第5話 無職の独りごと
「そういえば、玄関から出かけようとしてるところだった」
と現代日本に帰ってきた俺は玄関に、とんっと降りた。
「5センチくらいの高さから落ちた感じだな。バラエティ番組のロケ芸人がワープを多用するけれど、あの降りる感じがそのままなのが面白いな」
「しかし、俺の家も臭いな。もしかしたら、【健康な体】を貰っちゃったから匂いにも敏感になっているのか?」
玄関用のファブリーズを遠慮なく撒いて、手に持ったファブリーズを見つめる。
「【収納】、って消えたぞ。じゃあ、【ファブ】と言えば出てきた。マジか……!」
「って、思った事が口から出てるし。甘くねえな……心の中身がダダ漏れな呪いはこっちからあっちへの【転移】だけだったら……なんて甘い事思ってたけど、こっちでも口に出るのかよ」
靴を脱ぎ、半日ぶりに部屋に入る。
広さ12畳のワンルーム。3階南東向きの角部屋で南西向きの窓もある。
先月末までデパートで働いていた俺の、今月からの無職の自堕落な生活を送るために揃えた座椅子や大型テレビ。
「そうだ。食べ物が無くなったから買い出しに行こうとしてたんだった……。まだスーパーは開いてるよな……って大丈夫か俺? 今と同じダダ漏れ状態でスーパーなんかに行っちゃって、いつもみたいにレジのお姉さんのエッチな妄想なんて口から出ちゃったら捕まるよな……。でも、飯はどうする?」
と冷蔵庫と冷凍庫を調べるが、冷凍のスナップエンドウぐらいしか入っていなかった。
「食べ物の自販機ってこの辺にあったか? いや待て、ああいう食べ物の自販機って、キャッシュレス非対応なのが多いけど、今俺現金持ってたか?」
財布を漁るが、52円しか入ってない。
「あぁ、余計に腹減ってきた。食い物を持って来てくれる友達もいないし……って元カノの安部ましろを思い出した。外面の良いアイツのせいで、俺の周りから友達が居なくなっちゃったんだよな」
なんとなく財布を【収納】してみる。
意識の中に、収納に増えた品が目録化された。財布ポイントカードポイントカードポイントカードポイントカードポイントカード歯医者の診察券マイナンバーカード免許証ポイントカードポイントカード………52円。
「50円玉と1円玉×2って出るかと思えば、【52円】って出るんだな。……って事は、部屋の物を全部収納すれば、収納した目録に現金がいくらあるかわかるんじゃないか?」
「まずはクローゼットから。怪しいのは冬服だな。この辺の服、まとめて収納。次、スーツあたり。百貨店勤務時代に社割で安く買えてたイージーオーダーのスーツももう着る機会がないかもな」
「いー、じー、おー、だー、すー、つ!」
「声に出したくなる日本語」
「クローゼットの発掘は思いもしないトラブルに見舞われる事がある」
「この世界建築史もそうだ。一度ページを開くと……いかんいかん目的は小銭だぞ。今現在の金額は……」
「2362円、やりましたな。ついでだ、このクローゼットもキッチンも全部収納してしまえ。必要な時にだけ出せばいい」
と俺は調子に乗って収納を続けた。
テレビ、調理器具、本、筆記用具、掃除用品、食器、トイレットペーパー、高校の卒業アルバム、タブレット、シャンプーの詰め替えパック、靴、ゲーム機、ルーター……を収納したあと
「待てっ、こういう電化製品って、使う時にコンセントを差し直さないといけないんじゃないか……。うん、出しっ放しのままでいいな」
「げっ、エアコンや洗濯機を収納してたら、次取り出した時使えねぇよな。危なかった……罠だな罠」
と言いながら、ルーターを取り出してコンセントにプラグを差した。
「自販機、もしくは食べ物の無人販売店を探さねば……」
物が減ってスッキリとした部屋の南西向きの窓は、4月の夕暮れで赤く染まっている。
再起動するルーターに緑のライトが点滅している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます