遺跡の目覚めと契約精霊

遺跡の中心に広がる、光の間――。




その空間に足を踏み入れた瞬間、わたくしは息を呑んだ。




「……幻想的って、こういう場所のことを言うのね」




天井も、壁も、床すらも。


すべてが光の粒でできているかのように輝いていた。


ふわり、と。


風のような、音楽のような何かが、身体の周囲を撫でていく。




「まるで……ゲームの最終ステージ前みたい……」




いや、違う。


これは現実。わたくしが生きるこの世界の“真の中枢”。




中心には、水面のように揺れる光の泉。


近づくと、泉の中に、**“少女の姿”**が浮かんでいた。




「……子ども……?」




小さな身体。虹色の銀髪が、水のように揺れている。


そのまま、まばたきもせず、こちらを見つめていた。




怖くはなかった。


どころか、どこか懐かしささえあった。




「あなた……わたくしを待っていたの?」




すると、少女が――微笑んだ。




「……うん。ずっと、待ってたよ」




声が、心の中に響いた。




「何百年も、ひとりで。


 でも、ようやく来てくれた。


 ――“リディア”。あなたが」




「どうして、わたくしの名前を……」




「だって、あなたは“選ばれた人”だから」


「わたしが選んだ、たったひとりの“契約者”だから」




その言葉とともに、泉の光が弾けた。




眩しい閃光の中、少女の姿が浮かび上がる。


年齢で言えば、12~13歳くらいかしら。


虹色の髪が風に舞い、瞳は七色の宝石のように煌めいていた。




「精霊……なの?」




「うん。わたしは“フィーネ”。


 精霊の核にして、最後の契約者を探していた存在。


 あなたに力を与えるために、ここで眠ってたの」




「なぜ、わたくしを?」




フィーネは、まっすぐにわたくしの目を見つめて――言った。




「だって、あなた……とても孤独な目をしてたから」




「……っ」




心が、跳ねた。




なぜか、フィーネのその一言が、


どんな甘い言葉よりも胸に刺さって。




「あなたは、誰よりも誰かを守りたいと思ってるのに、


 誰にも守られたことがないんでしょう?」




ああ、ずるい。


そんなこと、言われたら――




「でも、大丈夫。今からは、わたしがいるよ。


 だから、わたしと契約して?


 “ふたりで世界を救う”ために」




その言葉に、わたくしは無意識に頷いていた。




「……ええ。わたくしはもう、“ひとり”じゃない。


 なら、この手に力を。


 世界を救うほどの、規格外の魔導を」




すると、足元から浮かび上がる魔法陣。




古代語、精霊語、数式、記号――


前世の知識すら飲み込むほどの情報が、脳に流れ込んでくる。




《アルカ・コード》──解析、記録、複製、進化。




このスキルは“あらゆる魔法を理解し、自在に再構築する”能力。




「これは……これが、わたくしの、チート能力……」




「うん。“世界でたったひとつの魔導の鍵”。


 あなたが持つにふさわしい力だよ」




手のひらが、紅紫に輝いた。




フィーネが、そっとわたくしの手に指を重ねる。




「……これから、よろしくね。リディア」




「ええ。こちらこそ、フィーネ」




静かに、契約の光がふたりを包んだ。







遺跡を出る頃には、夜空に星が瞬いていた。




「不思議ね……たったひとりで歩いてきた場所が、


 今は誰かと“並んで歩ける道”に思えるの」




「ふふっ。リディアの言葉、すっごく綺麗だね。好き」




「そ、そんなこと、言わなくていいのよ……!」




顔が熱い。精霊相手に赤面するとか、乙女ゲームでも見たことないわ。




けれど。


わたくしは確かに、ひとりじゃなくなった。




“わたくし自身の物語”に、**最初の仲間が加わったのだから。




そして、


これが――魔導師リディア・アルヴェインの、第一歩。

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