第二節 土と木の話

第10話 地下の兆し

 皆様すいません

 さっきまで硬派な小説を読んでいたせいか、少し引っ張られました。


 気にしないでください。次から戻ります。



――――――――――――――――――――



 昨日、巣穴の拡大を行っていたゴブリンに呼ばれたので掘削の最先端に行ってきた。


 穴は反対側に突き抜けていた。


 大事なことだしもっかい言っとく。


 穴は


 あぁ、今さらだけど僕たちの巣穴は山の中にある。それを拡大していたのだが⋯⋯


 こうなってくると改めて不思議なのだが、なんで巣穴は崩落していないのだろう?


 洞窟って、適当に掘っても大丈夫なものだったのか。


 分からないけど、絶対におかしい。何かファンタジー的な作用が働いている。


 ていうか、ここの岩はゴブリンでも大それた道具なしに掘れるくらい脆い。なのに崩落していないことになんで違和感を持たなかったのだろう。


 というわけで、今ディーを伴って探検中です。


 とは言っても、僕はディーについていっているだけだ。


 今日のディーはやけに機嫌がいい。何かを感じているのか、一直線に穴を掘っていく。


 ガリッ!ガリッ!


 ほんとにどこに向かってんだろ?


 その時、ディーの爪が何かに“コンッ”と当たる。


 なんだろ、硬い音。鉱脈でも掘り出したのかな。


 僕はディーの手元を覗き込む。そこには……


――――青緑の光が渦巻く玉があった。


 兎を燃やした時と同じような気配を感じる。魔石(仮称)だ。


 あの時よりもはるかに大きい。


 僕が何も言わなくても、ディーは玉の周りを掘っていく。ディーは何かを感じているのかな。ていうか、一直線にここまで掘ってきたから何かあるのは気づいていたんだろう。ディー、お前すげーな。


 掘り出された玉を、ディーがうやうやしく僕に捧げる。


 近くで見ると、玉の中央では白い光が溜まっているのが見えた。


 玉を手に取る。


 うーん、なんだこれ?


 別段、すごいオーラとかは感じない。玉を回転させていろんな角度から見る。


 うーん、僕は芸術的価値は分からないからレアドロップにしか見えない。


 ……やっぱ、ディーの武器に合成した方がいいk


 ガンッ!


 ん?何かな?


 背後から石が落ちたような音。おそるおそる振り向く。



――――


「オウッ!きやるきゃぅぐお!」


 ディーが何事かを叫び、僕の首を掴んで走り出す。


「きゃぐおっ!」


 ディーは巣穴を疾走しながら、他のゴブリンに呼びかける。みんな、慌てて逃げ出す。


 ……やばい、これ崩落する?


 ずっと思っていた懸念。このディーの慌てっぷりは異常だ。何かが起こる。


 地が震える。ガタガタと大きな音を立てて、巣穴の深いところから崩落している音が聞こえる。


 ディーに掴まれて逃げる中、角ゴブの部屋が目に入った。




――――持って逃げる角笛を


 ……そんな状況じゃないだろっ!


 僕はディーの腕から飛び降りた。


「角ゴブッ!」


「うぎゃ!?」


 僕は角ゴブの首根っこを掴み、引きずり出す。火事場の馬鹿力というやつだろうか、容易に引きずり出せた。次の瞬間、部屋が崩れ落ちる。


「きゃぐおっ!」

 訳:逃げろっ!


 多分、逃げろという意味であろうゴブリン語を使いながら走り出す。


 後ろからは角ゴブがついてきている音が聞こえた。


「オウっ!」


 やっぱりディーに首を掴まれて持ち上げられた。ディーの反対側の腕には角ゴブが収まっている。


「きゃぅぐ!」

 訳:逃げます!


 ディーに連れられて、僕らは巣穴を脱出する。同時に、背後で入口が完全にふさがれた。


――――巣穴が崩落した。




 周りのゴブリンたちは、心配そうに僕を眺めている。


 ……どう考えてもこれのせいだよな。


 僕は腰蓑に入れておいた、魔石を取り出す。


 いったいこれが何の役割を持っていたんだろう。


 というか、これからどうしよう。巣穴は崩落した。つまり、僕たちは家なきゴブリン。ゴブリンを拾ってくれるところなんてある訳ないし……


 ……いや、違う。そうじゃない。僕たちはゴブリンだ。誰かに助けてもらうようなやわな魔物じゃない。





――――家を、作ればいい。


 今度は地上に。みんなが安心して暮らせる集落を。


 僕は決意を固めて、ディーのもとに向き直った。









――――――――――――――――――――

 ゴブリン語辞典


 きゃぐお = 逃げろ

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