第4話 捕虜と繋がれて
口に猿ぐつわをはめられて、トボトボと歩く。
黄色っぽい土の道は石畳や砂利敷なんてものは無く、馬車が通った後の轍と人間の足跡がはっきりと残っている。
縄で繋がった手枷をされて歩くのは、20人ほどの捕虜で、さっきまでの足枷は外されていた。
そして俺以外の男女は皆みすぼらしい格好で、揃って酷い臭いをさせていた。
同じ様に捕まった側の何人かが怪我をしているのだろうか馬車の荷台に詰められていて、やはり皆下を向いて黙っている。
見張りや引率の兵士は、馬に乗ったリーダーっぽい男と、歩兵が6人、それと馬車の御者が2人。武器に手を掛けて、皆周辺に目を凝らしている
危機的な状況だが、俺は落ち着いていられた。
まだ【転移】のクールタイムは明けないだろうが、【転移】の魔法が使えるだけで心に余裕が生まれるものだ。
ん? 今、このまま転移したらどの範囲まで転移出来るんだ?
さっきみたいに自分の体だけ【転移】できればいいだろうが、手枷までまとめて転移した場合、あちらでどうやって外せばいい?
さらに言えば同じロープで繋がった汗臭いコイツらまでまとめて飛んだら、一大事だぞ。
そうだ、まずは手枷を【収納】すればいいのでは? 飛ぶ直前に手枷を収納して、その後に転移だ。ちょっと待て。いきなり【収納】って使えるか?
試してみなければ。
さっき俺の口に布を詰め込んだ兵士が2メートルほど前にいる。
そいつの背中の肩掛けのカバンに集中して【収納】を掛けてみた。
しゅんと消えるカバン。あまりに自然すぎてヤツも気づいてない。笑える。
せっかくなので、どのくらい遠くまでいけるか確かめることにする。
5メートルほど先の道端の大きな岩が消えた。
さっきの兵士が見間違いかと目を擦っている。
先頭の弓兵の矢筒に入った矢も頂いた。
捕虜が乗ってない方の馬車の荷物も消してみる。
たぶんさっきの集落での戦利品の一部なのだろうな……。
収納の中に匂いが篭らないといいけれど。
さて、【転移】ができそうな気がしてきたので、手枷でも消してみようかな。
【収納】っと心の中で唱えると
手枷が収納された。
……ロープで連なっている捕虜の分も全て……。
次の瞬間、手が自由になった筋肉質の捕虜の男が、引率の兵士に襲いかかる。
さっき岩が消える瞬間を見ていたせいで兵士の注意が外向きになっていたこともあって、簡単に槍を奪われて首筋を横に斬られた。
派手に倒れる兵士。
他の兵士もこちらを振り返り、駆けつける。
弓兵は矢筒に矢が無い事に気付き何か声を上げると、その声に気付いた2〜3人の捕虜に殴りかかられる。
自分の矢が無いことを周りに知らせてどうする……。
槍を奪い取った男が2人目の兵士に襲いかかりガツンと押し倒すと、さっきの兵士と同じ様に首を掻き切った。
もしかして、装備に傷をつけない様にやってるのか?
槍の捕虜が速攻で3人目も同様に倒したころ、引率のリーダーの騎兵が剣を抜きこちらに迫る。
ヤバいな。槍の捕虜、気付いてないぞ。
俺は咄嗟に馬の進行方向にデカい岩を出してみた。
目の前に現れた大岩に驚き、急に横を向く馬と振り落とされる騎兵。
派手な音を立てて転がる剣が高価そうなので、ベルトに付いた鞘ごとこっそり収納する。
すぐに周りにいた捕虜たちが殺到した。
怪我した捕虜が乗った馬車は奪い返せたが、さっきまで略奪品が乗っていた方の馬車は逃げていく。
「oerayjvgta!」
何を言っているかはわからないが、先ほどとは逆に捕虜達が、命乞いをする兵士たちを囲み槍を向けている。
そして何故か俺もその輪の中の兵士に混ざって両手をあげている。
あぁ、勝手に味方だと思っていたけどさ、よくわからない言葉を喋り続ける変な服の人間は味方じゃないよな……と頭を掻くと、……あっ猿ぐつわしたままだったわ。
俺のおしゃべりを止めていた猿ぐつわが、シュンと音もなく消える。
目の前の元捕虜の1人が「jenfhucidjs!」と俺を指差して何か周りに伝えようとしているが
「わからん!お前らが俺を仲間扱いしてくれてたら、さっきの奪われてた荷物を返そうと思ってたけど、やっぱり貰っとくわ」
「でも、コレがラノベなら、『この時返さなかった荷物がその後のあの大騒動を起こす事になるのである……』なんて言われるんだよな」
「まいっか。ではさようなら。【転移】小舟町の俺んちの玄関へ! 」
次の瞬間、俺は現代日本に帰って来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます