第17話 カレーパーティー
「インド風スパイスカレー全盛の現代日本において、俺はその真逆の欧州風のカレーが好きだ」
「理想はファミレスのカレーフェアで出されるカレー。もしくは、ネカフェの安いカレー」
「刻んだニンニクと玉ねぎとニンジンと牛コマ肉の順に鍋に入れる。肉に火が通ったら、水を使わず湯むきしたトマトをぶっ込んで煮込む」
「あとは、カレールウとその半分の量のハヤシルウを入れて煮込んで終わり」
キッチンでカレー作りにのめり込む俺。
「どうせ余っても、収納すれば冷めないし腐らないのだ」
大きめの鍋いっぱいのカレーが、弱火のコンロによってぐつぐつと煮込まれていく。
換気扇から抜け出していく湯気が、夕方の街に広がっていく。
「さてと、カレーパーティのトッピングを作るか」
角切りにしたジャガイモやほうれん草、皮をむいてスライスした茄子をレンジで加熱する。
「ジャガイモは一緒に煮ると主張が強いからな。後入れするのが俺の主義なのだ」
切れ目を入れたウインナーをフライパンで茹で焼きして焦げ目を入れる。
炊飯器の限界の量で炊いたご飯を、今朝ホームセンターで買った紙皿に小盛りによそってすぐに収納して、またよそってを繰り返す。
「おかわり前提で小盛りによそうのが、カレーパーティの楽しみなのだよ。コレにトッピングを乗せてカレーをかける」
「あっそうだ、マヨネーズととろけるチーズ、生卵を準備せねば……」
「ただいまぁ」と玄関が開いて村尾カンナが戻ってきた。
レジ袋の中には注文通りのトンカツと唐揚げ、それにエビフライ。
「ごめん、エルマちゃんが空腹と溢れ出す興味で暴れ出しそうだったから、パフェ食べてきたわ……」
「なっ⁈ 晩飯がカレーパーティと知りながらか?」
俺の返答にカンナがテヘッて顔で舌を出すと、エルマも真似をする。
「余計な事を……って、なんかエルマちゃん綺麗になってる⁈」
「わかるぅ〜、駅ビルの化粧品コーナーでやってもらったわ」
とカンナ。
「服も小綺麗になってる。って、荷物は何処だ?」
「実は……エルマちゃんは【収納の腕輪】を持っていました。中に入ってる物の名前はわからないらしいけど」
カンナが続けて
「なのでラノベの定石通り、今夜はシャンプーとコンディショナーの詰め替えをします」
「うーん、なんか俺が進めたかった物語が勝手に進んでないか?」
「気のせい気のせい。そうよね〜エルマちゃん」
「mndjavdajm!」ってエルマの元気な返答。
「通じてねぇじゃねぇか」
という俺の声にテヘって舌を出す。
「かわいい……って、まぁいいか。カレーだよカレー」
惣菜パックの中から揚げ物を大皿に並べてちゃぶ台の中央にドンと置き、トングを添える。
ご飯がよそわれた紙皿を3皿収納から取り出し、自分用にジャガイモとトンカツを乗せる。
「おかわりする前提で小盛りにしてある。あまり欲張って乗せすぎないように」
「って、カンナちゃんの手を握るのも何だか慣れてきたな」
「このままお付き合い出来ないかなぁ」
カンナが「キモッ」っと言って素早く手を引いた。
エルマが笑う。
「……カレーをかけるからついて来い」
キッチンの鍋に列を作り、カンナとエルマの皿にカレーをかける。
丸いちゃぶ台の真ん中に揚げ物がつまれた大皿。ほうれん草、茄子、ジャガイモ、ウインナー、酢らっきょう、福神漬け、マヨネーズ、スライスチーズ、生卵。
そして、なぜか缶ビール。
ご丁寧にもエルマの分は蓋を開けてある。
さぁ食べようかという時になって、カンナが指輪を外して台の上に置いた。
「エルマちゃんに話したい事があったら、コレに触れながら話して。手を繋いだ状態でご飯を食べるのはムリだわ」
「切ないな」と言う俺と、それを無視して手を合わせて「いただきます」と言うカンナ。エルマもなぜか手を合わせて、その体勢のままカンナが食べるのをじっと見ていた。たが、匂いに釣られたのか恐る恐る自身もカレーを食べ始める。
エルマは、最初のひと匙を口の中に一口入れると目を大きく見開いた。そして俺とカンナの顔を見比べてもう一口食べて、モゴモゴと何か言う。
「美味しい。コレは何だ?」
俺が指輪に触れるのを待って質問するエルマ。
「カレーライスと言うのだよ。この国でトップクラスの人気の料理だ。その皿の上の揚げ物も一緒に食うと更に美味いぞ」
と俺が言うと、ひと匙の唐揚げカレーがエルマの口に運ばれる。
「目がデカいから、表情がわかりやすいな」
「でも、普通に美味しいよ、このカレー」
そう言うとカンナは一皿目を食べ終わり、おかわりと手を出してきた。
「ほう、チーズか」
カンナが温かいご飯にとろけるスライスチーズを裂いてのせる。
エルマが興味深そうに見ていたので、
「この国の人間は、あらゆるものにチーズをかけたがるんだ」
カンナも深く頷いた。
その後もおかわりを繰り返し、ちゃぶ台の上の大皿は空になる。
「カレーパーティって初めてだったけど、コレ楽しいね」
「ウチの家は兄弟が多かったからな……。誰かの誕生日はそれぞれの兄弟でトッピングを準備してこんな感じでパーティをするんだよ」
「自分の好きなものを繰り返し食べるか、新しい世界に挑戦するか……子供の性格や成長を見るのにピッタリのイベントね」
と言うエルマに、俺とカンナから「おー」と歓声があがる。
「そんな意味があったのか」
「エルマちゃん頭いいね」
と褒められたエルマが缶ビールを煽る。
「コイツって……酒飲んでいい歳なのか?」
と、俺は指輪に触らずにカンナに訊いた。
「さぁ、どうだろう?」
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