5. あとは聞こえませーん
六花が扉の前から去り、校内も静かになった頃、ガラリと扉が開いた。
万華鏡の主が、脚立とカーテンを抱えている。イヤホンはポケットの中のようだ。
万華鏡は、待ってましたとばかりに、カタカタと揺れた。
彼はチラリと万華鏡を見やった。
「わかったってー。後でちゃんとメンテするから。先にカーテン」
カーテンを替えている間も、東堂は落ち着きなく机の筒に声をかける。
穴の中から光を放ちながら、万華鏡は自らを震わせると、彼はピク、っと首をすくませ、落ち着きなく脚立をガタつかせた。
「やめて、姉貴はマジ勘弁。またメニュー増やされる」
筒は倒れそうな勢いでぐらぐら揺れ、ちかちかと光った。
「ヤダよ、その細かいの取るの滅茶苦茶時間かかるし」
カタリと万華鏡が震える。
「ああいえ、やらせて頂きます。粒子も煤もぜーんぶ取りますよ。オイルもね」
カーテンを仕上げた彼は、ため息をついてイヤホンを耳に詰めた。
「へいへい、あとは聞こえませーん」
六花に何気なく言った『放っておくと拗ねる』、が見事に特大のブーメランになって戻ってきてしまったな。
東堂は困った顔をしながらも、へらりと笑った。
◇◇◇
陰陽師と対立する蘆屋道満。
その術を道具で支えた一族がいたことは、伝承に語られていない。
長年、悪しき術に使われ続けた道具は、やがて魂を宿し、幾度となく世界を混乱に陥れた。
歴史が連なる中、罪を悔うたその子孫は、
呪いを祈りに変え、邪気を祓い、罪滅ぼしとした。
いつしか『
現代に引き継がれた
まだ一つも力をものにしていない高校生。
道具の声が辛うじて聞けるものの、
肝心な時は聞こえず、こちらの意図していない時に喋り出す。
継承したのは、この壊れたラジオのような能力だけだった。
【霊具 其の一 万華鏡】
緑の糸で縫われた布で巻かれた万華鏡。
プロジェクターのように、空間の見た目を変える。
壊れると真っ暗闇を映し出す。
煌びやかな刺繍があしらわれているが、東堂曰く、手入れが面倒過ぎてついメンテをサボってしまう道具堂々の一位らしい。
「……メンテで一日潰れんだよ。まぁ、拗ねられると面倒だから、放っとけないんだけどね」
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