第19話 神社での願い事もダダ漏れ

 深夜1時。

 小舟町の俺の家から、狸橋の村尾カンナの実家まで。

 だいたい500メートルほどの、夜のピクニックである。


 バイパスのフラミンゴ餃子はまだ明るくて、その横のコインランドリーには人影も見える。


「肉と野菜を刻んだものを、小麦の生地で包んで焼くものよ」

「aoujdeva?」

「そうね、明日また来れたら夜ご飯に食べましょう」

「dtvdntjn!」


 という会話が聞こえるが、カンナがつけている指輪に触れていないのでエルマの言葉がわからないが


「また明日もエルマを連れて来なくてはならないのか?」


 俺の質問に


「それは当たり前よ。私とエルマはパートナーなんだから」


 カンナの言葉にエルマも頷いている。


「第一にのせいで、値段交渉やらセレブへのお世辞やらは出来ないアンタが、どうやって儲けるつもりなの?」


「うっ……俺の弱点を容赦なく突いてきやがって」


 カンナが俺の手を握ってくると、エルマが口を開く。


「あなたは私と荷物を運んでくれれば良いの。儲ける仕組みは私たちで考えているから」


 道中、カンナは儲けの出し方を俺に説明してくれた。


 まずはシャンプーとコンディショナーを売る。スキャナーを持ち込んで、錬金ギルドで元本をデジタル化し翻訳の指輪を量産する。貯まったあちらの貨幣で、宝石や【鑑定の指輪】なんかの魔法っぽいアイテムを買い、こちらの世界で売るか使うかして儲ける。さらにそれを元手にして……。


「完璧だな……。ところで俺の取り分は何割なんだ?」


「…………」


 俺の問いに明らかに目線を逸らす2人。


「その辺をちゃんと決めなきゃダメだろ」

「そもそも、この計画は俺無しでは回らないんだぞ?」

「まぁ確かに俺はコンビニだって一人では行けないけどさ〜」




「ねぇカンナ、あの森は何?」


 エルマが俺の声を無視して指差してカンナに訊ねている。


「あれは【小舟稲荷神社】よ。この地域の神様なのかな?」

「そう。この辺の人間は新年にお詣りしたり、夏に祭りをしたり、子供が大きくなったのを報告に来たりする」


 と俺の説明に、エルマは理解したかしてないか微妙な顔をしたので「行ってみたいか?」と聞くと、大きく頷いた。




 エルマが15〜6段の石段をはしゃぎながら登る。


「やっぱり、まだ子供なのかもしれないな」


「アンタが、見た目以上に歳なのかもしれないけど」


 とカンナは手すりを使わずに登っていく。


「俺はなぁ、朝からホームセンターで買い物をし、向こうでは何キロもの土の道を歩き、よくわからん人たちに捕まり絡まれ、何日か分のカレーを作り、そして真夜中、くそ眠い中石段を登ってる」


「じゃあ、神社は明日にすれば良かったのに」

 とカンナは口を挟むが


「異世界人の『こんなの初めて』っていうのを実際に見たいじゃないか」


 と俺が言うと、カンナが笑い出した。


「カンナちゃんは、夕方に二人っきりで散々味わっただろうけどさ……」


 村尾カンナはまだ笑っていて、それに気づいたエルマは石段の上から何事かとこちらを見ていた。




 境内は以外と明るい。


「ホームレスや、賽銭泥棒対策だろうな」


 手水場で手を洗った二人に、【収納】からタオルを出して渡す。

 3人並んで賽銭を入れて、夜中なので鈴をそっと鳴らし、拍手も控えめに参拝する。


「まずはそこそこ苦労せずにお金を稼げますように。次に可愛い何人かの嫁に愛されますように。さらにこの呪いが解けて心の声が漏れ出さない状況に戻りますように。そしてこの能力が両方の世界のヤバい奴らに見つかりませんように。ついでに今両脇にいる女から井口さんと名前で呼ばれますように。ついでに2人とスケベなことが……」


 と俺が願っている途中で、カンナから脇腹にパンチを喰らう。


「あんたの願いは全部ダダ漏れなんだよ」


 肩を掴む力が強い。


「言葉が伝わらないはずのエルマちゃんまで笑ってやがる……」




 拝殿の横の社務所には、御神籤や御守りを売る自販機があって、俺たちが近付くとぱちりと灯りが灯った。


 俺はカンナの手を握り、エルマに話しかける。


「コレは【御守り】っていう、こっちの世界の現担ぎのアイテムだ。たぶん、この神社の偉い人が願いを込めてひとつひとつ丁寧に作っている」


 俺の説明で、エルマが自販機を覗き込む。


「なぁ、エルマちゃん。コレを粉にしたら、なんか効果ありそうじゃない?」

「おいっ、流石にそれはバチ当たりだろう」


 とカンナは言うが


「神聖なものなら……効果はあるかも……」


 とエルマが不適な笑みを浮かべる。


 自販機は【ポンポコpay】が使えたので、深夜の境内に奇妙な支払い音が何度も流れた。




 神社の石段を降りてバイパスに戻る。

 深夜2時、春先の街はまだ肌寒い。


 その時、3人の背後から声をかけられた。


「君たち、ちょっといいかな」


 お馴染みの青い制服。

 警察官である。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る