第2話 推し高校を探せ!
「窓香ちゃん、久しぶり〜」葛城聖の低く甘い声が聞こえてくる。ああ…至福の瞬間だ。
SNSを一切やらない高校生の聖。携帯番号は教えてくれた。それならそれで方法はある。ビデオ通話だ。先にショートメールを送り、聖が電話に出られる時間帯を確認し、金曜日深夜にビデオ通話をお願いする。うふふ…窓香の頬は緩みっぱなしだ。
「窓香ちゃん、元気そうやね。良かったわ」聖は左手の手のひらをこちらに向けてゆったりと振りながら、笑いかけてくる。ああ…HP全回復。
「聖ちゃん、お久しぶりです」窓香も手を振って見せる。興奮のあまり思わず両手を激しく振ろうとしたので、右手に持っていたスマホを落としそうになる。
「おっと!」
「相変わらず、窓香ちゃんは可愛いなあ」聖ちゃんがケラケラと笑う。喜んでいただけて幸いです。窓香もつられて笑い出す。
「実は今日、ちょっと相談したいことがありまして」
「私に答えられることなら、なんでも答えるよ。でも何なんかな」聖ちゃんはニッコリ笑いながら、少し首をかしげる。
「あのですね…聖ちゃんは、高校をどうやって選んだんですか」
「高校?」
「はい、高校です」
「そりゃまた…難しい質問やね。でも、正直に答えたら、窓香ちゃん、ガッカリしそうやなあ」
「いやいや!絶対に絶対にガッカリしません!」
「ホンマに…?」
「ホンマにホンマ!」
聖ちゃんは少し笑ってから、覚悟を決めたように言った。
「近かったから」
「え?」
「近かったんよ」
「はい?」
「いやだから…自宅から離れてても最大限、駅ひとつ分程度、自転車でも行ける、最悪徒歩でも行けるところ。それが譲れない条件やったんで」
「…」
「いやまあ、近くにある高校がとんでもない荒れた学校やったら、それはそれで考えたで。でも、私が住んでいるところは、公立も私立も大人しくて真面目な子ばかりなんよ。だから、一番近い私立の学校に決めて」
「私立の学校に決めたんですか」
「あ、言い忘れてた。私ね、雅楽部のある高校に行きたかったんよ」
「ああ…聖ちゃん、龍笛吹くんでしたもんね」
やっぱり聖ちゃんに相談したのは間違いだったかも。この人は…浮世離れしていることを忘れていた。でも、何だろう。聖ちゃんと話しているとホッとする。それは、彼女が偏差値とか学力とか大学合格者数とか、そういう見えないライバルとの競争めいた話題を口にしないこと、一方で、彼女なりに学校を選ぶ基準はしっかり持っているからだ。たとえその基準が「家から近い」という何とも安易なものであったとしても。
「家から近いって重要ですか」
「うん。だって早く家に帰りたいでしょ」
「そ、そんなもんですか」
「通学にかける時間がもったいない。その時間でできることが色々あるやん。本読んだり、笛吹いたり」
「な、なるほど」
「自由に過ごせて、勉強もまあまあできる学校やったら、あとは自分次第やない?」
「あ、確かに」
「大事なことは、自分がその学校という居場所に受け入れられているかどうかやから、ここは居場所やと思えたら、あとは居場所で頑張って将来を考えていけばええでしょ」
「居場所…」
「大人が、窓香ちゃん、すごいわぁ〜って、めっちゃ褒めるような高校行ったって、自分に合わなければ辛いだけ」
「なるほど」
「窓香ちゃんは、文学の道に進みたいんでしょ。ほな、本好きさんが集まる高校があればええねえ。少なくとも、本読んでるだけで三軍や言われないような、文化を重んじる高校。できれば居心地の良い図書室のあるような」
「なるほどなるほど」
「あとは…窓香ちゃんが活躍できるような部があって…文芸部みたいな?」
「あ!文芸部かあ…それ、良いかもです!」
「同人誌作って、夏休みは関西のフリマに売りに来たらええやん。そしたらまた一緒に遊べるし…」
聖ちゃんの鶴の一声で窓香の心は決まった。文芸部のある高校に、私は行く。そして、同人誌を作る!
そしてその次は…関西進出だ!
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