第16話 豆腐小僧 白助との出会い

 豆腐小僧と思われる男の子を見つけた凪たち一行。

 その男の子は髪の毛が長く、目が隠れるほどだった。少し服もボロボロだったが、可愛らしい男の子だった。

 「さて…」清張は唸る。

 凪は少し考える。清張の時は何とかいったが、今度は小さい男の子だから下手に警戒されても不味い…。

 いや、普通に考えれば答えが見えてるじゃないか。

 凪はそう思い、男の子に近づく。

 「えっと…すみません」凪は一応丁寧に話しかける。

 「は…はい!」男の子は豆腐を持ちながら一瞬戸惑ったが元気よく返事をする。

 「豆腐を一丁、ください」凪は人差し指を立てながら、注文をしてみる。

 「は…は…わ…」男の子はその言葉を聞くと途端に涙が溢れ、こぼれ始める。

 「わわぁーーーーー!!!」大声で泣き出す男の子。

 「あ…あー!えっと…その…ダメだったか!?」凪は戸惑う。まずい、泣かせてしまった。

 しばらくわんわんと大きな声で大粒の涙をこぼしていた男の子が少しだけ落ち着くと

 「まいどありぃーー!」と泣きながら話す。

 凪はその言葉を聞いて、ほっとする。良かった。泣き出したのは嫌だからではなかったのか。

 しかし、こうも大泣きしていたのはなぜか。そう言えば子供が泣いているのに、全然人が寄ってこない。ちらりともしない。そう言えば妖怪は霊力が無いと見えないって言ってたな…。そう考えた時に確信した。間違いない。この子が天満さんが目を付けていた「豆腐小僧」だ。

 とりあえず出会うことが出来た。が、ここからが重要だった。誓約を交わせるか。とりあえず豆腐を買った引き換えにでもするか?なんて考えてたらその豆腐小僧はぽん!と目の前に皿に乗っかった豆腐を出す。

 「お!」と凪は驚いた。そういう風に出すのね。

 「豆腐一丁…!5円です…!」豆腐小僧はそう話す。

 「安!」凪は思わず叫ぶ。たまにスーパーで安い豆腐を見かけるがここまで安いのは聞いた事ない。激安スーパーでもなかなかないだろう。まるで昭和の時代のような…

 なんて考えていると、目の前にぷるん。と豆腐を差し出す豆腐小僧。とりあえず5円出すか。

 凪は財布を出して、小銭を出す。出しながら、一つ聞いてみる。

 「ずっとここで豆腐売ってるの?」

 「うん!歌に合わせて!」豆腐小僧は嬉しそうに話す。そう言えばメロディに合わせて替え歌を歌っていたな。

 「ふーん。驚かせてごめんな。」凪は先程泣かせてしまった事を謝罪する。

 「ううん。大丈夫。久しぶりに声を掛けられたから。」豆腐小僧は話す。

 「変なお兄さんだけだったんだ…。それからずっと声をかけてくれる人がいなくて…だから泣いちゃった」豆腐小僧は話す。なるほど、嬉しくて泣いたのか。

 豆腐を貰い、2人と1匹で分け合う。味はしっかりとした絹豆腐でおいしいものだったが、凪にとっては味気が無いと思ってしまった。醤油なんて持ち歩いてないし…なんて思いつつも目の前で目をキラキラさせながらこちらを見ている目線を横目に「味が薄い」とは言えなかった。

 「もひとついかが?」と豆腐小僧はまた豆腐を差し出す。

 「あ、いや大丈夫だよ!あーありがとう」凪は今度は別の理由で泣き出さないか不安になりつつもやんわりと断った。そして、

 「君、名前なんて言うの?」凪は話題を変える為、何よりこの豆腐小僧の事を知るために名前を聞く。

 「おいら?おいらは白助(しろすけ)!」白助と名乗った豆腐小僧は嬉しそうに答える。

 「白助かぁ。いい名前だな」凪は白助の顔を見ながら話す。

 「ほんと!おいらの名前はとーちゃんとかーちゃんが付けてくれたんだ!」白助は当然と言えば当然の話かもしれないが、自分の名付け親の話を嬉しそうに話す。

 「そのとーちゃんとかーちゃんはどっかいるのか?」清張は何となしに質問する。

 「とーちゃんとかーちゃんはね…」質問を聞くと俯き、また泣き出しそうな顔をする白助。そして

 「うわぁぁー!」また泣き出してしまった。

 「わ、わかった!悪かった!俺も父ちゃんと母ちゃんはいないから!すまんな!」清張は慌てて宥める。

 「…いなくないもん」白助はぐすんと鼻水をすすりながら答える。

 「え?」清張は聞き返す。

 「いる…けど会えないんだ…いるはず…なんだけど」白助は落ち込みながら話す。

 「会えない?これはまた複雑な事情がありそうですね…」福郎は顎に翼を当てて考え込む。

 「なるほどな。」凪はその話を聞き、何かを察する。

 「とーちゃんとかーちゃんは豆腐屋だったのか?」凪はその察した事を質問として聞いてみる。

 「うん...!おいらもたまに手伝ってたんだ!」白助は嬉しそうな話す。

 「でもね…昔のお家に行っても誰もいないんだ…それに」そう話しながら白助は道の方に指を指す

 「あっち」白助は指を指した方向に早足で歩き始める。

 一行は白助の後をついていく。

 しばらく進むと道の真ん中で白助が立ちすくんでいる。そしてその先を指さしている。

 そこを見ると空き地になっていた。土だけの何も無い空間。

 「ここ、おいらのおうちがあった場所。」白助はそう話す。あった。その言葉で一行は察した。

 「(幽霊も妖怪みたいなもの)」天満さんがそんなことを言っていたような気がする…周りの反応のなさも考えると妖怪や幽霊の類で間違いないだろう。その豆腐屋さんはいつまであったのだろうか。

 「なるほどな…おい坊主」清張はそう話すと白助の方を見る。

 「な…なに?お兄ちゃん?」少しだけたじろいで恐る恐る聞く白助。

 「何があったか教えてくれよ。」清張は率直に聞くことにしたようだ。

 「う…うん。おいらの話、聞いてくれるの?」白助は凪たちの方も見ると、凪と福郎は黙って頷いた。

 「えっとね…おいらの豆腐屋さんは…」

 そう、豆腐小僧になった経緯、いやなってしまった話を白助は話し始めた。

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