三軍の受験大作戦

南都大山猫

第1話 兵どもの夢の跡

 江戸川窓香。都内の公立中学に通う3年生。相変わらず窓香の「青の時代」は続いているが、状況は修学旅行前とは大きく変わった…ような気がする。


 まず、あからさまな態度や冷笑で窓香を悩ませていた一軍女子グループは、修学旅行中の京都で窓香の強気の態度を見てから、ずいぶん大人しくなった。まあ、雑誌モデル子はあまりモデルの仕事をしなくなり、劇団子役女子は、デカくなりすぎてやはり仕事が激減、タワマン女子はローン支払いが厳しくなった親が引っ越しを考えているらしく、社長令嬢は親の会社の業績が思わしくないらしいから、窓香のことにばかり関わってはいられなくなっているのだろう。


 あともう一つ変わったのは、窓香以外の「三軍勢」から声をかけられることが増えた、ということだ。


  「お前、強いよな…」修学旅行から帰ってまもなく、田端幸人が突然話しかけてきた。田端君は窓香から見てもザ・変人だ。とにかく喋らない。授業中はほとんど居眠りしている。ただ、数学だけはものすごくできる。でも、あまりにも変わっているのと、切らない前髪で鼻から上がほとんど見えないせいで、クラスで不気味がられている。彼も修学旅行はどこかの班にぶっこまれていたはずだ。ただ、彼は私と違って、大人しめの男子グループに入ったはずだから、露骨な嫌がられには遭遇していなかったと思う。あと「数学が(異常に)できる」というのは、受験学年にとってはある種のパワーだから、みな敬遠はすれども、なんだかんだで畏敬の念は抱かれている。気が向くと、難問の解き方も教えてくれるらしい。

  

  「え?」田端君から話しかけられることなどなかった窓香はなんと応えてよいか迷い、分かりやすく挙動不審になった。

  「いや、そう思っただけ」田端君はそう言って、サッサと話を切り上げ立ち去った。何なんだよ。


  まあ、修学旅行後に窓香に起こった変化といえば、そんなところだ。あと、お祖母ちゃんが変なことを言っていた。まあ、それは置いておいて。


  でも修学旅行で一番大きく変わったのは、窓香自身だと窓香は思っている。今までこだわっていたこと、怖かったこと、不安だったことが、嘘のように消え去った。半日の付き合いだったけど、それほど葛城聖と九条律との出会いは強烈な体験だった。


  派手じゃないけど、明らかにキャラが際立っている。自然だけど、美しい。穏やかだけど強い。そして、何より現在(いま)を楽しんで生きている。あの二人との出会いのお陰で窓香の「青の時代」にも終わりが見えてきた。


  というわけで、窓香は生まれて初めて「強気で生きる」ことに決めたのだ。そして強気で臨む最優先課題はといえば「受験」である。受験…高校受験なのだ。そのためには、色々やらなければならないことが山積みだ。

  

  で、窓香の場合、まず、進学する高校をどこにするのか決めなければならない。そこからかいっ! 思わず窓香は自分で自分に突っ込んでみる。

   

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