悪夢
悪夢をよく見る。内容は時々で違うが、やっていることはいつもと同じ、解体だ。昼間殺した男を、夜夢の中で解体する。解体の過程は初めてのときと同じで、関節を外し、扱いやすい大きさに切って、血と肉と骨を分ける。内臓を掻き出して虎に食わせる。あの日、先生がやってみせたことを、俺は夢の中で繰り返す。夢の中で、俺の手は勝手に先生の手順をなぞっていた。
皮を剥いだ肉片を竹の皮に包む。先生がそうしていたように。竹の皮のひんやりした手触りを感じながら、あのとき先生が微笑んだことだけを、やけに鮮明に思い出した。
やがて暗闇から小銭を持った手が何本も伸びてきて包を掴む。その手が俺の手首を掴んで金を払い、俺は怖くなってその場から逃げ出す。
どこまで走っても暗闇が続き、夢だと気づいたときには全てがどうしようもない段階まで終わっていて、突然暗がりから先生が現れる。畳の部屋に靴のまま立っている先生が、血に染まった手を伸ばし「よくできました」と言って頭を撫でる。優しい声の響きが耳に残る。ベッタリと血が頬に垂れる感覚がして、慌ててこすろうとして目が覚めた。頬に血はついていなかったが、代わりに冷や汗がつたっていた。
いい夢じゃないのは確かだが、俺にとってはマシな夢だ。決まった工程を繰り返す、別の誰かの夢を眠ってる脳が受信しているだけ。
昔と違って、叫びながら起きることはなくなった。昔は、自分が売り物に加工され、売られて酷い目に遭う夢と、自分が食肉にされて喰われる夢が合体して、叫びながら目を覚ましたものだ。
いまはそれよりマシになった。なにより、もう襲われてただ恐怖と屈辱で動けなくなる無力な自分を見なくて済むのは、正直ホッとする。
俺は壊される側から壊す側に回ったんだ。今まで散々奪われて壊されてもうもとに戻らないなら、それを奪い返すために殺して何が悪い?
殺すのはもう怖くない。ただ、後で夢を見るのが面倒なだけだ。たまに吐くけど、それは悪いことじゃない。吐いたほうがスッキリすると先生も言っていた。そのくらい、当然の代償として引き受けてやるさ。
明日は夢を見ないかもしれない。そう思いながら、俺は目を閉じる。悪夢が待っているのを知りながら。
明日もまた殺すために。
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