずに何かを考えこんでいた。


「そうだっ!思い出したっ!」


 ギエルが叫ぶ。毒魔法の詠唱だろうか?


 魔法の起点をつぶすため、一気に土塊つちくれの中心を強行突破する。


 我の蹴りが――吸い込まれるようにギエルの顔面へと迫る。


 次の瞬間。


「……ぎゃずぐるッ!」

 訳:根喰い虫ッ!


 その言葉が、空気を裂いた。


 刹那、体が凍りついたように動きを止める。


 筋肉は確かに命令を受けていた。蹴れ、と。だが神経のどこかが、それを拒絶した。


 我の脚は、寸前で止まっていた。ギエルの鼻先をかすめるほどの至近で。


 脳裏に焼きついている“あの形”が、黒い影となって一瞬で蘇る。

 太く、うねり、地を喰らい、命を飲み込む――あの怪物の輪郭。


 根喰い虫。

 地を揺らす悪夢。


 まさか、再び中域に……?


 蹴りを止めたことなど、我自身も理解できなかった。ただ、体が本能的に警戒を示していた。



――――あのバケモノが再び現れたのなら、今ギエルを殺るべきではない。


 我は、ギエルの顔を見下ろす。


「……のぎ、ぎゃん?」

 訳:今、なんと?


 ここぞとばかりに、ギエルまくし立てる。


「ぎのば、ぎゃずぐるぎゃばぐぬぎゃげ!もぎゅぬばぐもりにへぐら!ごぶりんばりぎゃんぐぐるじゃいぎゃんぬ!」

 訳:昨日、根喰い虫が巣穴に来た!仲間がたくさん喰われた!ゴブリン同士で攻撃している場合じゃない!


 

 なぜ、中域に……?


 前回の出没の原因は、凶兎キョウトと先代族長の戦いの余波の影響だ。ならば……




――――トレントの活性化か……。


 あのトレント、恐らく無自覚で大量の魔力を放出している。それに釣られてきたのだろう。


 我は深く息を吸い、精神を落ち着ける。


「ギエル、ぎゃずぐるぎゃりょぐぐるぎゃるもすぐるお」

 訳:ギエル、根喰い虫を追い払うのに協力しろ


「……ぎらげらぬでげ」

 訳:……言われなくても


 まぁ、協力するのは当然だ。ギエルもを生き抜いた仲間だ。


 ……そういえば、ギエルはあの後裏切ったよな。あいつのせいで集落が分断したんだよな。




 しょうがない。気持ちを落ち着けるためだ。一度、殴っておこう。


 拳を振りかぶる。魔力を収束させる。


「え!?何してんの!?もぐお待てッ!」





 土の欠片がパラパラと舞う。我が殴りつけたギエルの後ろの壁は、放射状にヒビが入っていた。


「り、ぐぅきゃぐ――ぎねる」

 訳:もう一度、逃げたなら――殺す


 ギエルは青い顔をしてコクコクと頷いている。その顔は恐怖で引き攣っていて、普段は鋭い目も下がって見えた。



――――さすがにもう逃げないだろ。


 ギエルへの脅しは終わった。後は、根喰い虫を追い払う準備をしなくてはならない。


 ツノゴブたちを連れてくるか……。いや、我が集落の戦力を減らしたくない。こちらの集落のゴブリンで補わせよう。


 そこで、ふと気が付く。結局、毒を流したのは何故だったのだろう。


「どんべーる、ぎゃずぐるぎねるがぬ!」

 訳:毒を流したのは、根喰い虫を殺すための罠!


 聞いてもないのに答えが返ってきた。どれだけ我の様子を窺っているのだろうか。

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