第3話 登録画面


“記憶の削除サービス”とだけ書かれた簡素なトップページには、

他にボタンも説明文もなかった。

ただ、画面の中央に**「はじめに」**というリンク。


タップすると、ようやく内容が表示された。



---


> このサービスは、個人が保持する記憶の一部を削除することを目的としています。

一度削除された記憶は、基本的に復元できません。

削除可能回数は三回まで。

三回を超えての申請は、以下のいずれかを選択いただきます。


・再出発(人格を維持したまま記憶全体を初期化)

・存在の抹消(社会的記録ごと消去し、痕跡を残さず消滅)

・全記憶の放棄(自我・名前・感情のすべてを失い、新しい個体として生きる)





---


笑ってしまいそうになった。

SF映画か、都市伝説か。

でも、今の自分には“嘘くさいほど救いがある”。


さらにスクロールすると、規約や注意事項が並ぶ。


「本人の同意があること」「削除後の苦痛に対する責任は負えないこと」

「削除の瞬間、精神的な痛みを伴うことがある」など、どこか現実的な文面。


最後に、**「登録はこちら」**のボタン。

背景もボタンもすべて淡いグレーで、感情をはぎ取ったような無音のページ。


指が、震えた。

“登録”するということは、もう後戻りできない。

今の私の記憶が、世界が、自分の全部が、変わってしまうかもしれない。


それでも、そうするしかないと思った。

変えなきゃ、もう生きていけない気がした。


指が、ボタンに触れる。

画面が切り替わり、静かに表示される。



---


> ようこそ、削除者(Deleter)へ

あなたの最初の記憶を、お選びください。





--

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る