第18話 新宝島
風呂上がり、部屋着に着替えたエルマと何故か村尾カンナ。
「化粧を落としてカンナちゃんは薄幸美人に戻ったし……、エルマちゃんの濡れ髪もまた良い」
「マジでヤバいな。2人から迫られたら、俺はどちらを選べば良いのだ?」
「そんなのいいから、早く風呂に入ってこい。さっきまで着てた服はエルマちゃんに預かってもらってるから、探しても無駄だからね」
「……チッ、こちらの作戦は筒抜けか……」
「さすがは我が軍師。もしや俺の下着好きの性癖がバレている?」
「あっ……、心の声が止まらない。誤魔化せ……俺は巨乳が好きで、大きめの乳輪が好きで、無理矢理服を剥ぎ取られるより、仕方なく恥ずかしげに服を脱がなきゃいけないシュチュエーションに興奮する」
「って、性癖の発表会になってないか?」
俺の止まらない心の声に
「いいから風呂に入ってこい。私らにはやらなきゃいけない事があるんだよ」
俺の尻に蹴りを入れたあとカンナは、エルマの髪にドライヤーをあててキャッキャしている。
さて、風呂からあがった俺たち3人は、ガラスの瓶にシャンプーを詰め始めた。
「眠い……。コレは明日の朝ではダメなのか?」
異世界行き来ものの最初に何を売るか問題。
エルマちゃん曰く、白砂糖、胡椒、コーヒーなどはダンジョンから採れるらしく、ライターやマッチの代わりの魔道具も普及しているらしい。
だからシャンプーとコンディショナーなのか。
「詰め替えパックから瓶に入れるのめんどくさい」
と俺が言うと、カンナから睨まれる。
慌てた俺は
「なぁカンナちゃん、中学とか高校の時、部活やってた?」
「高校時代は軽音部だったけど、その前は柔道の道場とかに通ってたぐらいかな」
とカンナが返す。
「じゃあさ、夏場に麦茶とか飲まなかった?」
「飲んでた。水筒に入れたり、でっかいサーバーに作ったり……あっ!」
カンナの手が止まる。
「なるほど、あのサーバーをシャンプーの詰め替えに使えってことかぁ」
「そう。プラスチックの見た目を隠せば、向こうで瓶詰め出来るし、何なら量り売りも出来たりする」
俺の言う事をエルマに伝えるカンナは、何やらスマホの動画まで見せて伝えている。
「『何なのコレ、絵が動いてる⁉︎』って場面は、俺がいないところで済ませたわけか……」
「異世界人が驚く描写は後々ウザくなっていくんだけど、最初ぐらいはちゃんと体験したいよな」
「じゃあ、寝るか。明日の午前中に、ホームセンターに行ってドリンクサーバー買おうぜ」
と俺が言うと、すぐさまカンナが
「何言ってるの? アンタとエルマちゃんは、夜が明ける前にあっちに戻るのよ」
「何で? 明日ゆっくり帰ればいいじゃん」
と返す俺に、エルマが首を振る。
「夜のうちに帰宅してた事にしないと色々大変なのよ」
エルマがじっと俺を見ている。
「なるほど、未婚の若い女が突然消えたら問題あるもんな」
「しかも、ちょっと良いところのお嬢様だ」
「ならば夜明けより早めに戻って、不測の事態に備えた方が良さそうだな……」
「その前にウチまで送ってよ」とカンナが俺の漏れ出す思いに反応する。
「ほら、真夜中の街にうら若き女ひとり放り出すワケ? それとも、この部屋でアンタの帰りを待つの?」
などとカンナが上目遣いになったが
「柔道やってたんなら、見送りなんて必要なのか
?」
「なんてことは口にしちゃいけないんだよな」
「どうせ、どこからでもエルマちゃんの工房まで転移出来るんだから、送ってやろう」
「道中、現代日本に驚くエルマちゃんが見れるかもしれないし」
と俺が立ち上がると
「ちょっと待った。また着替えてくるわ」
とカンナがエルマを連れて脱衣所へ行く。
「女ってめんどくせー」
手持ち無沙汰になった俺は【収納】からアコギを取り出して、サカナクションの『新宝島』を歌い始めた。
「このまま君を連れて行くと♩」と歌っていると、
「私はあっちには連れていかれないからね〜」
と、村尾カンナの声が脱衣所から聞こえる。
カンナちゃんよ、そういうのはフラグというんだよ……。
「それでも君を連れて行くよ〜🎵」
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