第9話 D視点 オウリアムの宴

ディー視点


 夜中駆け回り、オウリアム神とその神器――オウリアムノキを広めることができた。


 今はオウリアムノキを拾って、集めているところである。オウリアム神の使徒たる我らが王は、これを要求するだろう。


 そう予想しての先回りだ。


 我は皆が集めたオウリアムノキを角笛のゴブリンと共に、保管所へと運ぶ。そう、保管所を作ったのだ。巣穴の奥も奥、我はゴツゴツとした洞窟の道のりを歩いていく。


 そういえば、王が歩きにくそうにしていた。整備するように指示を出しておこう。


 オウリアムノキ保管所に着く。


 王がオウリアムノキを触って喜んでいる。そういう趣味なのか。もっと集めておこう。


「オウ!ぐぎゃおぅぐぅげ?」

 訳:オウオウリアム神の使徒!火が必要ですか?


 王は頭をひねっている。


「オウリアムノキ。ぐぅっげ」

 訳:オウリアムノキ。集めました。


 王が我が肩をポンポンと叩かれた。


「ぐぎゃおぅ」

 訳:火。


 ……これは?王は何をおっしゃろうとしている。


 我には火と言ったようにしか聞こえない。我は必死に王の真意を考える。


 ――――、それは精霊の祝福。火の精霊の力を借りて、この世に顕現するもの。


 ならば、王は……そうか。


 火の精霊を我に見せてくれようとしているのだ。我は思わず期待の籠った眼差しで王を見つめる。


 王はオウリアムノキをひとつかみ取ると、地上への道を歩みはじめる。


 道中、興味を持ったのか皆が我らを眺めていた。だから、我は皆も連れていくことにした。火の精霊を見せてもらうのは我だけでなくともよい。オウリアム神の加護を皆で味わう。それが目的だ。


 やがて、地上へと辿り着く。外では我が頼んだ通りに、角笛のゴブリンがオウリアムノキを組んでいた。


 王は持ってきたオウリアムノキを使って、火起こしを始める。そういえば、我と王の火起こしの仕方は違う。きっと何か深淵なる理由があってのことだろうが、振ってつけた方が早いのに……


 王の手元から煙が出始めた。


 いよいよだ。我々は身構える。


 ドオオォォォンッ!!


 野外で起こされた爆発的な火。それはみるみるうちに天高く昇っていく。天を割り、光で我らを輝かす。


 これがオウリアム神、そして王のお力……


 図らずも感嘆の息を飲む。


 誰だろうか、ひとりの若ゴブリンが踊り始めた。釣られるように、踊りの輪は広がっていく。皆が皆、火の周りを踊り狂い駆け回る。


 同時に懐かしい気持ちがこみ上げた。


 頭をよぎるのは、先代の族長のもとでの幸せな暮らし。


 族長が凶兎キョウトに殺され、群れが分裂するまではこんな風に宴をよくやっていた。


 懐かしさに浸りながらも、あることに気が付く。


 再び訪れたこの平和な時間。それは、すべて王のおかげである。火という力を授け、群れをまとめ上げた。決して、我が族長の時では叶わなかった。


 そもそも、この中域に紛れ込んだ凶兎。王が奴を見つけ、サポートしてくれなければ、今この群れはなかったかもしれない。


 我は群れを守るために、王に尽くそう。王の腕となり、足となり、矛でも盾でもなんにでもなろう。


 全ては王のため。群れのため。


 神聖なる火を前にして、改めて決意をたぎらせる。




――――――――――――――――――――


 文字数稼ぎのついでに、過去の群れの話を書きました。

 どうやらディーには、凶兎と因縁が…?


 さて、次回からは第二節『土と木の話土木工事』が始まります。


 ぜひ、お楽しみください。

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